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ゴルゴ40の高校演劇用脚本置き場

高校演劇用の脚本置き場

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ラストクリスマスver.2

「ラストクリスマスver.2」 ゴルゴ40作 (上演時間55分)

【登場人物】♂椎野冬樹(しいの・ふゆき)・・・高校3年生。演劇部員。
      ♀星崎未唯(ほしざき・みゆ)・・・高校3年生。演劇部員。
      ♀岬詩子 (みさき・しいこ)・・・高校2年生。演劇部員。
      ♀吉田葉月(よしだ・はづき)・・・高校1年生。演劇部員。

☆小学校からの幼なじみで、高校でも一緒に演劇部員だった冬樹と未唯。お互いにひかれながら一線が越えられないでいる。高三最後のクリスマスイブ。部室でパーティーを、という事でやって来た2人は・・・

 2006年度呉地区高校演劇大会で創作脚本賞を受賞。 

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春、それぞれの・・・

 春、それぞれの・・・(上演時間45分)  

【登場人物】♀ ハラダユキ (高校3年生)
      ♀ ツルタサナエ(高校3年生)
      ♀ ナガイトモミ(高校3年生)
      ♀ イトウマサコ(下宿屋の女主人:通称オバチャン)

☆島の女子高生を下宿させてもう40年のイトウマサコ。橋が通って下宿生がいなくなり、今日は最後の3年生とのお別れパーティー。しかし全員卒業するわけではありませんでした。

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砂の城~彼女が僕に勇気をくれた

 砂の城~彼女が僕に勇気をくれた    

〔キャスト〕♂1人 ♀3人

♂ 谷口勇気・・・高校3年生

♀ 谷口勇気・・・小学生

♀ 母・・・・・・勇気♀の母

♀ 女・・・・・・魔女

     海の音。 
   開幕。  
     基本的に何もないゴミの散乱した秋の海岸である。
     上手と下手に1つずつ人1人腰掛けられる程度の小岩。
     中央には大きなダンボ-ル箱のゴミがある。
     上手から男子高校生がトボトボ歩いて来る。
     谷口勇気である。
     小岩に座って

勇気♂「あ-あ、とうとうこんな所に来ちまったか。」

     海の音。
     勇気♂時間を確かめて

勇気♂「そろそろ7時間目が始まる頃か。土曜が休みになっても7時間授業やられたんじゃ意味不明だよ。受験生は早退したくもなるよなあ。」

海の音。
     勇気♂あたりを見回すと腰を上げ

勇気♂「うわ、濡れちゃったよ、くそう。」

     勇気♂辺りのゴミを見ながら

勇気♂「それにしてもゴミだらけだ。
    海水浴客のマナ-が悪いんだよな。
    こんなダンボ-ルなんか海辺に捨てるか、普通・・・
    うわ、何か鼻がムズムズして来た。」

     勇気がクシャミをすると、箱の中から正体不明の恰好をした、年齢不詳の女が現れる。
     勇気♂少し驚く。

  女「呼ばれて、飛び出て、ジャジャジャジャ-ン!」

勇気♂「あ、あの・・・」

  女「あ-らごめんなさい。
    ビックリして腰を抜かさないでね。」

勇気♂「そんなにビックリしちゃいませんよ。
    どこ見てるんですか。」

  女「ハクション大魔王じゃないわよ。」

勇気♂「そんな事言ってません。」

  女「アクビだったら良かったのに。」

勇気♂「アクビ?」

  女「そう。
    そしたらアクビ娘という事で。」

勇気♂「何言ってんだかわかりません。」

  女「さすがに古かったか・・・
    あの、ちょっといいかなあ。」

勇気♂「僕、宗教には興味ありません。」

  女「ジョウレイって言うんですけど、あなたの血がキレイになるように、少しお祈りを・・・
    って、ちが-う!」

勇気♂「オウム真理教の新しい衣装かと思いましたよ。」

  女「ああ、あれ。
    オウムシスタ-ズとか、けっこうかわいい女の子が宣伝してましたよね・・・
    だから、違うんですってば!」

勇気♂「じゃあ一体何なんですか。」

  女「箱から出て来たのよ。
    呼ばれて、飛び出て、ジャジャジャジャ-ンって。」

勇気♂「ああ、あのゴミ。
    隠れてるのも大変だったでしょう。」

  女「そうよ。
    暑いし、臭いし、虫はいっぱいいるし、ってそんな事はどうでもいいの。
    この衣装を見て、ピ-ンと来ない?」

勇気♂「(首をかしげているが)ああ、わかりました・・・
    女子プロレスラ-。」

     照明が変わり音楽が流れる。

勇気♂「赤コ-ナ-。
    二百六十五パウンド、ダンプま-つもと-。」

     女、合わせてポ-ズを取っているが

  女「ちっが-う!」

勇気♂「誰もいない海岸で、秘密の特訓中とか・・・」

  女「どうせならキュ-ティ-鈴木に・・・
    じゃなくて、違うの!」

勇気♂「凶器なんか持ってないでしょうね。」

     女、チェ-ンを取り出し、バンバン叩きつけながら迫る。

勇気♂「ほら、やっぱりそんな物持ってる・・・」

  女「これはファッション!
    でも君がまじめに考えないんだったら、しばいたろうか?」

勇気♂「(後じさりしながら)あ、ロ-プ、ロ-プです。」

  女「こっちは真剣なんだからね。」

勇気♂「わかりました。
    よく考えてみます。」

     勇気♂しばらく首を傾けて考えているが、手を打って

勇気♂「今度こそ、わかりました。」

  女「わかった?(嬉しそう)
    言ってみて。」

勇気♂「はい。
    あの、売れないダンサ-。」

     照明が変わり、ダンスミュ-ジックが流れると 女ダンス(武富士ダンスとか)を踊り始める。(ビシッと決めてお客さんから拍手を貰うこと)
     照明、音、元に戻る。

  女「どうして、こうなるの!」

勇気♂「結構イケてますよ。
    誰もいない秋の海辺で踊って、ヤブ蚊に刺されまくっているダンサ-。
    確かそんなコマ-シャルなかったですっけ?」

  女「ない!(ダンスの後で息が荒い)
    もう、息が切れちゃったじゃない。」

勇気♂「基礎練不足なんじゃないですか。」

  女「仕方ないわね。
    ヒントでもあげようか。」

勇気♂「はあ、お願いします。」

  女「じゃあ、そこのダンボ-ルを抱えてみて。」

勇気♂「え-。
    何か汚いなあ。」

  女「(厳しい口調で)いいから早く。」

勇気♂「こ、こうですか。」

  女「よし。
    それじゃ、それを向こうに運んで来て。」

勇気♂「結構・・・
    重いですね。」

     勇気♂、ダンボ-ルを下手袖まで運ぶと戻って来る。

 女「ありがとう。
    それではヒントを・・・」

勇気♂「ちょっと!
    今のダンボ-ルは何だったんですか。」

  女「いやあ持って来たのはいいけど、どうやって処理しようか困ってたのよ。」

勇気♂「それだけ?」

  女「あ、お礼にあれあげるわ。」

勇気♂「いや、いりませんよ。」

  女「ホ-ムレスになったら役に立つわよ。
    遠慮しない、遠慮しない。」

勇気♂「だからいりませんって。」

  女「どうも話のわからない人ね。」

勇気♂「そりゃあなたです。」

  女「えっ!?」

勇気♂「あなたの話がわけわからないから、さっきから話が全然進まないじゃないですか。」

  女「まあまあ、劇ってこういう所が面白いんだから。」

勇気♂「面白くありませんよ。
    早くヒントを出して下さい。」

  女「はいはい。
    それじゃいくわよ。
    奥様は、と言えば。」

勇気♂「17歳、いや18歳だったかな?」

  女「どっちも違う!・・・
    え-と、そうだ!おじゃ、と言えば。」

勇気♂「おじゃる丸。」

  女「じゃなくって・・・
    おじゃま、ここまで言えばわかるでしょ。」

勇気♂「わかりました!
    おじゃマンガ山田君。」

  女「ちが-う!・・・
    え-と、え-っと、ドレミ。」

勇気♂「ファソラシド。」

  女「そうじゃなくって、その、昔ヨ-ロッパで、罪のない女の人がこれだって言われて火あぶりにされたという・・・」

勇気♂「ああ、あれ!」

  女「そう、それよ!」

勇気♂「マリ-アントワネット。
    いや、ジャンヌダルクったかな。」

  女「君、わざとボケてるでしょ。」

勇気♂「いえ、僕世界史とってないから・・・」

  女「仕方ないわね。
    これでわからなかったら、君日本人じゃない。
    私怒るよ。」

     音楽(おジャ魔女のテ-マとか)が流れ、女その場で踊って決めのポ-ズを取っているが、勇気♂呆れたように向こうへ歩き始めている。

  女「実は私、魔女なんです!・・・
    って、無視すんなよ!」

     女、勇気♂をつかまえて

  女「(息が苦しそう)ああ、しんど。
    ちょっとタイム。」

勇気♂「大丈夫ですか。」

  女「この劇間違ってるわ。
    なんで私だけダンスがあるの。(息が上がる)
    お前も踊れ!」

勇気♂「そんな無茶な・・・
    その程度で情けないですよ。
    ほら、あそこのお客さん。
    大変だなあって見てますけど、同情の目で見られてどうするんですか。」

  女「それでさ・・・(息が荒い)。」

勇気♂「いや、ホント大丈夫ですか。
    早くセリフ言わないと時間オ-バ-しちゃいますよ。」

  女「魔女なの!
    私、魔女なわけ。
    わかった?」

勇気♂「へえ、そうですか。」

 女「信じてないようね、谷口勇気君。」

     勇気♂、少しギクリとした様子。

  女「どうして名前を知ってるのか、って思ってるでしょ。
    心配しなくていいわよ。
    補導員とかじゃないから。」

勇気♂「僕、忙しいんですけど・・・」

  女「お昼からの授業サボってブラブラしてる高校生が、忙しいワケないでしょ。」

     勇気♂、諦めたように下手の小岩に腰掛ける。

勇気♂「一体、何なんですか、オバサン。」

  女「オバサン!?」

     女、激怒して勇気に詰め寄っている。

勇気♂「あ、すみません。
    え-と、オネエサン。」

  女「そうでしょ。
    勇気君、そんなに無神経だから女の子にふられるのよ。」

勇気♂「何言ってるんですか。」

  女「高二の時、塾で隣に座った女の子に勇気君は一目ボレしました。
    彼女の名前は安田瞳さん。」

勇気♂「ちょ、ちょっと。」

  女「あら、恥ずかしがっちゃって、カワイイ!」

勇気♂「そうじゃなくて、何でそんな事・・・」

  女「魔女だから、勇気君の事いろいろ知ってるのよねえ。」

勇気♂「なんか魔女って言うより、噂好きの近所のオバサンみたいな・・・」

  女「(せき払い)」

勇気♂「あ、オネエサンみたいな気がします。」

  女「瞳さんの、タレた目、アヒルのような唇、ちょっと茶色が入って天然パ-マの髪の毛、舌たらずで甘ったれたようなしゃべり方、全てが勇気君のストライクゾ-ンど真ん中でした。」

勇気♂「妙に細かいですね。」

  女「『谷口君、英語のテスト難しかったね。』
    『そうかなあ。何点あった?』
    『え-?』
    『教えてよ。』
    『50点しかなかったんだ。私もうショック・・・』
    『50点!?』
    『悪いでしょ。』
    『いやいや・・・まあ、今度頑張ればいいよ。』
     勇気君は30点でした。」

勇気♂「オネエサン、一体・・・」

  女「私さあ、魔女界では演技派で通ってんのよ。」

勇気♂「安田さんは、そんなバカみたいなしゃべり方じゃありません。」

  女「あら言うじゃない。
    ちょっとオ-バ-にしてるだけよ。」

勇気♂「オ-バ-にしないで下さい。
    ムカつきます。」

  女「しかし何と言っても勇気君が気に入ったのは、彼女が巨乳だった事。
    隣の席からチラチラ見える胸の谷間に勇気君はクラクラッと来たのでした。」

勇気♂「いや、それは・・・」

  女「違うの?」

勇気♂「好きに言って下さい。」

  女「塾が終わった帰り際、生まれて始めて告白しました。
    『安田さん。ぼ、僕と付き合ってくれませんか。』
    彼女はニッコリ笑ってオッケ-してくれました。
    塾の帰りはいつも一緒。
    休みのたびにデ-トもしました。
    毎日こんな気分でした。
    君の瞳は百万ボルト、地上に下りた最後の天使・・・(歌っている)」

勇気♂「あ、あの、お客さんの年齢層間違えてませんか?」

  女「顧問の創作だから少々我慢しなさい。」

勇気♂「そういう問題ですか。」

  女「そして、それは空に三日月の輝く真夏の夜の事でした。
    ド-ン!
    パカッ!
    花火大会を見に行った2人は、ついにド-ン!
    パカッ!
    以下放送禁止です。
    いよっ、この色男!」

     女が背中を叩くが、次第に元気をなくした勇気♂は下を向いている。

  女「しかし、幸せな日々はいつまでも続きませんでした。
    3年になると、彼女が言ったのです。
    『谷口君。私たち受験生だから、大学に合格するまでしばらくこういうお付き合いは控えた方がいいと思うの。』
    それを聞いた勇気君は、動揺し、一番の親友の坪田君に相談したのです。
    坪田君はこう言いました。
    『お前彼女が出来てから成績がガタ落ちじゃないか。彼女はそれを心配してるんだよ。』
    勇気君はハッと気付いて、彼女の言う通り潔く身を引いたのでした。
    ところが、ところが・・・」

勇気♂「もういいです。
    やめて下さい・・・」

  女「そう、彼女は別の男の子と付き合い始めていたのでした。
    しかも相手は、あの坪田君。
    坪田君と瞳さんが仲良く歩いているのを目撃した勇気君は、頭の中で何かがガラガラと音を立てて崩れていくようなショックを覚えていました。」

     女、ゲッソリと落ち込んでいるような勇気をはげますように

  女「それが昨日だったのよね・・・
    まあ、元気出しなさいよ。
    女の子なんか星の数ほどいるんだから。」

勇気♂「あのさあ・・・」

  女「坪田君の弁解するわけじゃないけど、勇気君には言えないわよ、そりゃ。」

勇気♂「横取りするか、普通・・・」

  女「もうわかってるだろうけど、坪田君が横取りしたんじゃないのよ。
    瞳さんの方から、まあ相手を変えたって事で・・・」

勇気♂「そうだろうさ。」

  女「いや、こう言っちゃ何だけど、坪田君いい男だもんね。」

勇気♂「ああ。
    背が高くて恰好もいいし、勉強も出来るし、スポ-ツも得意だ。
    それに何より、僕より性格がいい・・・」

  女「そりゃ私でも君よりは坪田君の方が・・・」

勇気♂「あなた、僕にけんかでも売ってるんですか?」

  女「あら、ごめんなさい。
    客観的事実を言っただけよ。」

勇気♂「だから、なおさら腹が立つんじゃないですか。」

  女「ところで、これで信じてもらえました?
    私が魔女だって事。」

勇気♂「わかったよ。
    坪田が僕を裏切ったんだ。
    もう何が起こってもおかしくない気がする。」

  女「ねえねえ、私いくつだと思う?(ポ-ズを取る)」

勇気♂「魔女の年ですか?
    え-と、ハタチくらいかな・・・」

  女「さっきオバサンって言ったくせに・・・
    ふうん、やっぱり人間の30代に見えるんだ、私って。」

勇気♂「僕何も言ってないですよ。」

  女「実は少しだけ心が読めるのよね、魔女だから。
    で、ビックリしないでね、私今年で三千七百七十六歳なの。」

勇気♂「数字がインチキくさいな・・・」

  女「どうして?」

勇気♂「だって、それ富士山の高さでしょう。
    富士山のようにミナナロウって覚えましたよ。」

  女「疑ってるな?」

勇気♂「そりゃそうです。」

  女「そんなに疑うんだったら、もう少し勇気君の事、バラしちゃうわよ。」

勇気♂「オバ、じゃなかったオネエサン。
    異常に派手な探偵か、もしかしてドッキリカメラですか?」

  女「だから魔女だと言ってるでしょ。」

勇気♂「だったらホウキで空でも飛んで見せて下さい。」

  女「ああ、あれは同じ魔女でも位の低い魔女なのよ。
    ほら宅急便のバイトしたりしてるでしょ。
    パ-トみたいなもんね。」

勇気♂「パ、パ-トですか?」

  女「そうよ。
    私は本雇いだからね。
    この制服もちゃんと支給してもらってるし。」

勇気♂「それが制服なんですか。」

  女「三千歳過ぎたら辛いものがあるけどね。」

勇気♂「ふだんはどうやって生活を?」

  女「そりゃ5時まで働いて、ス-パ-で買い物して・・・」

勇気♂「そこらのオ、オネエサンと変わりませんね。」

  女「それから帰って、炊事、洗濯・・・
    ダンナがボンクラで役立たずだから大変なのよ。」

勇気♂「もしかして、子供もいるとか。」

  女「そうなのよ。
    これが高三と中三で、同時に受験なんでお金がいくらあっても足りゃしないわ。」

勇気♂「本当ですか?」

  女「嘘に決まってるでしょ。」

勇気♂「な、何で嘘つくんですか!」

  女「あんまり浮世離れしてると勇気君に怪しまれるかなって。」

勇気♂「十分怪しいですよ。」

  女「あらそう?」

勇気♂「見るからに普通じゃないです。」

  女「そっかあ・・・
    でも、魔女だって事はわかったでしょ。」

勇気♂「いえ、ますます信じられなくなりました。」

  女「ひっど-い・・・
    信じてくれなきゃ、私泣いちゃうから!(泣いている)」

勇気♂「やめて下さい。
    変に思われるじゃないですか。」

  女「嘘泣き-。」

勇気♂「もうあなたの言う事は信じません。(去ろうとする)」

  女「待ってよ、お兄さん。
    サ-ビスするからさあ。」

     勇気♂振り返る。

  女「若い子もいっぱいいるわよ。
    もうピチピチの、巨乳ぞろい・・・」

     勇気♂呆れた様子。

  女「冗談よ。
    冗談だってば。」

勇気♂「失礼します。」

  女「魔女を怒らせると怖いわよ。」

     女、下から何か拾いぶつぶつ呪文を唱えて勇気の頭めがけて投げる。

勇気♂「あ痛っ!」

  女「ふっふっふ。
    魔女の呪いよ。」

勇気♂「石投げたんじゃないですか。」

  女「私は何もしていない。
    ただ頭が痛くなる呪文を唱えたのだ。」

勇気♂「あのねえ・・・」

  女「次は死に至る呪文を唱えるぞ。」

勇気♂「わかったから危ない事しないで下さい、まったく。」

  女「私は人の生命を司る魔女。
    命が惜しかったら、私の話をよく聞くことね。」

勇気♂「もう少し説得力のある説明は出来ないんですか。」

 女「勇気君が学校をサボってここに来たのはなぜ?」

勇気♂「知らないよ・・・」

  女「今日帰って来た模擬試験の結果がショックだったんでしょ。」

勇気♂「そ、その程度で学校サボったりするもんか。」

  女「いいえ、大ショックだったのよね。
    瞳さんとの交際を諦めた勇気君は、その分一生懸命勉強しようと決心しました。
    『大学に合格したら、又お付き合いしましょう。』
    その言葉を真に受けて・・・
    ああ、かわいそうな勇気君。
    合掌。」

勇気♂「合掌なんかしないで下さい。
    縁起が悪い。」

  女「しかし、瞳さんに夢中でいつの間にか落ちていた勇気君の学力は簡単には上がりませんでした。
    あせりと、自分自身の能力に対する疑いが頭をかすめます。
    夏休み、勇気君は自分でもビックリするくらい勉強に打ち込みました。
    あまりにも勉強し過ぎて鼻血を大量に出し、それが口に詰まって倒れて、お母さんが心配した程でした。そして夏休みが明けて1回目の模擬試験。その結果が今日帰って来たのでした。」

勇気♂「だから言ったでしょう。
    模試が悪いなんて、みんな悩んでる事なんだから・・・」

  女「半分見栄で書いてみた東大はもちろん、本命の国公立大学の判定は全てE。
    志望校の見直しが必要、と書いてありました。」

勇気♂「うるさい。」

  女「行くつもりがなくて、書いた事のなかった私立大学も書けるだけ書いてみました。
    この程度なら滑り止めというつもりで書いた所も、全て結果はE判定。
    しかし、2つだけEでない判定がありました。
    それは『志望校欄は全て埋めろ』と強制する担任の先生に対する反発と冗談で書いた、2人のお姉さんが通っている女子大と女子短大でした・・」

勇気♂「ははは。
    ははははは。」

  女「今勇気君は、自分自身のおろかさに腹を立てています。
    冗談のつもりが冗談にならない自分に・・・」

勇気♂「もういいでしょう。
    僕、学校に帰ります。」

  女「もう終わってるわよ。」

勇気♂「じゃあ塾に。」

  女「行く気ないくせに。
    瞳さんと坪田君、同じクラスなんでしょう?」

勇気♂「魔女だか何だか知らないけど、もう用はないよ。」

  女「私の方があるのよ。
    待って、そっちは反対の方向でしょ。」

     勇気♂が下手に歩いて行き、女は慌てて後を追い一緒に退場。
     上手から小学生高学年くらいの女の子(勇気♀)が、母親の手を引っ張って登場。

勇気♀「ママ、早くう。」

  母「勇気、ここはもう寒いわよ。」

     勇気♀、母の手を離して小走りになるが、母が、きつく叱る。

  母「勇気!
    走っちゃ駄目!」

     勇気♀走るのをやめ、しゃがみ込むと手で砂をいじり始める。

勇気♀「わあい。
    お砂がいっぱい・・・」

  母「しょうがないわね。
    どうしてもここがいいの?」

勇気♀「うん。
    だって勇気、海が大好きなんだもん。」

  母「もう寒いから誰もいないじゃない。」

勇気♀「平気よ。
    勇気、今日もここで遊ぶ。」

  母「ママはお買い物に行ってすぐ戻って来ますからね。
    ここで遊んでるんですよ。」

勇気♀「うん。」

  母「何かあったらママの携帯に電話しなさい。」

勇気♀「わかった。」

     母が上手に去るのと入れ違いに勇気♂と女が入って来る。
     入ってすぐの所で立ち話

  女「話、わかった?」

勇気♂「ちょっと整理させて下さい。
    つまり、僕の命と、その女の子のとが、逆になりそうだと・・・」

  女「そうなの。
    だから、勇気君このままじゃかわいそうかな、と・・・」

勇気♂「さっきはそう言ってませんでしたよ。
    自分のミスが閻魔大王にバレると困るって。」

  女「結果的には勇気君が助かるわけだから。」

勇気♂「まったく、そんな大事な事間違わないで下さいよ。」

  女「紛らわしいのよ。
    どっちも谷口勇気で漢字まで同じなんて。」

勇気♂「僕は高校生の男。
    その子は小学生の女の子なんでしょ。」

  女「パソコンに入力するのに1行違いだから、つい間違えちゃって。」

勇気♂「パソコン?」

  女「そうなのよ!
    魔女界もIT革命でさ、昔みたいに人の命ロウソクが尽きたら終わり、なんて時代じゃないのよね。」

勇気♂「それは初耳です。」

  女「毎日毎日、人の余命をパソコンで入力するってのも、しんどいものがあるのよ。
    だから余命1年もないその子とあなた、1行ずれて間違えちゃったわけ。」

勇気♂「そんなので殺されちゃ、しゃれになりませんよ。」

  女「三千歳過ぎると、新しい機械に慣れるのも大変なのよね。」

勇気♂「変な言い訳しないで下さい。」

  女「まあとにかく、下手すると君1週間後には自殺する事になるんだから・・・」

勇気♂「で、それを防ぐために、その子を説得しろと。」

  女「ほら、あの子よ。
    お母さんが買い物に行ってる間に、声掛けて来て。」

勇気♂「いや、でも・・・」

  女「今日の所は知り合いになるだけでいいから。
    さあ、早く。」

     尻ごみしている勇気♂を、女押すようにして勇気♀の所へやる。
     女は小岩に座る。

勇気♂「こ、こんにちは。」

勇気♀「こんにちは。(ニッコリ笑う)」

     勇気♂、オドオドと女の所に戻って来る。

  女「何やってるのよ。」

勇気♂「いやあ、すごくかわいい子なんで・・・
    ちょっとドキっと。」

  女「あのねえ、相手は小学生よ。」

勇気♂「僕が大学卒業して社会人になる頃には高校生か・・・
    十分射程距離だ。」

  女「何言ってるの。
    1年後には確実にどちらかは死んでるんだから。」

勇気♂「とても信じられません。」

  女「わかった。」

     女、その場を去るフリ

  女「勇気君が本気にしないんだったら、もういい。
    閻魔様に怒られるくらい、どうって事ないし。」

勇気♂「僕が自殺するなんて、思えないんですよ。」

  女「だから、もういいって。
    助かる確率の方が高いんだし。」

勇気♂「待って下さい。
    やりますよ。
    まずあの子と友達になればいいんでしょう?」

  女「早くしなきゃお母さんが戻って来るわよ。」

     勇気♂、勇気♀の所に再び行く。

勇気♂「こんにちは。」

勇気♀「さっき言ったよ。」

勇気♂「あ、そうだね。」

     気まずい間

勇気♂「ね、ねえ、お名前は?」

勇気♀「谷口勇気。」

勇気♂「ホント?
    凄い偶然だね。
    お兄ちゃんも、谷口勇気って言うんだよ。」

勇気♀「お兄ちゃんって、悪い人?」

勇気♂「え?
    どうして?」

勇気♀「ママが言ってた。
    知らない人と話してはいけません。
    なれなれしく話して来る人は悪い人だからって。」

勇気♂「お兄ちゃんは悪い人じゃないよ。」

勇気♀「でもママが・・・」

     勇気♂、勇気♀の気を引こうと思って、面白い顔をしたり動きを見せたりする。
     不思議そうに見ていた勇気♀笑い出す。

勇気♂「ほうら、お兄ちゃんは悪い人じゃないだろう?」

勇気♀「悪い人じゃないけど、バカな人みたい。」

勇気♂「バ、バカ?・・・」

勇気♀「もっと面白い事やって。」

勇気♂「しょうがないなあ。(バカなフリ)」

勇気♀「キャハハハハ。」

勇気♂「(ボソリと)情けないなあ・・・」

勇気♀「ねえ、お兄ちゃん。
    一緒に作って。」

勇気♂「え、何を?」

勇気♀「お砂でお城作ってるの。」

勇気♂「そうか。
    じゃあ、お兄ちゃんも手伝ってあげるよ。」

勇気♀「ありがとう。」

勇気♂「あのう、勇気ちゃん。」

勇気♀「なあに?」

勇気♂「ここさあ、波が来て崩れちゃうから、もっと向こうで作ろうよ。」

勇気♀「ううん。
    ここがいいの。
    だって波まだあそこだよ。」

勇気♂「いや、だから潮が満ちて来るから・・・
    ま、いいか。」

勇気♀「ねえ、早く手伝ってよ。」

     2人で砂の城を作っている。

勇気♀「うわあ、すごく大きいのが出来た。」

勇気♂「そうだね・・・
    だけど、そろそろ波が・・・」

     波の音。
     勇気♂、迫って来る波から城を守ろうとしているが

勇気♀「あっ!」

勇気♂「やっぱり駄目だ・・・」

勇気♀「勇気のお城、崩れちゃった・・・(シクシク泣き始める)」

勇気♂「困ったなあ・・・
    ねえ勇気ちゃん、泣かないで。
    又作ってあげるから。」

勇気♀「ホント?」

勇気♂「ああ、今度はもっと大きくて立派で、崩れたりしないのを。」

勇気♀「やったあ!
    約束してくれる?」

勇気♂「もちろんだよ。
    そうだ、もっと向こうに作れば、波が来ないから大丈夫だよ。」

勇気♀「嫌。
    勇気、このお岩の所が好きなの。」

勇気♂「でもなあ。」

勇気♀「お兄ちゃんが、崩れないお城作ってくれるって、言ったもん。」

     上手から母が戻って来る。

  母「勇気ちゃ-ん。」

勇気♀「あ、ママだ。」

     勇気♀、立ち上がって母の所に行く。
     母、勇気♂の方を不審そうに見ている。

勇気♂「あ、あの、こんにちは。」

勇気♀「ママ。
    このお兄ちゃんが遊んでくれたんだ。」

  母「そうですか・・・
    じゃ、お兄ちゃんにバイバイって。」

勇気♀「バイバ-イ。」

     勇気♀は手を振っているが、母は軽く頭を下げると、勇気♀の手を引っ張って去る。

熊ノ井えれじい~夜霧に消えたジョニー

 熊ノ井えれじい~夜霧に消えたジョニー

 ☆登場人物

 熊田洋子(老女ー芸名オードリー)

 熊野春美(老女ー芸名ジュリア)

 熊崎好恵(老女ー芸名キャサリン)

 鹿川哲哉(青年)


     オレンジ色に染まった薄暗い小学校の帰り道。
     学芸会についておしゃべりしている仲良し3人組。

洋子「好恵ちゃんはええなあ。」

好恵「そんなことないよ。」

春美「主役やもんな。」

洋子「春美ちゃんかて役があるやろ。」

春美「役言うても馬の足やで。
ホンマ好かんわ、あのセンセ。」

好恵「馬の足かて大切な役や、言うて熊沢センセ言うてはったよ。」

洋子「出れるだけええやないの。
   うちなんか、ナレーションやで。」

春美「その方がよっぽどカッコええわ。」

好恵「あれは一番頭のええ子がやるんよ。」

洋子「ウチ勉強なんか出来んでも、お芝居に出たかったな。」

春美「何やったっけ?
   オード・・・」

洋子「オードリー・ヘップバーン。」

春美「そう、そのヘバーンや。
   洋子ちゃん、めざしとるんやもんな。」

好恵「なれるよ、きっと。
   洋子ちゃんやったら。」

洋子「学芸会でも役もらえへんのに。」

春美「ホンマ好恵ちゃんはええなあ。
   それにー。」

洋子「そうそう。」

好恵「な、何よ。
   その言い方。」

春美「相手役は熊本君やし。」

好恵「それがどうかしたの?
   関係あらへん。」

春美「おっと、照れとる、照れとる」

好恵「もう知らん!」

洋子「好恵ちゃん、どこ行くのー。」

春美「好恵ちゃーん。」

洋子「(笑いながら)帰ろっか。」

     好恵が上手、春美と洋子が下手に消えると、まぶしいまでの陽光が射し込み、そこは50年以上たった熊ノ井老人集会所の1室である。
     なぜか石原裕次郎の「夜霧よ今夜もありがとう」が流れている。
     小さな長机と古びた戸棚があり、床の間にはハリボテの熊(ジョニー)が置いてある。
     ジョニーは人目がないと動く不思議な熊で、今も音楽に合わせて変な踊りを踊っている。
     すっかり老人になった春美と洋子がやって来るとジョニーは動かなくなる

春美「今日は暑いな。」

洋子「ホンマやね。」

春美「あら、好恵ちゃんは?」

洋子「もう来とるはずやがの。
   好恵ちゃーん。」

好恵「おるよー。」

     奥から好恵が出て来る。
     奥には簡単な台所やトイレがある。

春美「何や、オシッコか。」

好恵「嫌やわ、恥ずかしい。」

春美「ちゃんと手えあろうたか?」

好恵「そんなん、忘れるはずあらへんよ。」

春美「おお、ジョニー、元気やったか?」

     春美、ジョニーの顔をなでているが

春美「しもた!
   わてもさっきトイレ行ったとき、手え洗わへんかったかも知れん。」

洋子「あんたまでボケ始めとるんと違うか?」

春美「手え洗うて来るわ。」

洋子「困ったもんやな。(ジョニーの顔をハンカチで拭く)」

好恵「うち、トイレ・・・」

洋子「好恵ちゃん?」

好恵「いや、何でも・・・」

洋子「この頃具合はどうね?」

好恵「まあぼちぼちやね。
   別にいのちに別はあらへんしな。」

洋子「そらそうやがな。」

春美「いや、やっぱり手は洗うたな。」

洋子「何や、手洗うて来たんと違うんか?」

春美「間違いなく洗うたもんを、もっかい洗うわけにはいかん。」

好恵「春美ちゃんらしい理屈やね。」

洋子「はいはい。
   それじゃ早いとこ本読みやりまっせ。」

     洋子、複写して来たらしい脚本を配る。

春美「夜霧に消えたジョニー。
   相変わらずワンパターンのタイトルやな。」

好恵「ええやないの。
   素敵なタイトルやわあ。」

春美「で、わてがジョニーでええんやな。」

洋子「そら、この熊はしゃべれへんからな。
   そんで好恵ちゃんはいつも通りのキャサリンや。」

春美「よっしゃ、行こ。」

洋子「昼下がりの銀行。
   怪しげな格好をしたジョニーは、受付嬢のキャサリンに名前を呼ばれる。」

好恵「熊野さーん。」

春美「はいよー。」

洋子「春美ちゃん、あかんで。」

春美「はあ?」

洋子「そこはセリフないやろ?」

春美「いや何か返事せんのは無礼かのうと。」

好恵「つまらんこと気にする銀行強盗やね。」

洋子「それにジョニーは、はいよー、とは言わんで。
   そらあんた、そこら辺のオバンや。」

春美「そこら辺のオバンで悪かったな。
   そんじゃまあ、イエッサー!ちゅうのはどやろ?」

洋子「あんたなあ、そこで余計なこと言わんといてくれんか?
   ジョニーは無口でシブイ男なんやで。」

春美「へえへえ、そういうもんでっか。」

好恵「役になり切らな、あかんよ。」

洋子「じゃ、もっかい同じとこ行くでー。
   昼下がりの銀行。
   怪しげな格好をしたジョニーは、受付嬢のキャサリンに名前を呼ばれる。」

好恵「熊野さーん。」

春美「(顔をしかめてこらえている)・・・」

洋子「春美ちゃん、我慢や。
   我慢するんやで・・・
   ジョニーは無言で窓口にやって来ると、懐から拳銃を出した。」

春美「手を上げろー。
   金を出せー。」

洋子「はい、キャサリン手え上げて。
   ジョニーも拳銃出すフリしてしゃべりい。」

春美「手を上げろー。
   金を出せー」

洋子「ジョニー。
   男の哀愁出してくれへんか?」

春美「手を上げろー。」

洋子「あんな、なんでそない間延びすんのや。
   もっとビシッと強盗らしゅう出来んか?」

春美「やっぱわてには男の役は無理でっせ。」

洋子「今さら何言うてんねん。
   あんたがやる言うたんやろ、ジョニーの役。」

春美「わては情熱の女ジュリアが適役やさかい。」

洋子「ジュリアでもジョニーでも似たような名前やがな。」

春美「無茶言いよるな。」

好恵「洋子ちゃん、もう手下ろしてもええかね?
   うちゃあ手が疲れたわ。」

洋子「かまへんで。
   あんたも状況見たらわかるやろに。」

好恵「うち、洋子ちゃんと違うてアホやさかい。
   それにこの頃ボケとるし・・・」

春美「お互い若い頃のようにはいかんで。」

洋子「はあ・・・」 

好恵「疲れましたな。」

春美「お茶にせえへんか?
   わてが入れて来るさかい。」

好恵「すんませんのう。」

洋子「どうせ春美ちゃんは、魂胆があるんやろ。」

春美「へえへえ、洋子ちゃんは何でもお見通しやな。」

洋子「何もなければ、あんたが自分から動くわけがない。」

好恵「相変わらず洋子ちゃんは春美ちゃんにはきついの。」

洋子「あれくらいでちょうどええねん。」

春美「好恵ちゃーん。
   あんた湯わかしとったんかー?」

好恵「すまんなー。
   すっかり忘れとったわー。」

洋子「好恵ちゃん。
   あんた・・・」

好恵「うちホンマは全然覚えとらへん。
   湯なんかわかしたかねえ?」

洋子「ごめんな。
   うちも気を付けとらな、あかんかったのにな。」

好恵「やめてよ。
   何で洋子ちゃんが謝るん?」

     春美がお盆の上に湯飲み2つ、缶ビール1本、菓子折1つを載せて戻って来る。

春美「火事になるとこやで。
   電動ポットにしとるんやから、湯はわかさんでええんやに。」

好恵「すまんなあ。
   どうもここ来ると湯をわかすのがくせになっとるみたいで・・・」

春美「いや、いっつもあんたにはねまかしとったわてらもいけんのやがな・・・
   それから、この菓子折もあんたのやろ?」   

好恵「そうや。それも忘れとったわ。」

春美「そうやろ思て、茶と一緒に持って来たで。」

洋子「春美ちゃん、ちゃっかりしとるな。」

好恵「珍しやろ?」

春美「もみじまんじゅうでっか?」

洋子「うちらに気い使わんでもええのに。」

春美「菓子ならまだ買い置きがあるはずや。」

好恵「孫息子が戻って来ての。
   土産や言うて。」

洋子「春美ちゃん。
   昼間っから飲むんね?」

春美「はあ先は長うないんやさかい、好きなもん食べて飲まにゃ損でっせ。」

好恵「そうやねえ。
   人間死ぬときゃ呆気ないもんやからね。」

春美「そやろ?」

     老女たちお茶やビールを飲み、まんじゅうをつまみながら

洋子「お孫さん言うて?」

好恵「ああ。
   ケンジの方よね。」

春美「広島へ出とられてんかいな?」

好恵「いやいや広島へ出とるのはカズシや。
   ケンジは大阪やわ。
   ありゃ?
   どっちでしたかの、洋子ちゃん?」

洋子「もみじまんじゅうは広島やろな。」

春美「洋子ちゃんとこはどうやったかいな?」

洋子「うちとこは女の子ばかりやさかいな。
   一番上のが高校生やし、皆熊ノ井におりますで。」

好恵「春美ちゃんとこもお孫さんがこっちにおって、ええね。」

春美「龍太郎やで?
   あがなボンクラおってもらわんでええがな。」

好恵「そら贅沢言うもんよ。
   男の子はたいていよそに出て帰って来えへんのに。」

洋子「そうそう。
   うちとこは本家やさかい、男の子が欲しいんやけどな。」

春美「ムコ養子もらやあ、ええやろ。あんたとこは、山持っとってんやさかい・・・」

洋子「熊が出るような山ん中に来てくれる物好きは、なかなかおらへんからなあ。」

春美「それにあんたとこのサキちゃんはごっつう別嬪さんやからな。
   あんたとちごうて。」

洋子「余計なお世話や。」

好恵「お互いうまくいかんもんやね。」

春美「まあ年寄りが気を揉んでもしょうがないがの。」

洋子「そらそやな。」

     好恵と洋子は茶をすすり、春美は缶ビールを豪快にあおる

春美「ぷはあ。」 

好恵「年々さびしゅうなりますの。」

洋子「若い衆は皆出てくからの。」

好恵「そやから春美ちゃんとこの龍太郎君はええんよね。」

春美「そうは言うても、悪さばっかりする子やさかいな・・・」

好恵「はあ落ちついとってんでしょう?役場に勤めとられるんやし。」

春美「高校も出とらんのに・・・
   まあ、ここだけの話やけど、うちのお父ちゃん役場には多少顔が利くさかい、かなり無理お願いしてなあ・・・
  (指で輪を作って見せる)」

洋子「多かれ少なかれ皆やっとることやからな。」

好恵「それにそろそろ生まれてんでしょう?
   春美ちゃん、初ひ孫やないの。」

春美「それやがな。
   全く結婚もせんこうにはらませよって、えらい恥さらしや。
   先方さんの親も怒鳴り込んで来よってな・・・」

洋子「ちゃんと責任とったんやから、立派なもんや。」

好恵「若いんやから、いろいろあるよね。
   おかげで熊ノ井に残ってくれるんやしね。」

洋子「まあ龍太郎も、子供が出来りゃあそうそう悪さも出来んやろうしな。」

春美「そうならええんですがの。」

好恵「ジョニーさんかて、昔は悪かったやないね。」

春美「まあなあ。」

洋子「今やから言うけど、うちゃあ、昔ジョニーさんに、その、されたことがあってな。」

春美「あんたも急に凄いこと言わはるな。」

好恵「洋子ちゃん、何されたって?」

洋子「何をて・・・
   キッスやがな。
   言わさんといて、こっぱずかしい。」

春美「あんたが勝手に言い出したんやがな・・・
   何やキッスかいな、つまらん。」

洋子「何やと思たねん?」

春美「そらあれに決まっとろうが。」

洋子「恥ずかしいこと言うオバンやな、年甲斐もない。」

春美「何やて!」

好恵「まあまあ。
   うち、あんたらが何でけんかしとるんか、ようわからん。」

洋子「けんかやおまへんで。」

春美「まあ、コミミケーションちゅうやつやな。」

洋子「それを言うならコミュニケーションやろ。
   耳がこまいんか、このドアホ!」

春美「ツバ飛ばさんといてくれるか?
   入れ歯がくさいからな。」

好恵「まああんたらホンマに仲がええな。」

洋子「それは違うで!」春美「それは違うで!」

好恵「息までピッタリやがな。」

     皆笑っている

春美「何の話やったかな?」

好恵「洋子ちゃんが、ジョニーさんにキッスされた話や。」

春美「そやったな。」

好恵「せやけど、うちもされた覚えがあるわあ。」

洋子「あんたもか?
   まあ、ジョニーさん、熊ノ井の種馬と言われとったからなあ・・・」

春美「わては何もされた覚えがないがの。」

洋子「ジョニーさんは面食いやったからな。」

春美「どういう意味や!」

好恵「洋子ちゃん、ジョニーさんは面食いやないよ。あんたにも手え出したんやろ。」

洋子「あんたも意外ときついこと言うな・・・」

春美「わてだけ仲間外れかいな。
   何ぞおもろないな。」

洋子「春美ちゃんは、はように結婚しとったからよね。」

好恵「そうやね。
   なんぼジョニーさんでも、人妻じゃあ・・・
   ありゃ?」

春美「どないした?」

好恵「うちゃあ、あの時結婚しとったような・・・」

春美「それはないで。
   さすがに。」

洋子「好恵ちゃんは、この頃よう物を忘れてやさかい・・・」

好恵「ジョニーさん・・・
   ええ男やったねえ・・・」

洋子「年を重ねるたびに渋味が増してなあ。」

春美「確かにこの頃じゃ渋過ぎてどくだみ茶並みになっとったな。」

好恵「もうああいう人は出んやろねえ。」

春美「せやから、わてにはジョニーさんの替わりは勤まらんと思うねん。」

洋子「ジョニーさんがおっちゃったらのう・・・」

好恵「ジョニーさんのおられん劇団熊ノ井じゃねえ・・・」

春美「ちょっとあんたら、何暗うなってんのや。
   うちが悪いんか?」

好恵「ごめんな春美ちゃん。
   せやないで。」

洋子「ジョニーさんの穴は大きい、思てな。」

春美「劇団熊ノ井のオードリーやキャサリンが、そないな弱気でどうすんねん。
   わても、このジュリアも頑張ってジョニーさんの役を埋めるさかい、あんたらも踏ん張るんや。」  

洋子「その通りや。
   春美ちゃんも、まれにはええこと言うやないの。」

春美「まれは余計やで。」

好恵「ジョニーさんが安心して成仏出来るよう、この公演は成功させなあかんね。」

洋子「それじゃ腹もふくれたとこで、もう一踏ん張りといきますかの。」

好恵「うちゃあ、又手上げるんね?」

洋子「まあ無理はせん程度にな。」

春美「用意出来ましたで。」

洋子「じゃいくで。
   昼下がりの銀行。
   怪しげな格好をしたジョニーは受付嬢のキャサリンに名前を呼ばれる。」

春美「ああ、ちょっと待った。」

洋子「何やねん。」

春美「その怪しげな格好ちゅうのは、どがいな格好ね?」

洋子「今気にせんでもええがな。」

春美「そうは言うても気になるで。」

好恵「そうそう。
   うちも気になるわ。」

洋子「そらやっぱ銀行強盗らしい格好やな。」

春美「強盗らしい格好て?」

洋子「顔知られへんように、あれかぶるとか。」

春美「あれて何やねん?」

洋子「せやから女のパンストとかや。」

好恵「そらおもろそうやね。」

春美「わては嫌やで。
   それじゃジョニーはシブイ男やのうて、変態になってまうがな。」

好恵「うちはおもろい思うけどな。」

春美「人ごとやと思うとるな。」

洋子「春美ちゃん。
   試しにかぶってみてくれへんか?
   何なら私の貸したげるさかい。」

春美「いらん、て。」

好恵「うちのがええ?」

春美「そういう問題やない!」

洋子「春美ちゃんは遠慮しいやな。」

春美「とにかくあんたらのパンストかぶるんやったら、わてはこの役おろさせてもらうわ。」

好恵「さよか。」

洋子「残念やな。
   かぶるんが嫌やったら、どないしょ?」

春美「グラサンがええと思うんやがな。」

好恵「うちもそう思ようったんよ。
   ホレ、あの、何やったかいね、ジョニーさんがしとっちゃったんは・・・」

春美「ああ、あれや。
   港の若大将ジョニーやろ。」

好恵「そうそう。
   あん時のジョニーさんはカッコえかったさかいな。」

洋子「ジョニーの子守歌でもしとられたな。
   そう言や確かこん中に・・・
  (戸棚を調べる)おお、あったあった。」

好恵「ジョニーさんが置いとっちゃったんかね?」

洋子「そらま、あん歳でこのグラサンしとったらアブナイ爺さんやからな。
   逮捕されかねんで。」

春美「パンストよりはましやと思うで。」

好恵「春美ちゃん、掛けてみはったら?」

洋子「・・・こらまた、ごっつう似合わへんなあ・・・」

春美「目の前が暗いで。」

好恵「そういうもんやさかい。」

洋子「外しとき。
   本番だけでええわ。」

     春美、サングラスを外すとハリボテの熊に掛ける。
     熊はさりげなくポーズをとっている。

洋子「まだこっちの方が似合うとるな。」

春美「わてはハリボテ以下かいな。」

好恵「ええわあ。
   さすがはジョニーやわ。」

春美「誰や、ハリボテの熊にまでジョニーと名前付けたんは?」

洋子「もうええか?
   はよ次いきたいんやがな。」

春美「待ってえな。
   ほかの衣装はどうなるんかいの。
   わてはこげな服しか持っとらんで。」

洋子「さすがにアッパッパーじゃまずいで。
   そら格好を気にせえへん小汚い婆さんの着る服や。」

春美「今度は小汚い婆さんか?
   たいがいにしいや。」

洋子「こら口が滑ったの。」

好恵「まあうちら皆小汚い婆さんよね。」

春美「好恵ちゃんにそう言われたら仕方ないの。
   まあ息子に何か借りて着ますわ。」

洋子「そうしい。」

好恵「うちの服はどうなるんね?」

洋子「キャサリンは制服やろ。」  

好恵「制服、言うて・・・」

春美「高校を出たて、言う設定やから、セーラー服とかでもええんと違うか?」

好恵「ちょっと待ってな・・・
   そう言やうちの孫娘に中学生がおったような・・・」

洋子「あんたとこは男の孫しかおらんがね。」

好恵「おお、そやった。
   ありゃ娘でしたわ。」

春美「そら一体何十年前の話かいの。」

洋子「キャサリンの制服はな、うちとこの嫁が熊銀に勤めとるから借りたげるよ。」

好恵「洋子ちゃんとこの嫁は細かろう?
   うち、服が入るかねえ?」

春美「そらパンストをかぶるくらい、きつそうやな。」

洋子「今衣装のことあれこれ言うたかてラチが開かんさかい、次行かしてんか?」

春美「どっからかいの?」

洋子「キャサリンがジョニーを呼ぶとこからや。」

春美「よっしゃ、行きましょかい。」

洋子「キャサリン。」

好恵「熊野さーん。」

春美「ほいほいー。」

洋子「あんたなあ・・・」

春美「わてのことは気にせんといてんか。」

洋子「しゃあないな。
   次行くで。
   ジョニーは無言で窓口にやって来ると、懐から拳銃を出した。」

春美「手を上げろ。
   金を出せ。」

洋子「やっぱいまいち迫力が出まへんな。」

春美「そう言われてものう。」

好恵「春美ちゃんやったら、普段通りでええのと違う?」

洋子「そらあかん。
   ジョニーがオバタリアンになってまうがな。」

春美「どないせえっちゅうねん。」

好恵「ホンマに拳銃でも出せば違うんでしょうがの。」

洋子「それや。」

好恵「へえ?」

洋子「小道具を使うて迫力を出すんや。」

春美「洋子ちゃん、拳銃なんぞ持っとるの?」

洋子「まさか。
   うちとこやーさんやおまへんで。」

春美「似たようなもんやがな。」

洋子「何でやねん!。」

好恵「猟銃なら、うちとこあるよ。」

洋子「どこぞの世界に、猟銃かついで銀行強盗に行く間抜けがおるかいな。」

好恵「春美ちゃんなら、やってもおかしゅうないで。」

春美「あんなあ。
   わてやのうてジョニーやで。」

洋子「とにかく強盗が猟銃かついどったらアホ丸出しや。
   凶器は懐に隠し持たなあかん。」

春美「怪しまれんようにな。」 

好恵「パンストかぶっとるのは、もっと怪しいよ。」

春美「パンストから離れんかい!」

洋子「第一猟銃は暴発でもしたら危のうてかなわん。
   ここは刃物で行きまっせ。」

春美「刃物でっか?」

好恵「台所に何かあったよ。」

洋子「好恵ちゃん、持って来てくれへんか?」

好恵「はいよ。」

春美「これで少しは強盗らしゅうなるかの?」

洋子「そらま、あんた次第やな。」

春美「やったことないから、むつかしいで。」

洋子「当たり前やがな。」

好恵「こんなんしかありませんでしたで。」

春美「果物ナイフでっか?」

洋子「えらいさびついとるの。」

好恵「こらちょっと切れまへんな。」

春美「切れんでもええがな。
   下手に切れたら懐に入れるのが怖い。」

好恵「春美ちゃん、ぶきっちょやからね。」

洋子「ちょっとやってみてえな。」

春美「こら凄いな、金属面が見えへん・・・
   何とも辛気くさい強盗やで・・・」

洋子「キャサリン、ジョニーを呼ぶとこから。」

好恵「熊野さーん。」

春美「へえへえ、ここにおりまっせ。」

洋子「ジョニーは無言で窓口にやって来ると、懐から拳銃・・・
   やなかった、ええと、刃物を出した。」

春美「手をあげろ!
   金を出せ!」

洋子「だいぶサマになって来たやないか。
   刃物を持つと違うな。」

春美「そらどうも。
   うちでなれとるさかい。」

好恵「かわいそうやな、あんたとこのお父ちゃん・・・」

洋子「今度はキャサリンがあかんな。」

好恵「うち、ちゃんと手上げたよ。」

洋子「強盗やで。
   それなりのリアクションせな。
   キャーとか、アーレーとか。」

好恵「そら又恥ずかしいな。」

洋子「あんた、キャサリンは花も恥じらうはたち前の乙女やで。
   キャーの1つくらい言えんでどないするんや。」

春美「役に成り切れ、言うたんは好恵ちゃんやで。」

好恵「わかった、やってみるわ。
   あのギターを抱いた暴れん坊ジョニーの時みたいにすればええんやね。」

洋子「そうや。
   それでこそ我が劇団の看板女優キャサリンやで。」

春美「ちょっとええでっか?」

洋子「今度は何や?」

春美「洋子ちゃんはどういう役ね?」

洋子「うちか?
   うちはジョニーの恋人か、又は1人娘のオードリーですわ。」

春美「そらあんた欲張りや。
   どっちかにせな。」

好恵「そういう問題やおまへんで。」

洋子「当分出てけえへんから、おいおいどっちかに決めさせてもらいますわ。
   どっちにしても、ジョニーは最愛のオードリーのために、やむにやまれず銀行強盗してまうんや。」

好恵「何ぞ理由でもありますのか?」

洋子「知らんがな。
   ジョニーに聞いてや。」

春美「そな無茶な・・・」

洋子「役づくりはキャストに任しとるんやから。」

春美「恋人か娘かくらい、決めてえな。」

洋子「どっちがええ?
   うちが恋人なるんと、娘になるんと。」

春美「どっちも嫌や。」

好恵「ねえうちは?
   キャサリンはジョニーとどういう関係やの?」

洋子「そらあんた、行きずりの関係や。」

好恵「行きずり・・・
   ええ言葉やね・・・」

春美「何を想像たくましゅうしてんねん。
   あんたはたまたまジョニーの押し入った銀行の受付嬢言うだけで、ジョニーとは赤の他人や。」

好恵「そんなんつまらへんわ。
   行きずりの関係になってえな。」

春美「どういう関係やねん。」

好恵「オードリーと三角関係っちゅうのはどうね?」

洋子「ちょっと待って!
   そらいくらなんでも話がまとまらんわ。」

好恵「一目惚れした、言うことでええやないの。」

洋子「強盗に入ってか?」

春美「第一あんたに一目惚れはせえへん。
   わてかて選ぶ権利がある。」

好恵「ホンマにうちに惚れんでもええんよ。」

春美「気色悪いこと言わんといて。」

洋子「まあ、それもおいおい考えますよってに。
   人数少ないと話考えるのも一苦労なんや。」

春美「やっぱりジョニーさんの穴は大きいなあ・・・。」

好恵「何でコロッと逝っちゃったんかねえ。
   あないピンピンしとられとったのに・・・」

哲哉「ごめんくださーい。」

春美「はあい。」

洋子「珍しなあ。
   老人集会所に何の用やろ?」

好恵「うちが出て来るわ。」
     好恵が部屋を出ようとすると、若い男が入って来る。
     鹿川哲哉である。

哲哉「ごめんください。」

好恵「はい。」

哲哉「あの、こちらには今皆さんだけですか?」

好恵「ほうですな。」

哲哉「て、て、手を上げろ!」

洋子「こらホンマもんやで。」

好恵「え、嘘や。」

春美「兄ちゃん、何手に持ってんねん?」

哲哉「え?
   包丁ですけど。」

春美「聞いたか?
   やっぱ本物やで。」

好恵「えっと・・・」

洋子「兄ちゃん、そこの婆さんな、ボケかけとるさかい、もっぺん言うた方がええで。」

哲哉「えっ?」

春美「手を上げろ、やろ。
   兄ちゃんもボケとるんか?」

哲哉「すいません、手を上げてもらえませんか。」

洋子「キャサリン!」

好恵「キャーッ!
   わ、わ、私には将来を誓い合ったお人が・・・
   アーレー!
   お、お、お許しを・・・」

春美「好恵ちゃん。
   強盗はんが困っとられるで。」

哲哉「強盗?」

洋子「皆さん。
   ちゃんと手え上げとらんと刺されまっせ。
   なあ、強盗はん?」

哲哉「あ、あの、僕強盗じゃありませんので、手下げてもらって構いませんよ。」

春美「何や兄ちゃん。
   強盗と違うんか。」

洋子「おかしい思たで。
   ここは老人集会所やさかい。」

春美「強盗にしてはへなちょこやしな。」

哲哉「ど、どうもお騒がせしました。」

好恵「何やもう帰ってんか?」

洋子「待ちんさい。」

哲哉「あ、いえ・・・」

洋子「待ちんさい、言うとるやろ。
   まあ、そこに座りいな。」

哲哉「僕、用事が・・・」

洋子「ちょっと、帰さんといてや。」

春美と好恵、哲哉を無理矢理座らせる。

洋子「兄ちゃん、あんた見えすいたウソついたらあかんで。」

哲哉「すいません。」

春美「ええ若い衆が昼日中に何さらしとんねん?」

好恵「何ぞわけありなんと違いますか?」

哲哉「あ、いえ、さっきのはただの冗談です。」

洋子「ウソついたらあかん、言うたやろ!」

哲哉「すいません。」

洋子「あんたちょっとええか?
   覚悟して聞きいや。」

哲哉「な、何でしょうか?」

洋子「言いづらいことなんやが、ここで会うたのも何かの縁や。
   手遅れにならんうちに教えたげるさかいにな。
   心の準備はええか?
   兄ちゃん。」

哲哉「え?いや、あの・・・」

春美「また始まったの・・・」

好恵「しーっ・・・」

洋子「外野はうるさいで!
   兄ちゃん、あんた死後の霊魂とか信じる方でっか?」

哲哉「・・・どちらかと言えば、はい。」

洋子「あんたが入って来たとき、すぐ気づいたんやがな、あんた今とてつもない邪悪なオーラに包ま
  れとりまんな。」

哲哉「え?」

洋子「あんたヤバイで。
   ホレ、そっちの肩の上におるのがわからんか?」

哲哉「な、何ですか、一体?・・・」

洋子「あんた見えへんのやな?」

春美「兄ちゃん。
   冗談や思たらあかんで。
   この人見えるんやさかいな。」

洋子「角生やして黄土色した不細工な鬼みたいのが、歯剥き出して笑うとる。
   こりゃ邪鬼やな。」

哲哉「じゃ、邪鬼ですか?」

洋子「地獄の悪霊の一種や・・・」

哲哉「(肩をはたきながら)ぼ、僕、どうしたらええんでしょうか?」

洋子「無駄やで兄ちゃん。
   下手にあがくと噛みつかれんで。
   そしたら生気をゴッソリ抜かれるな・・・    」

哲哉「何とかならないんでしょうか・・・」

チチ、カエラヌ

「チチ、カエラヌ」  ゴルゴ40(フォーティー)作


【登場人物】♂澤田慎司(さわだ・しんじ)・・・父。

      ♀澤田真理(さわだ・まり)・・・・母。
      
      ♀澤田由紀(さわだ・ゆき)・・・・長女。短大を卒業してフリーター。
     
      ♀澤田彩 (さわだ。あや)・・・・次女。高校2年生。


     父の久しぶりの休日。
     澤田家は一家で遊園地に行った帰りの車中である。
     父の慎司が運転。
     母の真理は助手席。
     2人の娘、由紀(高校生)と彩(中学生)は後部座席である。

由紀「あーあ、つまんなかった。」

真理「由紀!」

慎司「そ、そうか・・・
   そうかと言えば・・・」

由紀「草加せんべいって言ったら怒るぞ。」

慎司「いやいや・・・
   そうかと言えば池田大作。」

彩 「誰それ?」

慎司「創価学会。
   ははは。」

由紀「つまらん。」

彩 「てゆーか、意味不明ー。」

由紀「やっぱ来るんじゃなかった。」

真理「お父さんがせっかく休みに連れてってくれたんだから。」

由紀「だから遊園地なんか行きたくねえって言っただろ!」

慎司「昔はよく父さんと一緒にコーヒーカップに乗ったもんだけどな。」

由紀「あんなー。
   女子高生が親父とんなもん乗って喜ぶかよ。」

真理「彩ちゃんは楽しかったよね?
   前から楽しみにしてたもんね。」

彩 「何か人が多くてつまんなかった。」

慎司「そう言や彩と一緒にメリーゴーランドにも乗らなかったな。」

彩 「えー、やだよ。
   子供じゃないのに。」

真理「まだ子供じゃないの。」

彩 「今度たーくんと一緒に乗るよ。」

慎司「たーくん?」

由紀「彼氏。」

慎司「ほう・・・
   彩はお姉ちゃんより先に彼氏が出来たか。」

由紀「余計なお世話。」

慎司「今度連れて来なさい。
   父さんが見てあげるから。」

彩 「バーカ。」

真理「彩!」

慎司「あや~。」

真理「お父さんもくだらない事言ってないで、しっかり運転してよ。」

慎司「おっと!」

     乱暴な運転で女たち悲鳴を上げる。

慎司「あなたはツマで、私はオット。」

由紀「最低。」

真理「急になんてことするんですか!」

慎司「いや、犬が一匹横切ってな。
   何しろ犬が、一匹だけに・・・」

由紀「ワンとか言ったら殺す。」

慎司「いやー、由紀は鋭いな。
   さすがは父さんの娘だ。」

由紀「早く縁切りてーよ。」

真理「なんてこと言うんですか!」

彩 「ねえ、まだー?
   ここ、どこー?」

慎司「由紀は父さんが嫌いか?」

由紀「当たりめーだろ。」

真理「由紀!」

彩 「テレビ始まっちゃうよ。」

由紀「あーあ、やっぱ彼氏とデートでもするんだった。」

真理「そういう事は彼氏を作ってから言いなさい。」

慎司「早く嫁に行ったらどうだ?
   父さんと別れられるぞ。」

真理「冗談はやめてよ。
   まだ高校生なのに。」

彩 「お姉ちゃん、いい加減彼氏くらい作ったら?」

真理「あなたは早過ぎるの!」

彩 「普通でしょ。中学生だもん。」

真理「どうして兄弟でこう違うんでしょうね。」

由紀「アタシは結婚なんかしねーから。」

彩 「相手がいなきゃ出来ないよねー。」

由紀「あんだとー?」

彩 「悔しかったら彼氏連れて来てよ。」

真理「あーもう、やめなさい!」

由紀「アタシはね、結婚して母さんみたいになりたくねーの。」

彩 「なるほど。」

慎司「ずいぶん遠回しなイヤミだな。」

真理「遠回しじゃないわよ。」

由紀「さっきからさ、何か遠回りしてね?」

真理「お父さん、どこ走ってるの?」

慎司「あや~。さっきの道は右だったか。」

真理「迷った?」

慎司「ま、何とかなるさ。」

由紀「こいつやっぱサイテー。」

彩 「もう!
   録画予約してないのに。」

     女たち、わざとらしく大きなアクビをする。慎司もつられるようにアクビするが

真理「お父さん、しっかりしてよ。」

慎司「このところ、残業が続いてるからな。」

真理「子供たち寝ちゃいましたよ。」

慎司「・・・この子たち、もう遊園地じゃ喜ばないか。」

真理「何?
   今頃気付いたの?」

慎司「早く言ってくれよ。」

真理「いいのよ。
   どこ行ったって文句言うに決まってるんだから。」

慎司「そういうもんか。」

真理「女の子は、お父さんを煙たがるもんだから。」

慎司「母さん見てればよくわかるよ。」

真理「それにしても彩には困ったもんね。」

慎司「何かあったのか?」

真理「いっちょ前に色気づいちゃって。」

慎司「ああ。
   密林の王者か。」

真理「はあ?」

慎司「ターザンだっけ?」

真理「たーくんよ!」

慎司「彩に言ったら怒るだろうな。」

真理「お父さん、会社で若い子にしょーもないこと言ってないでしょうね。」

慎司「やっぱりまあ・・・
   コミュニケーション取らないといけないと思ってな。」

真理「やめてよ。
   ただでさえうっとうしいタイプなんだから。」

慎司「はあ・・・
   そろそろ運転変わってくれないか・・・
   母さん?」

真理「家に着いたら起こしてね。」

慎司「おい!」

     真理も寝てしまう。再び大きなため息をつく慎司。

慎司「ここで事故ったら、家族4人であの世行きか・・・」

真理「・・・やめてよ、はげ・・・」

     慎司、ギクッとして最近気になっている後頭部を触る。

真理「・・・タッキー・・・」

慎司「寝言か・・・」

     もう寝言はおさまり、ふと横を見るとだらしなく寝ている妻の寝顔を見て、やれやれと思いながら悪い気はしない心優しい慎司。
     バックミラー越しの娘2人の寝姿に、慎司は1人疲れを振り払って頑張るのだった。

慎司「よおし!」

     暗転し明かりが入ると、数年後の澤田家。
     和室の居間である。
     秋の夕方の暮れ始めの頃。
     中央に小さなテーブルがあり、由紀がだらしない格好で菓子をつまみながらテレビを見ている。
     時々お尻をポリポリ掻いたりしている。
     相変わらず彼氏はいないが、いたとしたら見せられない格好である。
     百年の恋も冷めるとはこのことかと言うようなだらしのなさ。
     もちろん色気のイの字も感じさせない。
     そこへ高校生になった彩が学校から帰って来る。

彩 「ただいまー。」

     制服を着崩した彩が部屋に入って来る。

由紀「おう。
   帰って来たか、この不良娘。」

彩 「プー太郎が何言ってんだか。」

由紀「好きでプーやってんじゃねーよ。」

彩 「いいご身分だこと。
   母さんは?」

由紀「知らねーよ。
   アタシが帰った時にはいなかった。
   どーせ、買い物行って油売ってんだろ?」

彩 「買い物ねえ・・・」

由紀「お前、今日食事当番だからな。」

彩 「お姉ちゃん、死ぬほどヒマそうじゃん。
   晩飯くらい作ってよ。」

由紀「じゃあ5千円。」

彩 「はあ?」

由紀「じゃ3千円・・・
   よし2千円で手を打とうか。」

     その時慎司が帰って来るが、娘2人は完全無視。
                      
由紀「こないだ仕事やめたから厳しいんだよ。」 慎司「おーい、帰ったぞー。
                          誰もいないのかー。
彩 「私だって持ってないよ。」           母さーん。
                          由紀ー。
由紀「ウソつけ。」                 彩ー。」         

     慎司が入って来るが、ホームウェアである。
                       
彩 「持ってないってば。」           

慎司「何だ2人ともいたのか。」

由紀「お前バイトで稼いでるだろ?」       

慎司「お、おい・・・」

彩 「お姉ちゃんが仕事やめるのが悪いんじゃん。」

慎司「バイトなんて聞いてないぞ!」

由紀「しょーがねえんだよ。
   店長の野郎がセクハラして来るんだから。」

慎司「何い!」

彩 「おうおう、見栄張っちゃって。」

慎司「一体、何をされたんだ!」

由紀「いや、まあ・・・」

彩 「化粧くらいして行きなよ。
   セクハラもされない女だからクビになるんだよ。」

慎司「いかん。
   つい納得してしまった・・・」

由紀「お前なあ・・・
   いつまで女を武器に世の中渡っていけると思ってんだよ!」

彩 「ほう・・・
   女を捨てたお姉ちゃんに、何がわかるって言うのかしら?」

     彩ポーズをとっている。

由紀「何だってえ!
   そんなカッコで、男に媚び売りやがって!」

慎司「何だか凄いことになって来たな・・・」

慎司、娘2人の殺気に押されて少し場を離れる。

彩 「悔しかったら、セクハラの1つもされてみなさいよ!」

慎司「されなくていいよ。」

由紀「言わせておけば・・・
   オメーなんかが稼げるのは、女子高生のうちだけなんだからな。」

慎司「一体どういうバイトなんだ?」

彩 「お姉ちゃん、セーラー服なんかもう着れないでしょ!
   この年増!」

由紀「セーラー服くらい着てやるよ!
   オラ脱げっ!」

     彩に襲いかかる由紀。
     慎司はオドオドと遠巻きで声を掛ける。

慎司「お、おい、やめなさい!・・・
   やめな・・・」

     由紀と彩がもみ合っていると、間抜けな声が聞こえる。

真理「ただいまー。」

3人「か、母さん・・・」

     40代後半という年齢からすると、明らかに無理のある真理の若作りの服装に凍り付く3人。

真理「あら、どうしたの、みんな?
   豆が鳩鉄砲喰らったような顔しちゃって。」

慎司「母さん、それ逆だ・・・」

由紀「どこ行ってたの?」

真理「お買い物よ、晩ご飯の。」

彩 「その格好で?」

真理「地味過ぎたかしらね。」

由紀「ちょ、ちょっと、めまいが・・・」

慎司「私もだ・・・」

真理「彩ちゃん、今日当番でしょ。
   早く着替えて来なさいよ。」

彩 「えー?
   今晩バイトなのに。」

慎司「だからどういうバイトなんだよ!」

真理「行くとき又着替えりゃいいじゃない。」

慎司「お、おい、認めてるのか?」

彩 「メンドクサー。」

真理「汚しちゃダメでしょ。」

由紀「ぶつくさ言ってねえで、早いとこ着替えて来な。」

彩 「はいはい。」

慎司「お、おい、彩・・・」

     彩がまるで慎司の存在を意識していないかのようにスカートをバタバタさせてから出て行ったので、ショックを受けている慎司。

由紀「おうおう、スカート短くして。」

真理「若いっていいわよねえ。」

由紀「そら違うだろ。」

慎司「そうだよ。」

真理「母さんも、もっと短くしてみようかしら。」

     真理、ポーズを取っている。
     さらに強烈にショックを受ける慎司。

由紀「歳考えろよ。」

真理「由紀ちゃんももっと若い子の格好しなきゃ。」

由紀「十分若い格好だろ。」

真理「だらしないだけじゃない!」

由紀「家ん中まで気い使ってらんねえって。」

真理「どうしてあんたはそうなのかしらね。
   お父さんがいたら、何て言うか・・・」

慎司「お、おい!ここにいるよ。」

由紀「死んだ人の話されてもな。」

     ガーンというなるべくチープな効果音。
     (又は慎司が自分で「ガーン」と言う。情けないけど。)
     由紀と真理はストップモーション。

慎司「落ち着け!
   おい、落ち着くんだよ、澤田慎司52歳妻子アリ・・・
  (軽いノリで)そっか・・・
   そうだよな、何だ・・・
   俺って死んでたんだよ、はは。」

     明かりが落ちて読経の声が聞こえる。
     再び明るくなると、慎司は離れた所で大きな木わくの中に、まるで遺影のように立っている。
     以後慎司はわくの中で演技するが、その声は生きた者には聞こえない。

由紀「もうすぐ49日だね。」

真理「へえ、由紀ちゃんでもそんな事気にするんだ。」

由紀「そりゃまあ・・・」

真理「何か湿っぽくていけないわね。
早いとこ供養すませて、キレイさっぱり忘れちゃいましょう。」

慎司「そんな言い方ないだろう・・・」

     ホームウェアに着替えた彩が帰って来る。
     かなり薄着である。

彩 「何?
   何の話してんの?」

慎司「お、おい・・・もうちょっと服装を考えなさい。」

由紀「もうすぐ49日だなあって。」

彩 「どーでもいいじゃん。」

慎司「よくないよ!」

真理「あんなお父さんでも、父さんには変わりないんですから。」

慎司「あんなとは何だ、あんなとは!」

由紀「母さん、何で父さんと結婚としたの?」

真理「何?急に。そんなこと聞いて・・・」

由紀「だって、よりにもよってさ・・・」

慎司「引っかかる言い方だな・・・」

真理「えっとね・・・
   やだ、照れちゃうじゃないの。」

慎司「母さん・・・」

由紀「何ブリッコしてんだか。」

彩 「金に決まってるじゃん。」

真理「ちょっと彩。」

彩 「それしか考えられない。」

由紀「そらちょっと言い過ぎだろう。」

慎司「そうだよ。」

由紀「金目当てなら、ますます父さんとは結婚しねえよ。」

慎司「おい!」

彩 「それもそうか。」

慎司「納得するなよ!」

真理「あんたたち勝手なことばかり言って。
   父さんとはそういうんじゃないの。」

慎司「そうだ。
   言ってやれ、言ってやれ。」

由紀「見合いだっけ?」

彩 「うわ、サイアクー。」

真理「早く結婚しろって親がうるさくてねえ。」

由紀「それで見合いしたんだ。」

真理「ずっと断ってたんだけどね。
   会うだけでいいからって。」

彩 「見合いって相手の写真とか見てやるんでしょ。」

真理「そうよ。」

彩 「他にいなかったの?」

真理「いい加減断り続けてたから、断り切れなくなってね・・・」

由紀「外れクジ引いちゃったか・・・」

真理「男の人は見た目じゃありません・・・」

慎司「そうだ。」

真理「・・・って、うまく親に言いくるめられてね。」

慎司「何だよ。」

真理「それに写真映りは良かったのよ、お父さん。」

彩 「そうなんだ。」

真理「会って見て愕然とした。」

由紀「断りゃ良かったのに。」

慎司「母さん?」

真理「・・・魔が差したのかしらね。」

彩 「ま、でも、結婚するならやっぱ金だよね。」

真理「生意気ばかり言ってんじゃありません。
   早く晩ご飯の支度して。」

由紀「そうそう。
   ダベッてる場合じゃねえって。」

彩 「ねえ、今日は食べに行こうよ。」

真理「うちがどういう状況かわかってるでしょうに。」

彩 「えー、お金入るんでしょ?」

由紀「どこから?」

彩 「お姉ちゃんも隠さないでよ。」

真理「何言ってるの、彩?」

彩 「もう、とぼけないでよ!
   保険金だよ、保険。
   父さん入ってたんでしょ、生命保険。」

真理「入ってたわよ。」

彩 「うわ、お父さんサマサマ~。」

由紀「何だよお前。
   あれだけ父さんのことバカにしといて、現金な奴。」

慎司「いやお前が言うなよ。」

彩 「ねえ、いくら入んの?
   1千万?
いや働き盛りだったから、もっと行くかな?」

慎司「はあ~もう世も末だな。」

彩 「母さん?」
   ねえもったいぶらないでよ。
   生命保険入ってたって、さっき言ったじゃん。」

由紀「保険下りないんだって。」

慎司「どういうことだ・・・」

彩 「え?ウソ・・・」

真理「ホント。」

彩 「冗談はその服だけにして!」

真理「母さんが何でこんな服着てるのか、わかってる?」

彩 「あ、はい!
   男を作ろうと思った。」

真理「ブーッ。
   惜しい。」

慎司「惜しいのかよ!」

由紀「あんな、彩。
   49日もまだなんだよ。」

真理「それは終わってから考えます。」

由紀「母さん、サイテー。」

慎司「死んだ奴の事は気にしなくていいよ。」

彩 「ねえ、今度はもっと若い人にしようよ。」

由紀「それは無理。」

真理「何が無理なのよ!・・・
   じゃなくて、これから仕事探さなくちゃと思ってね。」

     不自然な間

彩 「母さん、その服逆効果だと思う。」

真理「そう?
   若い子の格好の方がいいかなと思ってね。」

由紀「いや、引くってそれ、絶対。」

彩 「それで買い物行ったんだよね。
   もう、やめてよ、恥ずかしい。」

真理「あら、でも魚屋さんがサービスしてくれたわよ。
   魚見てたら、適当に何でもいいから持って帰ってくれって。」

由紀「それ追っ払われたんだよ。」

彩 「その格好でいて欲しくないよね、魚屋さんも。」

真理「嫌だ、2人とも妬かないのよ。
   母さんが魚屋さんにモテたからって。」

由彩「妬いてねーよ!」

真理「それでね、今晩面接に行くのよ。」

彩 「何だ、母さんも夜の仕事か・・・」

由紀「何考えてんだか。」

真理「やっぱり女の仕事と言ったらね・・・」

由紀「この親にしてこの子ありとはよく言ったもんだ。」

真理「由紀ちゃんがまともに働かないからでしょ!」

彩 「言われてやんの。」

由紀「うるさい!
   お前早くメシ作って来いって。」

彩 「ちょっと待って。
   保険金の話はどこ行ったの?
   何で保険金下りないのよ?」

真理「あー保険金ね、保険金・・・!!」

     突然それまで我慢していたものが爆発したかのように、髪をかきむしって暴れる真理。

真理「陰謀よ!
   これは絶対、誰かの陰謀だわ!」

彩 「母さん。」

由紀「ちょっと落ち着きなよ。」

真理「保険会社がさ、自殺だって言うのよ!」

彩 「自殺?
   あり得ないよ。
   ねえ、お姉ちゃん。」

由紀「あ、ああ・・・
   アタシちょっとトイレ。」

     由紀席を立つ。

慎司「え、俺・・・
   何で死んだんだっけ?」

真理「父さんが自殺するくらいなら、隣の犬が自殺してもおかしくないわよねえ。」

慎司「どういう意味だ?!」

彩 「そうそう。
   殺しても死なないタイプだもん。」

真理「自殺ってのは何かに悩んでの事よね?」

彩 「父さん何か悩んでた?」

真理「そりゃ、小さな悩みくらいあったでしょうけどね・・・」

慎司「自殺じゃないぞ、自殺じゃ・・・」

彩 「こんなかわいい妻と娘に囲まれて。」

真理「幸せいっぱいだったわよね?」

慎司「どこからその自信が来るんだ?」

真理「わかった。
   彩ちゃんと由紀ちゃんが原因ね。」

彩 「はあ?
   この、キュートで、プリティーな、ピチピチの女子高生の私のどこが悪いっつーのよ!」

慎司「確かに頭が痛い・・・」

真理「何がキュートでピチピチですか。
   仕事帰りにキューッと一杯、おかげでおなかがビッチビチ・・・」

慎司「ははは。
   座布団1枚。」

彩 「誰が小咄やれって言ったの!
   しかも汚いって!」

真理「由紀ちゃんは由紀ちゃんで、アレだしね・・・」

由紀「アレって何だよ、アレって・・・」

     由紀が戻って来る。

彩 「父さんの自殺の原因だって。」

由紀「ああ、自殺の・・・」

彩 「母さん、私とお姉ちゃんが原因だろうって言うんだよ。
   ひどいと思わない?」

由紀「・・・父さん、自殺じゃない気がする。」

彩 「でしょ?
   私さ、あえて言えば父さんが自殺するなら原因は母さんだと思うんだ。」

真理「何てこと言うんですか!
   私はあなたたちみたいに父さんを粗末にしちゃいませんよ。」

慎司「そうかあ?」

彩 「いや考えれば考えるほど母さんが悪い気がして来た。」

真理「いいえ。
   父さんが自殺したのは、由紀ちゃんがまともに働こうとせず、彼氏を作る気配すらなく、彩ちゃんは遊びまくって高校の卒業さえ危ぶまれる上に、変なアルバイトをやっているからです!」

彩 「バイトはばれてないよ。」

由紀「父さん、知らなくて良かったかな?」

慎司「死にたくなるようなことなのか?」

彩 「自殺の原因その1。
   母さんが朝も昼も食事を作ってあげなかった。」

真理「ぎく・・・
   晩ご飯作りゃ十分でしょ。」

彩 「その2。
   しかも週に2回はコンビニ弁当。」

真理「父さん、その方が美味しいって言うから。」

彩 「あれは父さんが悪いな。」

由紀「マズくても旨いって言ってやれよな。」

慎司「俺が悪いのかよ!」

彩 「その3。
   お風呂に入る順番がいつも最後。」

真理「あんたたちも共犯でしょうに。」

由紀「そりゃそうだけど・・・
   アカが浮いててヤだから。」

彩 「その4。
   父さんのだけ洗濯物を分けていた。」

真理「バカね。
   父さんが気付いてたわけないじゃない。」

慎司「そうだったのか・・・
   ちょっとショック・・・」

彩 「その5。
   小遣いを3千円しかあげなかった。」

由紀「小学生以下だよな。」

真理「どこの家もそんなもんです。」

慎司「だんだん、自殺したくなって来たな・・・」

彩 「その6。
   父さんが隠してたエッチ本を母さんが処分してしまった。」

慎司「何で彩が知ってるんだ?」

真理「年頃の娘がいるんだから。」

由紀「んなもん、どーってことねえのに。」

彩 「そうだよ。
   カワイイもんじゃない。」

慎司「俺って、とことん情けないキャラだな・・・」

真理「わかった?
   どれもこれも自殺するようなことじゃないでしょ?
   こんなので自殺されたんじゃ、日本中のサラリーマンのお父さんは集団自殺してるわよ。」

彩 「甘いな。
   とっておきがあるんだ。 
   実は母さんが浮気をしていた。」

真理「何てこと言うんですか!」

彩 「ごめんなさい。
   冗談だから・・・」

真理「冗談でも言っていいことと悪いことがあるでしょ!
   大体ね、浮気してたってお父さんが気付くわけがないでしょう!」

     間

一同「え~!?」

真理「あ、もちろん冗談よ冗談。
   もののたとえだって。」

由紀「怪しい。」

真理「ヤーダー、何言ってんの、もう。」

彩 「その年甲斐もない不自然なブリッコ口調は何かを隠してる・・・」

真理「こんなオバサンなんか相手にされるわけがないでしょう。」

由紀「それもそっか。」

彩 「そうだよねー。」

真理「と言うことで丸くおさめましょう。」

慎司「おさめるなよ!」

由紀「母さんは浮気してないし、彩はエンコーなんかしてないってことで。」

慎司「なにい!」

彩 「してないよ。」

由紀「一件落着だな。」

慎司「してないぞ!」

真理「やっぱり父さん、どう考えても事故よね。」

彩 「父さん、屋根から飛び降りる勇気なんかある人じゃないから。」

慎司「屋根から、飛び降り?・・・そうか、だんだん思い出して来たぞ・・・」

真理「ところが保険会社は聞いてくれないのよ。
   いくら自殺なんかする人じゃないって言っても。」

彩 「まあ、2階の屋根から飛び降りりゃ自殺だと思うよね。」

真理「あの人、何か間違えて屋根に上がって滑って落ちたんです、って説明したんだけどね。」
 
彩 「屋根に上がる理由がないよね。」

真理「酔っぱらってたとか。」

彩 「父さん、お酒飲まないじゃん。」

真理「かわらの修理で。」

由紀「んなこと、今さら詮索しても仕方ねーだろ!」

彩 「何怒ってんの?
   自殺じゃないって証明出来たら、保険金下りるんだよ。」

由紀「そんなの無理に決まってんだろ!
   これだけ日がたってんのに・・・」

真理「何か証拠でもあればねえ・・・」

彩 「ねえ、第一発見者はお姉ちゃんだよね。
   何かなかったの? 
   遺書とかさ。」

真理「遺書があったら自殺でしょ。」

彩 「あ、そっか。 
   逆逆、遺書なんかいらない。」

由紀「いい加減にしろよ。 
   そんなに金が欲しいのかよ。」

彩 「お姉ちゃん?」

由紀「父さんは事故だよ。」

真理「由紀ちゃん・・・
   何か知ってるの?」

慎司「言わなくていいんだぞ、由紀。」

由紀「ああ。」

彩 「警察に言わなきゃ!」

由紀「もう遅い。」

真理「どういうこと?
   どうして黙ってたの?」

慎司「ホントにもういいんだぞ、由紀。」

由紀「あのさあ、アタシ2階に干してた洗濯物が風で屋根に落ちちゃってさ。」

彩 「何?洗濯物って?」

由紀「いや、あの、パンツだけど・・・」

真理「それで?」

由紀「恥ずかしいから取って来てって、父さんに頼んだんだ。」

彩 「よっぽど恥ずかしいパンツだったんだね。」

由紀「普通のだって!
   母さんじゃねえんだから。」

真理「それで、あの運動神経ゼロのお父さんを屋根に上がらせたって言うの?」

彩 「我慢しなよ。
   屋根に上がって落ちたんじゃシャレになんないよ。」

由紀「その場なら止めたよ!
   あの鈍い父さんに屋根に上がれなんて、マジ自殺行為だっつうの。」

真理「じゃあ、どうして・・・」

由紀「まさかホントに取りに行ってくれるなんて思わなくて・・・

慎司「当たり前じゃないか。
   かわいい娘の頼みを聞けない親がどこにいる?」

由紀「取ってくれなきゃ・・・
   口聞かねえからな・・・
   なんて言っちまった・・・」

彩 「人殺し。」

真理「彩ちゃん!」

彩 「・・・ごめんなさい。」

由紀「その通りだよな。」

真理「ホントにお父さんがパンツ取りに屋根に上がったかどうかなんてわからないんでしょう?」

由紀「間違いねーよ。
   次の日の朝だよ。
   他にどんな理由で夜中に屋根に上がったりするっつうんだよ!」

彩 「お姉ちゃん。そのパンツはどうなったの?」

由紀「父さんのそばに落ちてた。
   人が来る前に拾ったよ。」

真理「間違いない・・・か。」

由紀「ああ。
   父さんは、私のパンツ取ろうとして、足滑らせて落ちたんだよ。」

彩 「警察に言おうよ。
   このパンツが事故の証拠ですって。」

由紀「・・・恥ずかしいじゃない。」

彩 「恥ずかしがってる場合じゃないよ!」

真理「何とか事故だと証明出来れば、保険金が下りるかも知れないわね。」

彩 「ねえ、お姉ちゃん。
   大金がかかってんだよ。
   恥ずかしがってないでさ・・・」

由紀「うるさい!
   どいつもこいつも金のことばかり言いやがって!
   アタシが恥ずかしがってるのは、パンツじゃねーよ!
   父さんが、娘のパンツ取ろうとして足滑らせて落ちて死んだなんて、人から見られるのが耐えられねえんだよ!
   そんなの・・・
   丸っきし、バカじゃねえか、父さんが。
   アタシの父さんは・・・
   そんなバカじゃねーんだよ!」

慎司「いや、そんなことはないぞ。
   全く父さんらしい死に方じゃないか。」

由紀「金なんかいらねーよ!」

     声を上げて泣き始める由紀。

彩 「私晩ご飯作って来る。」

真理「母さんも手伝うわよ。」

彩 「ねえ、父さんって何が好きだったっけ?」

由紀「煮魚と納豆。」

彩 「ちょうどいいじゃん。
   さっき魚もらって来たんでしょ。
   父さんにお供え。」

真理「彩ちゃん、煮魚なんか出来る?」

彩 「母さんよりゃうまいと思う。」

由紀「納豆は?」

真理「2人とも納豆なんか食べないくせに。」

彩 「じゃ明日買ってきてよ。」

真理「はいはい。」

     彩と真理、台所へ消える。

由紀「父さん・・・ごめんなさい!」

慎司「由紀。」

由紀「父さん?」

慎司「頭を上げなさい。」

由紀「父さんの声が・・・聞こえる。」

慎司「そうか、そうか。そうかと言えば草加せんべい。」

由紀「父さんだ!」

慎司「由紀。
   もう自分を責めるのはやめなさい。」

由紀「だって・・・」

慎司「父さん、嬉しかったんだぞ。
   由紀のために死ねるなんてな。」

由紀「父さん・・・」

慎司「父さんな、由紀の父さんで本当に良かったよ。」

由紀「アタシも・・・
   アタシも、父さんの子供で良かった・・・」

慎司「由紀。
   幸せになるんだよ。
   じゃーな。」

由紀「父さん!」

     慎司は消える。
     いつの間にかテーブルに伏せて寝ていた由紀を彩が起こしている。

彩 「お姉ちゃん!・・・お姉ちゃん!」

由紀「彩?・・・あや~。」

彩 「それ、父さんの口癖だったね。」

由紀「今父さんの夢を見たよ。」

真理「彩ちゃーん。
   運ぶの手伝ってー。」

彩 「はーい。」

由紀「アタシ・・・寝てたのか。」

     真理と彩が食事を運んで来る。

彩 「こーゆー地味ーな食事って久しぶりだね。」

真理「いくら腕をふるっても、あんたたちじゃーね。」

由紀「よー言うわ。」

彩 「あのさ、これからお金のこととかヤバクない?」

真理「まあぜいたくは言ってられないわね。」

彩 「私高校やめて働くよ。」

由紀「そんなの、許さねーよ、父さんが。」

真理「由紀ちゃん・・・」

由紀「アタシ性根据えて働くからさ、お前進学しな。
   どーせ、まともに仕事なんかできゃしねーだろ。」

彩 「父さんも・・・
   そう言うかな?」

由紀「ああ。
   それから変なバイトもやめんだよ。」

彩 「うん。」

由紀「母さんも、夜の仕事は駄目だからな。」

真理「お金のこと考えるとねえ・・・」

由紀「それから再婚なんか考えたらぶっ殺すからな。
   父さんがかわいそうだからな。」

彩 「お姉ちゃんさ、良く考えて言ってるの?」

由紀「何とかなるさ。」

慎司の口調をまねる由紀がおかしくて吹き出す真理と彩。

真理「父さんの口癖ね。」

彩 「何とかなるさ、か・・・」

由紀「母さんもう歳だからさ、アタシが結婚するよ。」

彩 「はあ?」

由紀「でもって、この家に父さんみたいな男の人を連れて来る。」

真理「彼氏を作ってから言いなさいね、そういうことは。」

由紀「何とかなるさ。」

みんなで笑っていると慎司が現れる。

慎司「母さん。彩。由紀。」

女達「父さん!」

慎司「みんな、幸せになるんだよ。」

女達「ありがとう・・・父さん。」

慎司「じゃーな。」

     いつもの気楽な笑顔を満面に浮かべて女達にお別れの手を振る慎司の姿が次第に消えていき・・・
     ~おしまい~


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