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ゴルゴ40の高校演劇用脚本置き場

高校演劇用の脚本置き場

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秋の気配

「秋の気配」 ゴルゴ40(フォーティー) 作

【登場人物】♀朝日幸美(あさひ・ゆきみ)・・・高校3年生。  
      
      ♀皆川詩(みながわ・うた)・・・・幸美の小学校時代の同級生。

     花火大会の夜。
     日の長い夕刻だが、そろそろ夕闇が迫っている。
     縁日のような出店がいくつか。
     高校の制服を着た少女がたこ焼きを焼いて出店の準備をしている。
     皆川詩である。
     他の店や付近に人の気配はない。
     違う高校の制服を着た少女が下を向きトボトボと歩いて来る。
     朝日幸美である。
     少し離れた石段に座った幸美は、かばんから何か紙を取り出すとそれを見ながらため息をつく。
     たこ焼きを焼き終えて包み紙におさめた詩がやって来る。

 詩「・・・ちょっと、そこ(私の席なんだけどな)」

幸美「あ、ごめんなさい。」

     幸美が横へどくと、詩はどかっとウンコ座りになってタバコを取り出し火をつけて吸い始める。

 詩「何だよ。」

幸美「いえ、別に。」

 詩「けっ!」

幸美「あ。」

     詩は不機嫌そうにタバコの吸い殻を付近の木の立て札?に投げつける。
     幸美、立ち上がって吸い殻を取りに行こうかと迷った末、次のタバコを取り出そうとしている詩をじっと見てしまう。

 詩「何ガン飛ばしてんだ、お前。」

幸美「あ、いえ・・・
   皆川さん?」

 詩「え?
   もしかして・・・」

幸美「やっぱり。
   朝日です。
   小学校で一緒だった。」

 詩「覚えてるよ。
   何だゆっきいか。
   お久しぶり。」

幸美「何やってんですか、こんな所で。」

 詩「いや、ちょっと・・・
   ゆっきいこそ何やってんの?」

幸美「ああ。
   塾の帰りなんですけど。」

 詩「塾?
   もしかして受験生とか。」

幸美「はい、一応。」

 詩「へえ・・・
   あの、教室でおもらしして泣いてたゆっきいが受験生かあ・・・」

幸美「いつの話してるんですか!」

 詩「小学校入ってすぐだったよな。」

幸美「あの時は本当におなかの具合が悪くて。」

 詩「なんか黙って具合の悪そうな顔してたから、わざわざ見に行ってやったんだ。」

幸美「もう忘れてください。」

 詩「いや、あれは一生忘れないね。
   せんせー、朝日さんがおもらししてまーすって。」

幸美「ホント余計なお世話でしたよ。」

 詩「ゆっきい引っ込み思案だから、トイレに行きたいって先生に言えなかったんだよな。
   せんせー、朝日さんスカートまでビショビショでーす。」

幸美「そこまで言わなくても良かったのに。」

 詩「あん時は、助けてやろうと思ったんだぜ、マジで。」

幸美「いや疑っちゃいませんけど。」

 詩「あれ以来よく話すようになったんだよな。」

幸美「あの、皆川さん。」

 詩「他人行儀だなあ、皆川さんって。」

幸美「パンツ見えてます。」

 詩「え、マジ?」

幸美「はい。
   割とハッキリ。」

     詩、立ち上がってスカートをはたく。

 詩「変わんねえな、ゆっきい。」

幸美「そうですか?」

 詩「そのズレてる所がさ。」

幸美「私ズレてますか?」

 詩「久しぶりに会った同級生に対して、いきなりパンツ見えてるって。」

幸美「見せてる方がどうかと思いますけど。」

 詩「これ見せパンだから。
   ホラ。
   ホラ。」

幸美「皆川さん・・・」

 詩「何キョロキョロしてんだよ。」

幸美「人が見てたら恥ずかしいですから。」

 詩「お前ホント変わんねえな。
   いちいちカチンと来るんだよ。」

幸美「そういう性格ですから。」

 詩「だいたい何だよ、皆川さんって。
   ケツがこそばゆいだろ。
   ウタちゃん、とか、ウタリンって呼んでただろ?
   小学校ん時。」

幸美「・・・呼んでません。」

 詩「でもって調子に乗りやがって、みんなのウタちゃん、なんて言いやがったから、ぶっ飛ばしてやっただろ?」

幸美「違う人ですよ。」

 詩「いやゆっきいだった気がするけどな・・・」

幸美「お互い覚えてないですよね。」

 詩「なこたあねえよ。」

幸美「私もあんまり覚えてないし・・・
   私なんか忘れられても当然ですもんね。」

 詩「何言ってんだ・・・
   ぶっ飛ばされてえのか!」

幸美「ふふ・・・
   そのフレーズは覚えてます。」

 詩「なんだよ・・・
   俺印象最悪だな。」

幸美「口癖でしたよね。」

 詩「けっ!」

幸美「それから皆川さん。」

 詩「何?」

幸美「タバコ。
   (詩が投げ捨てた吸い殻を指さす)」

 詩「ああ、ワリイワリイ、消す消す。」

     詩、吸い殻を思い切り踏みつぶす。 
     ついでに木札にケリを入れたりもする。

 詩「おっしゃ、これで良し!」

幸美「いや、そういう問題じゃ・・・」 

 詩「そんじゃま、一服。
   ゆっきいも吸うか?」

幸美「皆川さん、それたぶんお墓ですよ。」

 詩「墓?」

幸美「何か書いてませんか?」

 詩「ボロボロで読めねえよ。」

幸美「戦争で亡くなった人の慰霊碑とかだったら、ヤバクないですか?」

 詩「そんな立派なもんには見えねえぞ。」

幸美「バチが当たりますよ。」

 詩「変なこと言うな。」

幸美「お墓を粗末にすると怖いですよ。」

 詩「やめろって。」

幸美「私、霊感があるの知ってますよね。」

 詩「お、おい・・・」

幸美「みんなでコックリさんとか、よくやりましたよね。
   確か学校で飼ってたウサギの霊を呼んだりとか。」 

詩「ウサギはしゃべんねえだろ!」   

幸美「皆川さん結構信じる方ですよね。」

 詩「もしかしてヤバかった?」

幸美「さっきから気配感じるんですよ。
   だから皆川さんに教えてあげようかなって。」

 詩「教えないでいいよ!」

幸美「マジヤバイですよ。
   ケリまで入れてたし。」

 詩「ケリはヤバイか?」

幸美「お墓にケリはあり得ないですね。」

 詩「わかった!
   バチが当たらんように、おがんどこう。」

幸美「いや、おがまなくても。」

 詩「ほら、ゆっきいも一緒におがんでよ。」

幸美「何で私が?」

 詩「いいからしゃがんで・・・
   ナンマンダ、ナンマンダ、ナンマンダ・・・」

幸美「それ何か違いません?」

 詩「え、ダメ?」

幸美「たぶん。」

 詩「そんじゃ変えよう。
   ナンミョウホウレンゲッキョウ、ナンミョウホウレンゲッキョウ・・・」

幸美「いやそういう意味じゃなくて。」

 詩「うわあ・・・
   バチ当たったらどうしよう?」

幸美「あ、あの、パニくらないでください!・・・」

     詩、うろたえた様子で辺りをせわしなくウロウロしている

幸美「落ち着いて次の行動を考えましょうよ、皆川さん。」

 詩「落ち着いてらんねえよ・・・
   うう・・・
   ゆっきい!」

幸美「はい?」

 詩「今日のパンツは何色だ!」

幸美「やめてください!」

 詩「何だ、下はいてんのか・・・(息が荒い)」

幸美「落ち着きましたか?」

 詩「ああ、ありがと。
   落ち着いた、かなり。」

幸美「何で人のスカートめくったら落ち着くんですか?」

 詩「ぷっ!(吹き出す)
   ごめ、無性にゆっきいのパンツが見たくなった。」

幸美「どういう性格してるんですか?」

 詩「パンツの霊に取り憑かれたらしい。」

幸美「何言ってるんだか。」

 詩「暑くねえか、下はいて。」

幸美「普通ですよ。」

 詩「あ、今思い出したけど、スカートめくりってスッゲエ流行ったよな。」

幸美「話をそらそうとしてる。」

 詩「流行っただろ。
   ホラ6年の時。」

幸美「ああ・・・
   6年生の時・・・」

 詩「俺らのクラスって女子が強かったじゃん?
   で女子同士でスカートめくるのが流行ったろ、ホラ男子がいない時に。」

幸美「私はあんまり・・・」

 詩「え?
   ゆっきいもB組だっただろ?」

幸美「高学年はクラス替えなかったから。」

 詩「だよな。
   俺らの学校。」

幸美「私その頃学校休んでて。」 

 詩「そだっけ?」

幸美「たぶん。
   スカートめくりが流行ったって頃。」

 詩「え、じゃ、吉田先生ヘンタイ事件も知らない?」

幸美「何ですか、それ?」

 詩「担任だよ、担任。」

幸美「それは覚えてますけど。」

 詩「体育の後に俺らがスカートめくりごっこやってて、キャーキャー大騒ぎしてたんだよ。
   で、男子は締め出してさ、先生が次の授業に来て、ガラって戸開けて入って来たわけ。
   そしたらみんながキャー、ヘンターイ、って、ふざけて物ぶつけたりしてさ。」

幸美「あー。
   そういう事やりそうなクラスだったですよね。」

 詩「ちなみに俺はサボテンの鉢植えを投げたら、見事に顔に当たった。」

幸美「それ、ひどくないですか?」

 詩「いやまさかホントに当たるとは思わなくて。
   先生額から血流して倒れてるし。」

幸美「ムチャクチャやってたんだ。」

 詩「まあ、いい思い出だよ。
   おかげで吉田先生もよく覚えてるし。」

幸美「ヘンタイで覚えられても。」

 詩「だよな。」

幸美「私いても参加してなかったでしょうね。」

 詩「そんなことないだろ。」

幸美「・・・はね者だったし。」

 詩「・・・あ、あれだ、ゆっきいってマージャン知ってる?」

幸美「やった事はないですけど。」

 詩「マージャン用語でハネ満ってあんだよ。
   ハネ、マン。
   何か響きがヤバイよな、ハネマン。」

幸美「ハネマンがですか?」

 詩「そうハネマン・・・
   それからさ、フリテンってのもあるんだ。
   これもヤバイよな。」

幸美「そうですか?」

 詩「ホラいただろ俺らのクラス。
   水泳の後裸で女子に乱入してくるバカが。
   フリ○ン高木。」

幸美「ああ、フリ○ン君。」

 詩「そうそうフリ○ン。」

幸美「あ・・・」

 詩「んな、悲しい目で見るなよお。
   笑えよ。」

幸美「どっちかと言えば恥ずかしがってるんですけど。」

 詩「俺も恥ずかしいんだぞ。」

幸美「それはウソ。」

 詩「ウソじゃねえよ。
   ほら、アドレナリンが大量に吹き出して、もう顔真っ赤。」

幸美「・・・おかしい。(笑っている)。
   ハネマンにフリテン・・・」

 詩「そっか?
   無理に笑ってねえか?」

幸美「いえ、今頃やっとおかしいのが来ました。」

 詩「ホントかあ?」

幸美「ホント。
   時間差ギャグですね、これ・・・(クスクス笑いが止まらない)」

 詩「俺バカだから。
   ゆっきいも良く知ってると思うけど。」

幸美「皆川さんも変わってない。
   昔からおかしな事ばかり言ってた。」

 詩「まあな。
   俺って根っからのバカだからさ。」

幸美「そんなことないです。」

 詩「いやマジでマジで。」

幸美「本当にバカな人は、気を使ったりしませんから。」

 詩「何言ってんだ?」

幸美「皆川さん、昔からそう。
   何かバツが悪いなって思ったら、面白い事言ってみんなを笑わせてくれた。」

 詩「俺がそんな事考えてるわけないだろ。
   未だに九九も怪しいんだからな。
   どうだ、参ったか。」

幸美「そんな威張って言う事じゃないですよ。」

 詩「素で返すなよ。」

幸美「でも大学生でも出来ない人いるらしいですよ。」

 詩「マジでか?」

幸美「皆川さん。
   私そんなに嫌な顔してました?」

 詩「お前昔から顔に出るんだよな。
   正直っつうか何つうか・・・」

幸美「私の方がバカだから。」

     幸美、詩が座っていた辺りにしゃがみ込んで座る。

 詩「パンツが見えない座り方。
   それが女子高生の座り方か?」

幸美「パンツから離れませんか?」

 詩「なあ、ゆっきい。
   そんなに俺と話すの嫌か?」

幸美「嫌ならとっくに帰ってます。」

 詩「お前みたいなバカの相手はしたくねえ、って顔に書いてあんだけど。」

幸美「・・・ごめんなさい。」

 詩「ぶっ飛ばされてえのか!
   悪くもねえのに謝んなよ。
   そんなだから・・・」

幸美「いじめられるんですよね。」

 詩「・・・ゆっきいっていじめられてたか?」

幸美「6年に上がってから学校行ってません。」

 詩「覚えてないなあ。
   俺バカだから・・・」

     携帯電話の着信音。
     詩が出る。

 詩「はい、もしもし・・・
   え、客なんかいないよ、始まってねえし・・・
   バッチシ。
   友達に借りた県女の制服・・・
   え、マジだよ。
   鼻血出しても知らねえぞ。
   だから早く来い・・・
   え?・・・
   あったり前だろ、メシ代なんかねえよ。・・・
   はあ?
   雨なんか降られた日にゃ売り上げゼロだよ。
   しょーがねえだろ、こればっかは・・・」 

     幸美、いつの間にか立ち上がって出店をのぞいている。

 詩「彼氏から。」

幸美「彼氏いるんですね。」

 詩「当たり前だろ。」

幸美「いいですね。」

 詩「お前高三にもなって彼氏いないのか?」

幸美「彼氏いない歴18年です。」

 詩「マジで?ゆっきい、メチャかわいいのにな。」

幸美「いや私なんか・・・」

 詩「冗談だよ、本気にすんな。」

幸美「それはちょっと、ひどいです。」

 詩「メチャは余計だけど、それなりにかわいいじゃん。
   少なくとも俺よりは。」

幸美「お互い傷をなめ合うのはやめましょう。」

 詩「ふわあー。
   何かヒマだべ~。」

幸美「あの、これ・・・」

 詩「ああ。
   これ全部俺が店番。」

幸美「へえ、楽しそう。」

 詩「彼氏がさ、こういう仕事やってんだ。
   ホラいるだろ、祭とかで店出してるお兄さん。」

幸美「ああ。」

 詩「俺とこ、親父がさ、あれだろ?」

幸美「そ、そうだったですね。」

 詩「ガキの頃からこういうの手伝わさせられてたし・・・
   ま、自然と、彼氏も・・・
   な?」

幸美「こんなたくさん店番大変ですね。」

 詩「いや、ここいらとか、人めったに来ないし。」

幸美「向こうの方に出せばいいのに。」

 詩「こういうのって縄張りがあって。」

幸美「出せないんですか。」

 詩「まあ勝手にはな。」

幸美「この辺、塾で遅くなった時は走って帰るんですよ。
   暗いし、人いないし・・・」

 詩「まあ花火が始まって暗くなりゃ、ボチボチ人来るはずだから。
   高校生とか、特に。」

幸美「もしかしてカップルで?」

 詩「まあそういう場所なんだよ、この辺。
   ちなみに変なオッサンとかも集まって来る。
   カメラ持ってたりして。」

幸美「詳しいんですね。」

詩「そういうのが全部客になる。
   ゆっきい、ホントに夜この辺通るのヤバイよ。
   変な奴多いから。」

幸美「私かわいくないから。」

 詩「バ~カ。
   夜目だと顔なんか見えねえの。」

幸美「それもちょっとひどいですね。」

 詩「ははは・・・
   あ、ヒマだから遊んでけよ。
   そこの金魚すくいとか。」

幸美「ごめんなさい。
   お金持ってないから。」

 詩「いいっていいって。
   どうせ元はタダみたいなもんだし、今日はかなり売れ残りそうだから。」

幸美「あ、それじゃ。」

 詩「ホント、雨降ったらアウトなんだよな・・・
   てすでにヤバそうな雲行きだし・・・」

     金魚すくいに興じている幸美。
     何度も紙を破いてしまう。

幸美「あー、又破れちゃった。」

 詩「お前恐ろしく下手だな。」

幸美「あ、ひどい。」

 詩「いやマジで、そこまでダメなやつも珍しいって。
   幼稚園児でも、もうちょっとうまいな。」

幸美「もうやめます。」

 詩「え、一匹もすくえないのにやめるのか?
   根性ねえぞ。」

幸美「だんだん金魚にバカにされてるような気がして来ました。」

 詩「それじゃ・・・
   はい、どうぞ。」

幸美「え?」

 詩「そこに書いてあるだろ。
   取れなくても金魚あげますって。」

幸美「いや、でも売り物なのに。」

 詩「それはあっと言う間に10枚破いたやつのセリフじゃねえぞ。
   何ならカメも持ってくか?
   カメなんかすくえるやついねえし。」

幸美「ごめんなさい。
   でもすぐ死んじゃうから。」

 詩「死んだっていいじゃん。
   生き物ってのは死ぬもんだ。」

幸美「かわいそうだし。」

 詩「ゆっきい。
   こういうの売れ残ったらどうするか知ってるか?」

幸美「え?
   いや・・・」

 詩「よくヒヨコ売ってるだろ。
   あれ、売れ残ったらだしになるんだよ。
   カップラーメンとかの。」

幸美「・・・きのう食べたのに。」

 詩「すぐ死んじゃってもいいんだよ。
   俺らだってすぐ死ぬんだしさ。」

幸美「じゃあ、そこに置かせてください。
   持って帰りますから。」

 詩「オッケー。」

     幸美が金魚のプール横に袋を吊していると、詩がふざけて水をかけてくる。

 詩「スキありー。」

幸美「うわっ。
   ひっどー・・・
   えい!」

 詩「おっ、逆襲か?・・・
   それっ!」

幸美「やったなー・・・
   どうだ!」

 詩「やり過ぎだよお前。
   下着まで濡れただろうが・・・」

     バシャバシャと2人で水の掛け合いをしている。

詩「あー、楽しいねー。」

幸美「はい。」

 詩「小っちゃい頃、よくこんな風に遊んだな。」

幸美「そうですね。」

 詩「あー、いい運動だった。」

     詩、ここで一服とばかりにタバコを出す 。

幸美「あ、又タバコ・・・」
 
 詩「今度は投げ捨てたりしねえから。
   許せ。」

幸美「ダメですよ。
   タバコなんか吸っちゃ。」

 詩「何で?」

幸美「だってまだ高校生じゃないですか。
   法律違反です。」

 詩「あれ?・・・
   あ、そっか。
   俺高校生じゃねえんだけど。」

幸美「え?
   でも制服・・・」

 詩「これさ、県女の友達に借りてんだ。
   俺の頭で県女なんか行けるわけねえだろ?
   てか、ぶっちゃけ中卒で働いてるから。」

幸美「どうしてですか?」

 詩「制服?
   いや、それが、彼氏の趣味でさ・・・」

幸美「趣味ですか・・・」

 詩「てか、遊ぶ時は制服のがいいんだよ。
   ナンパされ易いし。」

幸美「そうなんですか。」

 詩「今の彼氏にナンパされた時もこの格好だったんだよなー・・・
   呆れてる?」

幸美「そんな事ないです。」
 
 詩「で、こういう店番の時も制服にしろって言うんだよ。
   それもセーラー服じゃないとダメだって。」

幸美「彼氏がそんな事言うんですか?」

 詩「ちょっとヘンタイ入ってんだよなー、アイツ。
   セーラー服っつうと少ないからね、この辺りじゃ。
   結構苦労すんだ、友達探すのに。」

幸美「彼氏と仲いいんですね。」

 詩「男ってどうしょうもないね。
   セーラー服見ただけで、興奮すんだって。」

幸美「ははは。」

 詩「全くもう。」

幸美「皆川さん、嬉しそう。」

 詩「そうかあ?」

幸美「はい。
   うらやましいです。」

 詩「とにかくセーラー服が最強。
   (タバコを吸おうとする)」

幸美「ダメですって。
   (タバコを奪う)」

 詩「おい。
   俺高校生じゃねえんだぞ。」

幸美「高校生じゃなくても、未成年はダメです。」

 詩「勝手な事言うなよ。」

幸美「だって法律違反じゃないですか。」

 詩「いつから法律変わったんだよ。」

幸美「変わってません。
   前からお酒もタバコもハタチにならなきゃダメって法律で決まってます。」

 詩「高校やめた連中は平気で酒もタバコもやってるぜ。」

幸美「いや、それは・・・」

 詩「は、は、は、は・・・
   やっぱ変わんないな、ゆっきい。
   ぜんっぜん融通利かねえんだ。」

幸美「利かなくていいです。」

 詩「うん。
   ゆっきいらしくてよろしい。
   安心した。」

幸美「そうですか。」

 詩「ホント、小学校以来じゃん。
   ゆっきいがフツーのジョシコーセーになってたらどうしようかと思ったぜ。」

幸美「フツーですか。」

 詩「ホラ、良くいるじゃん・・・
   あ、そうだゆっきい、オヤジの役やって。
   タバコ吸ってるジョシコーセーを注意するオヤジの役。」

幸美「注意すればいいんですか。」

     詩、ウンコ座りでタバコを吸い始める。

 詩「注意しろよ。」

幸美「あ、はい・・・
   あー、君、高校生がタバコを吸っちゃダメだよ。」

 詩「何だよ。
   ウゼエよ、オヤジ!」

幸美「あ・・・」

 詩「どこ見てんだよ、ヘンタイ!」

幸美「(吹き出す)本物みたい・・・」

 詩「だろ?
   こういうフツーのジョシコーセーだよ。」

幸美「普通じゃないと思いますけど。」

 詩「俺の友達こんなんばっかだぜ。」

幸美「あの・・・
   私って変わってないですか?」

 詩「小学生のまんま。
   俺もよく頭の中小学生って言われるけど。」

幸美「ははは。」

 詩「なあ、その制服・・・」

幸美「あ、今通ってるとこのです。」

 詩「中高一貫だっけ。」

幸美「はい。
   全寮制で。」

 詩「寮に入ってんだ。」

幸美「ええ。
   ずっと女子寮に。」

 詩「ヤバクね?
   女子寮って。」

幸美「なぜですか?」

 詩「いや、ジョシリョーって言葉の響きがさ・・・
   ごめ、聞き流してくれ。」

幸美「・・・ヤバクないこともないんですけど。
   あ、何言ってるかわかんないですね。
   聞き流してくださいい。」

 詩「ゆっきい・・・」

幸美「あ、いや、何か思わせぶりな事言っちゃってごめんなさい。
   それなりに楽しいですよ、女子寮。」

 詩「そうかあ?
   寮っていろんな人が一緒に暮らしてるんだよな?」

幸美「そうですけど。」

 詩「俺そういうの絶対ダメ。
   マジで。
   団体行動とか出来ない人だから。」

幸美「・・・私も。」

 詩「だよな。」

幸美「いろんな所から来てて・・・
   知り合いいないし。」

 詩「でも好きで行ったんだろ?」

幸美「・・・私みたいな人が多くて。
   地元の学校に行き辛いとか・・・」

 詩「やっぱいじめとか?」

幸美「いじめてた方の人もいます。
   転校させられたとかで。」

 詩「意味ないじゃん。」

幸美「知らない人同士だと、人間関係1からやり直しだから・・・」

 詩「少年院みてえだな。
   あ、ごめ、たとえが悪いな。」

幸美「悪すぎます。
   少年院なんて知ってるんですか?」

 詩「あ、いや、もちろん行ったことはねえんだけど・・・
   俺友達多いから、中には・・・
   な?」

幸美「少年院か・・・」

 詩「やっぱゆっきいみたいな変人が多いのか?」

幸美「みんな普通ですよ。
   私も含めて。」

 詩「ははは。
   そだな。」

幸美「タバコ吸ってる人もいますよ。
   それも中学からずっと。」

 詩「それはフツーじゃないな。
   不良だよ、フリョー。
   ダメだよゆっきい。
   注意しなきゃ。」

幸美「皆川さん・・・」

 詩「ホントねえ、ジョシコーセーがタバコって一体どうなってんだ!
   世も末だよ。
   そう思わね?ゆっきい。」

幸美「いや、まあ・・・
   そうですね。」

 詩「なあ、腹すかね?
   何か食ってけ。」

幸美「いいんですか?」

 詩「もうタダでもらう気になってるな。」

幸美「あ、ごめんなさい!」

 詩「冗談だよ・・・
   へへ、ウチはひと味違う品揃えだからな。」

幸美「へえ。」

 詩「ほら、これ。
   みかんアメ。」

幸美「りんごじゃないんですか?」

 詩「りんごは高いから。」

幸美「しかもこれ、1粒だけじゃないですか。」

 詩「惜しい!
   ビミョーに違う。
   半粒だから。」

幸美「ビミョーにショボイですね。」

 詩「そ、ビミョーに・・・
   これなんかどう?
   さっき焼いたばっかのタコ焼き。」

幸美「あ、おいしそうです。」

 詩「だろ。
   しかもホラ見て。」

幸美「当たりが1つ入ってます?」

 詩「ま、食べてみ。」

     2人で1つずつ食べてみる。

 詩「うめえだろ?」

幸美「おいしいですけど・・・
   何も入ってないですよ。」

 詩「だから当たり付きなんだって。
   6個に1個の割合でタコが入ってる。」

幸美「ちょっとセコくないですか。」

 詩「タコ入ってるかな、どうかなーって、わくわくすんだろ?」

幸美「無理矢理ですね。」

 詩「よーし、これはどうだ。
   これはまともだぜ。
   カステラ。」

幸美「あー、アンパンマンのやつですね・・・
   あれ?
   バイキンマンだ。」

 詩「バイキンマンのカステラ。」

幸美「何であえてバイキンマンなんですか。」

 詩「俺バイキンマン好きだから。」

幸美「食べ物にバイキンマンて、イメージ悪いですよ。」

 詩「アンパンマンだと、業者がボルんだよなあ。
   その点、バイキンマンカステラはほとんどタダみてえな金で仕入れられる。」

幸美「そりゃバイキンマンですからね。」

 詩「だよな~。
   これ作ったやつ絶対方向間違えてるよな~。」

幸美「それを仕入れる方もどうかと思いますけど。」

 詩「ウケるんじゃねえかな、と。」

幸美「ウケを狙ってどうするんですか。」

 詩「ゆっきい、いらね?
   バイキンマンカステラ。
   中身は一緒だし、絶対売れ残るから。
   何しろほとんど売れたことねえんだぜ。
   スゲエだろ。」

幸美「力説しないでください。
   じゃあ、1個もらいます。」

 詩「はいはい、1個なんてケチくさいこと言わず、2個でも3個でも、持ってけドロボウ!」

幸美「いや、ドロボウって・・・」

 詩「どうせ売れねえんだ。
   こうなりゃヤケだ!」

幸美「まあまあ、ヤケにならないで。
  皆川さんも一緒に食べましょう。」

     幸美、詩の口にカステラを押し込み、2人一緒にカステラを食べる。

幸美「中身は一緒ですね。」

 詩「な?」

幸美「人間やっぱり食べるもの食べないとダメですね。」

 詩「さすがゆっきい。
   いいことを言う。」

幸美「私、寮じゃあんまり食べれないんですよね。」

 詩「おっしゃ、タコ焼きももっと寄こせ!」

幸美「はいはい・・・
   皆川さんは物を食べれないなんて事は・・・」

 詩「食えりゃ文句は言わねえよ。
   うちの親父なんか食えねえ物いっぱいだけどな。」

幸美「お父さんが?」

 詩「糖尿だから。」

幸美「ははは。」

 詩「おっとラッキ。
   タコ発見。」     

幸美「何かズルイな。
   自分で食べちゃって。」

 詩「ゆっきいが食わねえからだ。
   ほら、食いな。
   側だけタコ焼きとバイキンカステラ。」

幸美「食べる気なくなりますよ。」

 詩「しかし、相変わらずだれも来ねえな。」

幸美「皆川さん。
   私店手伝いましょうか?」

 詩「え?
   いいよ。」

幸美「一人じゃ大変じゃないですか?」

 詩「いやホントいい。
   もうすぐアイツも来るし。」

幸美「彼氏ですか?」

 詩「まあな。」

幸美「私・・・
   邪魔ですね。」

 詩「んなこた言ってねえよ。」

幸美「あー、私一体何やってるんだろう?」

 詩「暗くなる前に金魚持って帰んなよ。」

幸美「皆川さん。
   聞いてくれる?」

 詩「客来るまでな。」

幸美「私、今学校行ってないんです。」

 詩「何だまたかよ。
   進歩がねえな。」

幸美「そうですよね。
   今夏休みで帰省してるんですけど、学校に戻るかどうかわかりません。」

 詩「好きにしろよ。」

幸美「・・・皆川さんには関係ないことですもんね。」

 詩「ゆっきい、お前、俺怒らせようとしてんのか?」

幸美「バカですよね、私。
   高三だからって塾の夏期講習なんか行ったりして。
   その前に高校卒業しなきゃ意味ないのに。」

 詩「るせえよ。」

幸美「こういう性格だから私。
   何回学校行っても同じこと。
   みんなとうまく行かなくて、はね者にされて。
   友達なんか1人も出来ない。
   一生こうだ。
   私一生ダメな人間なんだ・・・」

 詩「てめえ、ぶっ飛ばされてえのか!」

     詩、幸美につかみかかる。

 詩「俺たちゃ友達じゃねえってのか?
   え?
   どうなんだよ!」

     突然雷鳴と共に 激しい雨が降り始める。

 詩「お前なんか濡れちまえ!・・・
   どうした?
   反撃しろよ。」

     雨の中バシャバシャと水を掛け合う2人。
     もう全身ビショ濡れだ。
     雷はおさまるが小雨は続く。

 詩「俺達ホントバッカだよなあ。」

幸美「花火大会中止ですねー、これ。」

 詩「どうすんよ?
   ビッチャビチャだぜ、俺ら。」

幸美「いいじゃないですか。」

 詩「良かねえよ!」

幸美「思い出しました。」

 詩「何を?」

幸美「あれ。
   (木札を指さして)何か小動物のお墓ですよ。」

 詩「小動物だって?」

幸美「それこそ金魚とか。
   近所の子供が立てたんですよ、昔。」

 詩「ふーん。」

     携帯電話の着信音。詩が出る。

 詩「もしもし・・・
   あーもうビッチャンコ、はよ迎えに来て・・・
   え、何で?
   そんな時間までどうせえっちゅうの!・・・
   客なんかいるわけねーだろ。
   花火中止だし・・・
   えー?
   ビタ一文ねーよ・・・
   何言ってんだ、このバカ!」

     詩、携帯電話を投げ捨てる。

幸美「ケンカですか。」

 詩「ああ。」

幸美「ダメじゃないですか。
   彼氏と仲良くしないと・・・」

 詩「るっせーよ。」

     詩、しゃがみ込むと泣き出す。
     音楽入る。

幸美「皆川さん?」

 詩「・・・彼氏なんかじゃねえよ。」

幸美「え?」

 詩「うちのヘンタイ親父だよ。」

幸美「・・・(言葉がみつからない)」

詩「娘にこんな格好させやがってよ・・・
   挙げ句の果てにゃ、晩メシ代ねえからって・・・」

幸美「言わなくていいよ!」

 詩「娘にそんな事させる親がどこにいんだよう・・・」

幸美「ウタちゃん・・・」

 詩「ゆっきい・・・」

     音楽大きくなる。
     落陽。
     秋の気配。
  ~おしまい~ 


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ラストクリスマスver.1

「ラストクリスマス ver.1」  


【登場人物】♂椎野冬樹(しいの・ふゆき)・・・高校3年生。演劇部員。

      ♀星崎未唯(ほしざき・みゆ)・・・高校3年生。演劇部員。


  電気のスイッチが入ると、そこは演劇部の部室である。
     中央に大きめの机とイスがあり、4、5人は座れそう。
     かなり雑然とした様子で、ほとんど掃除されていないようだ。
     今入って来てスイッチを入れたのは椎野冬樹。
     制服の上にコートとマフラーを着用。
     下げていた大きな袋を下ろすと震えながら部屋の隅に置いてあった電気ストーブを持って来てつける。
     しばらくストーブにあたっていた冬樹は袋の中からクリスマスツリーを出すと、机の上に置いてあった物をどけて置く。
     さらに写真立てを出すと、それをじっと見ている。
     何やらいわくありげだ。
     写真立てを置いた冬樹は、タバコの箱とライターを出し、1本取り出して火をつけようとする。
     と、その時、外から大きな物音と女の子の悲鳴が聞こえる。
     驚いた冬樹がタバコとライターを制服に隠して入り口に向かうと、悲鳴の主である女子高生がドタバタと入って来る。
     星崎未唯である。
     冬樹を見ると再び大きな悲鳴を上げて入り口付近にしゃがみ込む。
     冬樹は未唯に近づき、声を掛ける。

冬樹「星崎?」

未唯「冬樹君・・・
ああ、びっくらこいたー。」

冬樹「そりゃこっちのセリフだ。
いきなり人の顔見てキャーはないんじゃねーの。」

未唯「お化けかと思っちゃった。」

冬樹「はあ?」

未唯「だって外真っ暗だよ。
   やっとの思いでここにたどり着いたと思ったら、ボーッと突っ立ってる人がいるんだもんなー。」 

冬樹「俺はお化けか。」

     未唯、立ち上がると冬樹の顔を両手でつねる。

冬樹「あたっ!」

未唯「良かった、お化けじゃなくて。」

冬樹「人の顔で確認するなよ。
   よーし・・・」

     冬樹もお返しに未唯の顔をつねろうとするが、未唯はその手をピシャリと叩く。

未唯「何すんのよ!
   ヘンタイ!」

冬樹「そりゃねーだろ。
   お化けの次はヘンタイかよ。」

未唯「女の子に触っていいと思ってんの!」

冬樹「顔くらい、いーだろ。」

未唯「ほか触ったらぶっ殺してやる。」

冬樹「いや、星崎のほかのとこ触ろうとは全く思わないけど。」

未唯「それはそれでムカツクな・・・
   あー、クサイよ、クサイ!」

冬樹「しばらく風呂入ってねえからな。」

     未唯、鼻をつまんで冬樹から離れる。

未唯「お前は汚ギャルか!」

冬樹「最後に風呂入ったのは1か月前かな・・・」

未唯「(冬樹の方をかぎながら)そういう見え透いた手に引っ掛かると思ったら大間違いだよ。
   ほら、この辺りまでプンプンにおって来るんだから。」

冬樹「何のことかな?
   明智君。」

未唯「まだタバコやめてないの?」

冬樹「言いがかりだな、明智君。」

未唯「あくまでシラを切るつもりなら、私帰る。」

冬樹「ちょ、ちょっと待てよ。」

未唯「観念して出しなさいよ、タバコ。」

冬樹「わかったよ。(未唯にタバコの箱とライターを渡す。)」

未唯「全くもう・・・
   何回没収されたらわかるの?」

冬樹「お前にゃ関係ねえだろ。」

未唯「あのねえ・・・
   あんたが部室でタバコ吸ってくれるおかげで、どれだけ迷惑してると思ってんの?」

冬樹「わかったわかった。」

未唯「わかってない。
   もう1回先生にバレたら学校ヤバイんでしょ?」

冬樹「いいよ。
   どうせ俺なんかさ・・・」

未唯「バカッ!(冬樹にライターを投げつける。)」

冬樹「(ライターを拾いながら)ごめん。
   俺が悪かったからさ、許してくれよ。」

未唯「わかった。
   それはもう言わない。」

冬樹「まあ、落ち着いて座れよ。」

未唯「私、もう1つあんたに言いたいことがあるんだけどな。」

冬樹「まだ何かあるのか?」

未唯「外真っ暗だったんだけどねー。」

冬樹「冬の陽が落ちるのは早いからな。」

未唯「私が言いたいのは、何で廊下の電気の1つもつけててくれないのか、ってことよ。」

冬樹「あー、電気ね、電気・・・」

未唯「私に対する嫌がらせ?」

冬樹「とんでもない。
   実は俺貧乏性でさ・・・」

未唯「それはよーく知ってるよ。
   いつも穴の開いた靴下はいてるもんね。」

冬樹「そりゃ小学校の時だっつうの!・・・
   まあとにかく、使ってない所の電気はついつい消しちまうんだよな。」

未唯「お前は後から来る人のこと考えないのか!」

冬樹「いやまあ、肝試しだと思ってくれ。」

未唯「肝試し?
   何で冬に肝試しやんなきゃならないのよ。」

冬樹「星崎って人一倍怖がりだったよな。
   夜1人じゃトイレに行けないんだろ?」

未唯「それは小学校の話だよ。」

冬樹「修学旅行ん時、キャーキャー大騒ぎしてたもんな。」

未唯「おかげで正座させられた。」

冬樹「そりゃ、夜中に廊下で大声出してちゃな。」

未唯「ちーちゃん誘ってトイレに行っただけなのに・・・
   あれ、何で冬樹君知ってるの?」

冬樹「いや、あん時俺らの部屋もみんな起きててさ、外がうるさいから気になって戸を開けたんだ。
   そしたら、目の前に先生がいて。」

未唯「ご愁傷様です。」

冬樹「おかげで俺らも朝まで正座だよ。
   星崎のせいだったんだからな。」

未唯「あー、ごめんねー。」

冬樹「お前、小学校から変わってねえよな。」

未唯「失礼な!」

冬樹「物にぶつかんなかったか?」

未唯「ぶつかったよ。
   5回くらい。」

冬樹「ははは。」

未唯「笑い事じゃないよ!
   2回派手に転んじゃったし。
   もうパンツ丸出し。」

冬樹「何色?
   白?」

未唯「アホッ!(スリッパで冬樹を強打する。)
   だから、真っ暗で何も見えないっつうの!」

冬樹「いや、白いのが暗闇で光って見えるとか・・・」

未唯「まだ言うか!
   相変わらずむっつりなんだから。」

冬樹「校舎を壊すなよ。」

未唯「私の心配してよ!」

冬樹「お前慣れてるだろ、そういうの。」

未唯「そりゃまあ・・・」

冬樹「普通に歩いてても物にぶつかったり、けつまづいたりするタイプだよな。」

未唯「悪かったわね。」

冬樹「中学の時だっけ?
   電信柱にぶつかって倒したのは?」

未唯「なわけないでしょ!」
   わたしゃゴジラじゃないんだから・・・」

冬樹「でも何かそういうの、あっただろ?」

未唯「あれは・・・
   工事現場の立て札だよ。
   立ち入り禁止とかいうやつ。」

冬樹「それだって普通の人じゃあり得ないと思うけどな。」

未唯「もう!
   私がそういう恐がりプラスドジな人であるのを知りながら、どうして先に来たあんたは電気の1つもつけててくれないのよ。
   このポケモン!」

冬樹「ポケモン?」

未唯「人でなしと言いたかったの!」

冬樹「星崎のセンスにはついていけねえよ。」

未唯「じゃあモスラ。」

冬樹「はあ?」

未唯「ピグモン。
   キングギドラ。
   ヒドラ。
   プラナリア。」

冬樹「だんだん人から遠くなるな。」

未唯「あんたのやったことは、それくらい人の道を外れてんのよ。
   このプラナリアめ!
   何か言いたいことがある?」

冬樹「・・・星崎が本当に来てくれるとは思わなくて。」

未唯「何それ?
   冬樹君から誘って来たくせに。」

冬樹「俺が?」

未唯「とぼけないでよ。
   今年も部室でクリスマスパーティーやるから、卒業する前の思い出に一緒に行こうって、電話くれたんじゃない・・・
   あれ、電話だったっけ?」

冬樹「あ、ああ、そうだよな。
   俺が誘ったっつーか・・・」

未唯「他の子も来るんでしょ。
   しいちゃんとか、まーくんとか、たえことか。」

冬樹「・・・」

未唯「何ぼうっとしてんのよ。
   私、1、2年の子も来るのかって、聞いてんだけど。」

冬樹「あ、ああ、ごめん。
   1、2年も来ると言うか、どっちかっつーと俺たちが押しかけて来たようなもんだ。
   とうに引退してるわけだし。
   それで俺が話をかぎつけて、星崎にも声を掛けてやったというわけだ。」
   
未唯「ふうん。
   じゃあ、もしかしておじゃま虫ってわけね。」

冬樹「そうは言ってねえよ。」

未唯「アホ。
   あんたもだよ。
   引退した人間が、こういう時だけノコノコやって来ても良かったのかなあ?」

冬樹「お前、何か妙に被害意識持ってねえか?」

未唯「電気を全部消されてた恨みは、簡単には晴れないからね。」

冬樹「わかったよ。
   謝るからさ。
   俺が悪かったです。
   ごめんなさい!
   いい加減機嫌直せよ。」
   
未唯「しょうがない。
   許してやるか。」

冬樹「ふう・・・
   しっかし冷えるな。
   こんなストーブじゃ、間に合わないぜ。」

未唯「そう?」

冬樹「星崎、お前・・・」

     見ると未唯は上着すら着ていず、しかも半袖の夏服姿だ。
     冬樹は(寒くないのか)という言葉を飲み込む。

未唯「何?
   私の顔に何かついてる?

冬樹「あ、いや、ごめん。
   つい、見とれちまった・・・」
   
未唯「ヤーダ、もう!(冬樹を強くたたく)
   冗談なんか言っちゃって。」

冬樹「お前なあ・・・
   さっきからもうちょっと手加減しろよ。」

未唯「いいの。
   男はたたかれてナンボだから。」

冬樹「どういう理屈だよ。」

未唯「あー、でも良かったー。
   真っ暗だったから、本当にパーティーあるのかって、不安だったよ。
   ホント、ムチャクチャ恐かったんだから。」
   
冬樹「オシッコ、チビんなかったか?」

未唯「バカ。」

冬樹「そう言や・・・(笑いを押し殺している)」

未唯「あー。またヤなこと考えてるな。」

冬樹「お前、小学校でおもらししたことあったよな。」

未唯「忘れろ。」

冬樹「いや、あれはまだ昨日のことのように鮮明に覚えてるな。」

未来「しょーもないこと覚えてる頭があったら、英単語の1つでも覚えなさいよ。」

冬樹「ヤバイ・・・
   俺の方がトイレに行きたくなって来た。」

未唯「ダメだよ!
   ここ、1人じゃ怖いからね。」

冬樹「ほっときゃしねえよ。
   お前ホントに怖がりなんだな。」

未唯「だって怖いものは怖いのよ。
   私、お化けとか宇宙人とか、死んでも会いたくないもん。」

冬樹「何でそこで宇宙人が出て来るんだよ。」

未唯「心理テストでさ、夜道で出会うのどちらが嫌ですか、っていうのがあった。」

冬樹「へえ。
   星崎はどっちなんだ?」

未唯「どっちも嫌。」

冬樹「そんな答アリかよ。」

未唯「だってさ、お化けはもちろん怖いでしょ。
   だけど宇宙人だって恐いんだよ。
   宇宙船に連れ込まれて・・・
   やめて、やめて!・・・
   キャーッ!」

冬樹「お前何想像してんだよ。」

未唯「体中のいろんなトコを改造されるんだよ!」
   私もうオヨメに行けなくなっちゃう!・・・
   何言わせんのよ、嫌らしいなあ、もう!」

冬樹「想像してるお前の方がよっぽど嫌らしいよ。」

未唯「世界中には、密かに宇宙人に改造されちゃった人がたくさんいるんだよ。」

冬樹「信じるなよ、そんなの。」

未唯「あ、じゃあさ、お化けはいるよね、絶対。」

冬樹「・・・どうだかな。」

未唯「冬樹君はどっちが嫌?
   お化けと宇宙人。」

冬樹「俺か?
   俺は・・・
   宇宙人かな。」

未唯「ほらやっぱ、改造されるの怖いんじゃん。」

冬樹「いやそうじゃなくて、何か不気味だろ?
   宇宙人って。」

未唯「宇宙人の方か・・・
   宇宙人ね・・・
   お化けは平気なの?」

冬樹「お化けはもともと人間だろ。
   かわいい女の子のお化けなら会ってもいい。」

未唯「何それ?
   スケベ丸出し。」

冬樹「出来たら巨乳でお願いします。」

未唯「さすがむっつり。」

冬樹「あ、後、25歳以下独身に限ります。」

未唯「一生やってろ。」

冬樹「で、どうよ?」

未唯「どうって?」

冬樹「心理テストの結果だよ。」

未唯「ああ。
   えっとね、あなたが友情と恋愛のどちらを重視するかというテストです。
   お化けを選んだ人は恋愛で、宇宙人が友情だったかな。」

冬樹「じゃ、俺友情重視か。」

未唯「ちょっと待って。
   逆だったかも知れない。」

冬樹「まあ、どっちでもいいけど。
   星崎は両方か?
   何か都合良すぎるんじゃねえの?
   両方って。」

未唯「良くないよ。
   最悪じゃん、友情も恋愛も両方なんてさ・・・」

冬樹「うう・・・(股間を押さえて苦しんでいる)」

未唯「人が友情か恋愛かという話をしてる時に、みっともない格好しないでくれる?」

冬樹「お前のために我慢してるんだろうが。」

未唯「他の子が来るまで我慢出来ない?
   
冬樹「もらしても・・・
   よろしければ・・・」

未唯「わかったよ。
   トイレ行って来て。」

冬樹「怖いんだったら一緒に行くか?」

未唯「ヤダ。
   冬樹君待ってる間が怖いじゃん。」

冬樹「ならトイレの中までついてくりゃいいだろ。」

未唯「いいよ、もう。
   早く行って来て。」

冬樹「はいはい。」

未唯「マッハで帰って来んのよ。」」

     冬樹、生理現象に苦しみながら、入り口でためらい、未唯に声を掛ける。

冬樹「絶対よそに行くんじゃねえぞ。」

未唯「行かないよ。」

     冬樹が出て行く。

未唯「外は怖いっつってんのに、行くわけないじゃん、全く。」

     未唯は部屋の中を観察して、ツリーの横に置いてある写真立てを手に取る。
     写真を確かめると何かを悟ったかのように、大きくため息をつく。

未唯「やっぱりね・・・
   いつの写真よ、これ・・・」

     それを元に戻して、散らかり放題の棚の下段を見ようとしゃがみ込んだ所に冬樹が戻って来る。
     ちょうど冬樹の目の死角に未唯がいる。

冬樹「星崎!」

未唯「何よ、大きな声出して。」

冬樹「いたのか・・・」

未唯「よそに行きゃしないわよ。
   あ、廊下の電気消してないでしょうね。」

冬樹「トイレまではつけといたよ。」

未唯「少しは学習したようね。
   だけど、どうせなら入り口からずっとつけて来りゃ良かったのに。」
   これから1、2年が来るんでしょ?」

冬樹「すぐ帰って来いって、言ったじゃないか。」

未唯「へりくつ言わないの・・・
   ところでさ、今何時?」

     冬樹、携帯電話で時刻を確かめようとするが

冬樹「あ、ごめん。
   電池切れだ。

未唯「役に立たないなあ・・・(自分の携帯電話を出して確かめる)
   みんな来るの遅くない?
   もう6時半になるんだけど。」

冬樹「そうか?
   約束は7時だろ。」

未唯「え、ウソ?
   6時半って冬樹君が言ったんだよ。」

冬樹「いや、7時だよ、7時。」

未唯「じゃあ、私の勘違い?・・・
   それとも、冬樹君私にウソを教えた?」

冬樹「・・・そんなこと、するかよ。」

未唯「今、ちょっと考えたでしょ。
   やっぱウソついてたんじゃないの?」

冬樹「いや、ウソをついた覚えはないけど・・・
   もしかしたら、間違えて伝えたかも知れないな。」

未唯「しっかりしてよ!
   真っ暗ん中、必死で来たんだよ、私。」

冬樹「だから、それは謝るよ。」

未唯「あれ?
   冬樹君は7時って知ってたんだよね?」

冬樹「ああ。」

未唯「じゃあ、何でこんな早くから来てたの?」

冬樹「早く来たっていいだろう。」

未唯「えー、おかしいよ。
   いつもは遅刻魔のくせに。
   何かたくらんでない?」

冬樹「違うって。」

未来「先に来て、隠れててワッ!とやろうとしてたとか。」

冬樹「俺はガキかよ。」

未唯「わかった!
   時間間違えたんでしょ。
   あっちゃー、1時間早く来ちゃったー、とか。」

冬樹「そのキャラはお前だろ?」

未唯「ひっどーい。」

冬樹「天性のドジだからな、星崎は。」

未唯「何よー。
   もう頭に来た。
   遅刻の帝王って呼ばれてるくせに。」

冬樹「誰がそんなこと言ったんだよ。」

未唯「冬樹君とこの担任。」

冬樹「うっ・・・」

未唯「1学期だけで3回も親呼ばれたんだって?」

冬樹「なぜそれを知ってるんだ?」

未唯「私、あの先生に言われたんだよ。
   星崎さん、椎野に遅刻しないように言ってくれって。
   私に言われたってさ。」

冬樹「関係ねえよな。」

未唯「でしょ。
   あの先生さ、私たちが付き合ってるとでも思ってるみたい。」

冬樹「マジかよ。」

未唯「ホント困るよね。
   そういう勘違いって・・・
   冬樹君?」

冬樹「え、何?」

未唯「今何か考え事でもしてた?」

冬樹「いや別に。」

未唯「今日何かおかしくない?」

冬樹「いや・・・
   つーか、寒いんだよ、マジで。」

未唯「キャーッ!」

     未唯、突然悲鳴を上げて冬樹の後ろに回り込む。

冬樹「な、何だ?」

未唯「ゴキブリ!・・・」

冬樹「え、どこ?」

未唯「あっち、逃げた。」

     冬樹、かがんで未唯の示す方を探す。
     未唯は冬樹のコートをつかんで後ろから離れない。

冬樹「おい!(引っついてちゃジャマだろ)」

未唯「ゴキブリ大嫌いなんだもん。」

冬樹「俺だって好きじゃねえよ!」

未唯「男でしょ!
   絶対捕まえて。」

冬樹「よーし。」

     冬樹、棚の下段にあった昔の台本を持つと、さらに前屈みになってゴキブリを逃がすまいという姿勢をとる。

冬樹「ホントにいたのか?」

未唯「ホントだって・・・
   キャーッ!」

     未唯背後から冬樹を突き飛ばす。
     無様に頭から床に激突する冬樹。

冬樹「いってえ・・・」

未唯「ホラ、あっちよ、あっち!」

     冬樹、態勢を立て直すと、ペシッと台本で床を叩く。
     見事にゴキブリを捕獲したようだ。

未唯「取れた?」

冬樹「バッチシ。」

未唯「その下にいるのね・・・
   ちょっとどいてくれる?」

冬樹「ああ。」

     未唯、ファイティングポーズをとると、女子プロレスラーのように気合いを入れ、かけ声とともにゴキブリ入りの台本を踏みつけたり、グリグリとすりつぶそうとしている。
     
冬樹「あのう・・・
   星崎?」

     未唯、手を休める。
     吐息が荒い。
     と、まるで貧血を起こした美少女のように、よよとその場に崩れ落ちる未唯。
     冬樹、あわてて近寄り、未唯が無事かどうか確かめようと、指でつつく。

冬樹「お、おい、星崎!」
   大丈夫か?」

未唯「ちょっと。
   どさくさに紛れてどこ触ってんのよ、エッチ!」

冬樹「いや、ホント、大丈夫なのか?
   急に倒れたりして。」

未唯「演技に決まってるじゃん。
   大丈夫だから気易く触らないでよ。

冬樹「何だよ・・・
   一瞬でも心配して損したな。」

     冬樹、未唯を軽く蹴り飛ばす。

冬樹「オラ、起きろ!」

未唯「ひっどーい。
   か弱い女の子に何すんのよ!」

冬樹「ウソつけ・・・
   ところで、あれどうするよ?」

未唯「あれって?」

冬樹「星崎が潰したゴキブリ。」

未唯「ああ、あれね・・・
   かわいそうなゴキブリちゃん・・・
   合掌。」

冬樹「おい!・・・
   ホントどうするよ?
   床にゴキブリの汁がついてるぞ、きっと。」

未唯「冬樹君、処理しといてね。」

冬樹「お前、たたられるぞ、ゴキブリに。」

未唯「さっき私の変なトコに触った罰だよ。」

冬樹「変なトコなんか触ってねえよ!」

     冬樹、嫌々ながら散乱した台本で、惨殺されたゴキブリの亡骸を包み取り上げる。

冬樹「こんなことなら、他のトコ触っとくんだったな。」

未唯「残念でしたー。」

冬樹「これさあ、去年の大会の台本なんだけど。」

未唯「ごめんね、台本さん。」

冬樹「やれやれ。」

     冬樹、台本とゴキブリの惨死体をゴミ箱に捨てに行く。
     未唯は、棚の下段をのぞき込んで

未唯「うわ!
   まだたくさん残ってるよ、去年の台本。」

冬樹「確か50部作らされたからな。」」

未唯「そうそう。
   今年は県大に行くぞ!
   って先生張り切っちゃってさ。」

冬樹「県大に行ってから考えりゃ良かったのにな。」

未唯「ねえ。
   何で先生があんなに張り切ってたか、知ってる?」

冬樹「さあな。」

未唯「冬樹君がいたから。」

冬樹「んなことはねえだろ。」

未唯「ホントだって。
   私部長だったから先生から聞いてたんだ。
   『今年は椎野がやる気になってるから、有望だぞ。』って。」

冬樹「え?
   何で俺が?」

未唯「そりゃあ貴重な黒一点だったから。」

冬樹「松崎だっていただろ。」

未唯「まーくんは1年だし、裏方専門だったから。
   男が1人舞台に出るだけで違うんだって、先生言ってたよ。」

冬樹「何だかな・・・
   星崎にうまくだまされたよ。」

未唯「えー?
   何か人聞き悪いんだけど。」

冬樹「一番始めは、宿題見せてやるから、木を切るの手伝ってくれって言われたんだよな。」

未唯「だましてないじゃん。
   1年の夏休みの宿題、全部見せてあげたでしょ。」

冬樹「いや、まあ、それは感謝してるよ。」

未唯「それだけじゃないよ。
   冬樹君、追試受からないで出された課題まで私にやらせたじゃない。
   しかも、国数英全部!」

冬樹「今思えばあれもはめられたよ。」

未唯「また人聞きの悪いことを言う。」

冬樹「国語はバレてたんだよな。
   教科担は顧問の先生で。」

未唯「そりゃあバレバレだったかもね。
   私の字だって。」

冬樹「だろ?
   で何て言われたと思う?
   見逃して欲しかったら、次の劇で役者をやれって。
   嫌なら課題の量を百倍にするぞって。」

未唯「そりゃ不可能だわ。」

冬樹「ミッションインポシブルかっつうの・・・
   なあ正直に言えよ。
   お前先生とグルだっただろ、あれ?」

未唯「バレたか。」

冬樹「たく。」

未唯「でも楽しかったでしょ、お芝居やるの。」

冬樹「まあな。」

未唯「1年ときは部活だけやりに来てたような日もあったよね。
   放課後だけ来たりとか。」

冬樹「そうだな。
   正直な所、俺1学期で学校やめようかと思ってたもんな。」

未唯「やっぱそうだったか。」

冬樹「俺勉強苦手だから、お前と同じ高校に受かったのが不思議なくらいだもんな。
   授業受けてて、来る学校間違えたと思ったよ。」

未唯「クラブに入って良かったでしょ。」

冬樹「まあな。」

未唯「宿題も全部、見せてあげてるし。」

冬樹「恩着せがましく言うなよ。」

未唯「私さ、やっぱ冬樹君に学校やめて欲しくなくって。」

冬樹「お前には関係ねえだろ。」

未唯「私にそんなこと言われるの嫌?・・・
   でもでも・・・
   小学校からずっと一緒だし・・・」

冬樹「ごめん。
   言い方悪かったな、俺。」

未唯「いいよ・・・
   部活の方もすごくやる気にになってくれて、うれしかったよ、私。」

冬樹「そりゃやっぱ星崎がな・・・」

未唯「え?
   私が?
   何?」

冬樹「いや、星崎もすごく頑張ってただろ。
   だから・・・」

未唯「でしょ!
   私、部活であんな一所懸命になれるとは思わなかったな。」

冬樹「俺もだ。」

未唯「何と朝練までやったりして。」

冬樹「そうそう。
   やったよなー。」

未唯「冬樹君、おかげであの時だけは学校遅刻しなかったよね。」

冬樹「ま、その気になりゃ何でもできるってことだな。」

未唯「また調子にのって。
   みんなが集まる時間に来たことなんかなかったじゃん。」

冬樹「朝7時に学校ってのは、さすがにな。」

未唯「だから迎えに行ってあげようって言ったのに。」

冬樹「そりゃやっぱ、周りの目とかあるしな。」

未唯「今だから言うけど、私冬樹君のお母さんから頼まれてたんだよ。
   起こしに来てあげて、って。」

冬樹「え、マジか?」

未唯「うん。
   私が起こしてもすぐ寝ちゃうからって。」

冬樹「くそ!
   余計なことしやがって・・・」

未唯「ま、小学校と違うから、私もちょっと気が引けてたんだけど。」

冬樹「星崎も俺みたいな不良とうわさになっちゃ嫌だよな。」

未唯「そんなことはないけど・・・
   あ、でも部活で遅くなったら送ってくれたよね。」

冬樹「そりゃま家近くだもんな。」

未唯「何か小学校以来だから照れちゃったよ。」

冬樹「バカ言え。」

未唯「冬樹君にも優しい所があるんだって・・・
   ちょっとうれしかったな。」

冬樹「まあ万一ってこともあるからな。
   昼間じゃ考えられねえけど。」

未唯「何が考えられないのよ!」

冬樹「暗いと間違えて襲われるかも知れないだろ。
   制服だしな。」

未唯「あー、失礼な・・・
   でもね、でもね、この制服ってカワイイよね。
   私なんかさ、初めてこれ着たとき、鏡見てから
   『キャー、私カワイイ!襲われちゃったらどうしよう?』
   ってマジで思ったもん。」

冬樹「はは。
   確かに制服はな。」

未唯「ひっどー・・・
   もうこの制服も着れなくなると思うと、さびしいな・・・」

     冬樹、黙って未唯を見ている。

冬樹「・・・お前とは腐れ縁だよなあ。」

     間

未唯「寂しくなるね。」

冬樹「何が?」

未唯「もう口げんかする相手もいなくなると思うとね。」

冬樹「星崎・・・」

未唯「卒業だもんね。
   もう会えなくなるかも知れないよね。」

冬樹「わかんねえだろ!
   そんなことは。」

     間

未唯「みんななかなか来ないね。」

冬樹「7時って言や7時きっかりに来るんじゃねえの?
   あいつらのことだし。」

未唯「そうだね・・・
   部屋の片付けとかしとく?
   パーティーやるって言っても、これじゃあね・・・」

冬樹「星崎。」

未唯「何?
   怖い顔して。」

冬樹「いや、やろう。
   部屋の片付け。」

未唯「変なの。」

     2人で部屋の片づけを始める。

未唯「あ、見てこれ。
   写真がいっぱい出て来た。」

冬樹「いつのだ?」

未唯「あ、これダメ!」

冬樹「何隠してるんだ?」

未唯「これ、私写ってるから。
   1年の文化祭の時の。」

冬樹「だったら俺も写ってるだろ。
   見せてくれ。」

未唯「ヤダ。
   はずかしいもん。」

冬樹「そうやって隠されると、かえって見たくなるだろ?」

未唯「何それ?
   エッチ!」

冬樹「何言ってんだよ。」

未唯「スカートの中のぞきたがるヘンタイみたいだよ。」

冬樹「じゃ、いいよ。」

未唯「あー。
   ごめんね。
   見ていいよ、ホラ。」

冬樹「・・・こりゃ俺の方がはずかしいじゃん。」

未唯「冬樹君まだ髪が短かかったんだ。」

冬樹「中学校丸刈りだったからな。」

未唯「ホント私らの中学信じられないよね。
   未だに男子は丸刈りって、あり得ないよね、あの校則。」

冬樹「人権無視だよな。
   先生はムチャクチャ怖かったし。」

未唯「冬樹君、よく遅刻して殴られてたよね。」

冬樹「あれで俺ますます頭が悪くなったんだ。」

未唯「何言ってんだか・・・(写真を見て)
   冬樹君、カワイイ・・・」

冬樹「おい、寄こせ!
   処分しよう、これは。」

未唯「え~、ダメだよう。
   思い出に残しておかなきゃ。」

冬樹「わかったよ。」

未唯「ふふ、カワイイ・・・」

冬樹「星崎も昔はまだかわいげがあったのにな。」

未唯「あ、それひどいなあ。」

冬樹「俺達いつから知ってるんだっけ?」

未唯「小学校入ってからだよ。
   よく泣かされたよね。」

冬樹「何言ってんだ。
   泣かされてたのは俺の方だ。」

未唯「えへへ、そうだった・・・」
 
冬樹「俺、ずっと小っちゃかったからな。」

未唯「そうだよね。
   中学入って急に背高くなったよね。」

冬樹「男はそういうもんだろ。」

未唯「私なんか中1で成長止まっちゃったからね。」

冬樹「ふうん。
   胸も?」

未唯「バカ。」

冬樹「ごめん。」

未唯「あるわよ。
   少しは。」

冬樹「ははは。」

未唯「笑うなー!」

     未唯、向こうを向いている。

冬樹「星崎、ごめん。
   俺調子に乗って変なこと言っちゃったな。
   怒らないでくれ。」

未唯「怒っちゃいないよ。」

冬樹「え?」

未唯「恥ずかしいんだよ・・・」

冬樹「・・・片づけようぜ。」

未唯「ねえ、やっぱ片づけないでおこうよ。」

冬樹「何だよ、もう疲れたのか?」

未唯「そうじゃなくて、このまま残しておきたくなったんだ。」

冬樹「この汚いのをか?」

未唯「だって思い出がいっぱい詰まってるんだもの。」

     未唯部屋の中を見て回りながら

未唯「ホラ、この棚の中とかさ・・・
   この壁の落書きは冬樹君が書いたんだよね?・・・
   ここは私が転んでへこました所だし・・・
   ここは冬樹君がタバコでこがしちゃった所・・・
   このままタイムカプセルに入れて永久保存しときたいよ。
   そう思わない?」

冬樹「俺は嫌だな、そういうの。」

未唯「このまま時間が止まればいいのになー。」

冬樹「星崎・・・
   ふう、マジ寒くてそんな気分じゃねえよ。」

未唯「ねえ、今日雪降らないかな?
   ここから見えるホワイトクリスマス。
   最高じゃない?」

冬樹「お前今日はやけにロマンチストだな。」

未唯「だってもうここに来るの最後かもしれないんだよ。」

冬樹「・・・最後なんて言うな。」

未唯「私今日部室に来て良かったよ。
   冬樹君のおかげだな。」

冬樹「そう言ってもらえるとありがたい。」

未唯「ねえ、ツリーの飾り付けとかしないの?」

冬樹「他の連中が来たらやればいいと思ってた。」

未唯「やっちゃおうよ。
   どうせヒマだし。」

     2人で飾り付けを始めるが冬樹には気になる物がある。
     ツリーの横に置いてしまった写真立てだ。
     冬樹はスキを見て写真立てを隠す。

未唯「今、何か・・・」

冬樹「ホラホラ休んでないで・・・」

未唯「隠さなかった?」

冬樹「何言ってんだ。
   気のせいだよ。」

未唯「・・・何だかさびしいパーティーだね。」

冬樹「いや、だから、これからいろいろ持って来るんだよ。」

未唯「1、2年が?」

冬樹「ケーキだけは俺が持って来た。」

     冬樹、ケーキを取り出して机の上に置く。

冬樹「みんなが来るまで待つつもりだったんだけど。」

未唯「小っちゃいね・・・
   あ、ゴメン。」

冬樹「たく。
   星崎は色気より食い気だな。」

未唯「まあ失礼。
   あ、でもこれ○○○のケーキじゃない?
   私、ここのケーキ好きなんだ。」

冬樹「ローソクだけはでかいんだ。」

未唯「ねえ、他の子たちちょっと遅すぎない?」

冬樹「買い物に時間掛かってんだろう。」

未唯「でももう7時になるんじゃない?」

冬樹「星崎。」

未唯「何?
   又怖い顔して。
   ホント今日変だよ、冬樹君。」

冬樹「ごめん。
   誰も来ないよ。」

未唯「え?」

     間

未唯「ウソ。
   部室でクリスマスパーティーって・・・」

冬樹「みんなで、とは言ってない。」

未唯「7時に集合じゃないの?」

冬樹「ゴメン。
   それもウソだ、全部。」

未唯「何で?
   何でウソなんか・・・」

冬樹「星崎が帰ってしまうんじゃないかと思って。」

未唯「じゃあさ、もしかして私と冬樹君の2人だけ?
   それってヤバくない?」

冬樹「すまない。
   だますつもりじゃなかったんだ。
   本当に星崎が来てくれるとは思ってなくて。」

未唯「何でえ?
   ヤバイよう。
   私そんなつもりで来たんじゃないよ!」

冬樹「帰るのか?」

未唯「もう、外真っ暗だよ。
   1人じゃ帰れない。」

冬樹「星崎!
   お願いだ。」

未唯「何よ。」

冬樹「俺のこと嫌いじゃなかったら、もう少しここにいてくれないか。」

未唯「・・・嫌いじゃないよ。」

冬樹「軽蔑してる?
   俺のこと。」

未唯「そうだね。」

冬樹「やっぱり。」

     間

未唯「ねえ、もしかして襲おうとしてる?
   私のこと。」

冬樹「まさか。」

未唯「まさかとは何だ!
   まさかとは!」

冬樹「ああ、ゴメン、つい・・・」

未唯「私やっぱり帰る。」

冬樹「待ってくれ!」

未唯「送ってくれなきゃ帰れないよ。」

冬樹「じゃあ送ってやらない。」

未唯「いて欲しいの?」

冬樹「ああ。」

     間

未唯「あのさあ。」

冬樹「何?」

未唯「襲ってくれてもいいんだけど。」

冬樹「はは。
   何言ってるんだか。」

未唯「又そうやって冗談ですまそうとするんだね。」

     未唯と視線を合わせることが出来ずオドオドしている冬樹。

未唯「こんな手の込んだことまでして、バカじゃないの?
   まさか、私に言わせるつもりじゃないよね。
   ずるいよ、冬樹君。」

冬樹「星崎。
   好きだ。」

未唯「えっ?」

冬樹「ずっと好きだったんだ。
   だけど、なかなか言い出せなくて・・・   
   俺と付き合ってくれ。」

未唯「・・・ありがとう。」

冬樹「星崎。」

未唯「名前で呼んで。」

冬樹「未唯。」

未唯「うれしい・・・」

冬樹「おい、泣くなよ、未唯。」

未唯「どうして?・・・
   どうして、もっと早く・・・」

     未唯すばやく動く。
     冬樹は金縛りにあったかのように動けず、腰が抜けて床に座り込んでしまう。
     未唯は冬樹が隠した写真立てを見つける。

冬樹「ダメだ・・・
   見ちゃダメだよ、未唯。」

未唯「もういいの。
   ホントはさっき見ちゃったから。」

冬樹「何だって?・・・
   わかってたのか?
   未唯。」

未唯「うん。」

冬樹「今までゴメンよ、未唯。」

未唯「ううん・・・
   本当にありがとう、冬樹君。」

冬樹「未唯・・・」

未唯「この写真、私だよね・・・
   今の私と同じ、クリスマスなのに夏服なんか着てる・・・   
   だって夏休みだったんだもの。
   久しぶりに部活をのぞきに来たら、偶然冬樹君も来てて・・・
   一緒に帰ろうと思ったんだ。」

     冬樹、床にしゃがみ込み顔をおおって泣くのをこらえている。

未唯「なのに冬樹君、どんどん先に行っちゃってさ。
   車の通る道もさっさと1人で渡っちゃって・・・
   私も『待ってー』って通りを渡ろうと思ったんだ。
   そしたら私ドジだから車道で転んじゃって・・・
   そこへ、スピードを出した車が・・

     急ブレーキの音。
 
冬樹「未唯!」

未唯「私・・・
   死んでるんだよね・・・
   寒い・・・
   寒くなって来たよ、冬樹君・・・
   ねえ、腰抜けちゃったの?
   だらしないなあ。
   今度は冬樹君が助けてくれる番だよ。
   寒いよう・・・
   助けてよう・・・」

     冬樹、未唯に近寄り抱きしめてやろうとする。
     照明が完全に落ちる。
     未唯がいなくなった室内で呆然としている冬樹。   
     ふと外を見ると雪が降り始めている。   

冬樹「今頃になって降って来やがったか・・・」

     外で大きな物音がする。

冬樹「未唯!
   ・・・気のせいか・・・」

     冬樹、ふと目に入ったタバコの箱からタバコを1本ずつ取り出してちぎってはゴミ箱に捨てる。

冬樹「くそう!
   くそう!・・・」

     冬樹はテーブルに伏せてしまい、辺りが暗くなると、奇跡が起こる。
     ふと見ると、未唯が使われなかったケーキのロウソクに火をともしている。
     結ばれなかった恋人同士を哀れんで、神様が最後に使わしてくださったのか。

未唯「冬樹君。
   メリークリスマス。」

冬樹「!!!」

     暗がりにローソクの炎が美しく立ち上る。
     外では雪がしんしんと降り続いている。
     まるで全ての悲しみを浄化するかのように。
     幸せそうに微笑む未唯。
     冬樹は泣いているのだろうか。
     伝えられなかった想いを胸に。
     聖夜に起きた一夜限りの奇跡。
     ラストクリスマス。

     ~おしまい~





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