勇気♂、女の所に行く。
女「なかなかうまくやったじゃない。
上出来よ。」
勇気♂「子供は苦手です。」
女「でも、あの子すっかり君になついたみたいよ。」
勇気♂「そりゃ、こっちも命が掛かってるんだから、必死ですよ。」
女「意外と保父さんに向いてるのかもよ。」
勇気♂「冗談はやめてくれませんか。」
女「君、この際同年代の女の子は諦めて、小学生を狙いなさい。」
勇気♂「それじゃ、変態ですよ・・・
全然手術の話なんか出来なかったし。」
女「おいおい話せばいいんだから。
あの子、砂の城を作ってもらおうと思って、明日からもきっと来るわよ。」
勇気♂「じゃあ、僕は毎日放課後それを狙って来ると・・・」
女「そういう事ね。」
勇気♂「・・・ところで思うんですけど。」
女「何よ。」
勇気♂「これってもともと、魔女さんがパソコンを打ち間違えたっていうのが原因ですよね。」
女「まあね。
簡単に修正出来れば良かったんだけど。」
勇気♂「じゃあどうして僕がやらなきゃならないんですか。
その、魔女さんがあの子を説得してくれれば・・・」
女「それが駄目なのよ。」
勇気♂「どうしてですか。」
女「生命を司る魔女って、当事者の人間1人にしか接触出来ない決まりなの。
だから、他の人間には私の姿も見えないってわけで。」
勇気♂「僕じゃなくて、あの子に直接話してくれたら良かったのに。」
女「あんな小さな子に、死ね、なんて言いたくなかったのよ。」
勇気♂「僕だって、言いたかないですよ!」
女「とにかくこうなった以上、四の五の言ってても埒は開かないわ。
君の命は、君が守るしかない。」
勇気♂「何だか、はめられた気がします。」
女「あのお母さん、勇気君の事を人さらいかロリコン変態少年みたいに見てたから、明日からお母さんが戻る前に姿を消した方がいいわ。」
勇気♂「それで、何とかあの子が手術を受けないように説得するんですね。」
女「そう。
本来、あの子は手術を受けないはずだったから。」
勇気♂「死んじゃうんですよね、
あの子は手術を受けないと。」
女「そういう運命なんだから仕方ないのよ。
勇気君、替わりに死んでもいいわけ?」
勇気♂「それは困ります。」
女「でしょ。
私だって困るのよ。」
勇気♂「何か、とんでもない事になっちゃったなあ・・・」
勇気♂と勇気♀砂の城を作っている。
女は小岩に座って見ている。
勇気♂「ねえ、勇気ちゃんは、毎日ここに来てるの?」
勇気♀「うん。
だって勇気、海が大好きだから。」
勇気♂「昔から、この島に住んでるの?」
勇気♀「違うよ。
勇気、夏からここに来てるの。」
勇気♂「お引っ越ししたの?」
勇気♀「うん。」
勇気♂「どうして、お引っ越ししたの?」
勇気♀「わかんない・・・」
間
勇気♂「あ、もしかして、勇気ちゃん、こっちの方が元気になれるからじゃない?」
勇気♀「そう。
ママがそう言ってた。
町の空気は汚くてバイキンがいっぱいいるんだって。」
勇気♂「そうか。
じゃあ、体があまり良くないんだね。」
勇気♀「そんな事ないよ。
でも走っちゃいけないの。
学校もお休みしてる。」
勇気♂「え、学校行ってないの?」
勇気♀「うん。
朝はお家で寝てなさい、ってママが言うから。
お昼からちょっとだけお外に出てもいいの。
だから、勇気、海に遊びに来るの。」
勇気♂「そうなんだ・・・」
波の音。
勇気♀「お兄ちゃん。
波が来てる・・・」
勇気♂「大丈夫だよ。
ほら、今日はこんなにたくさん砂を使って、固くて丈夫なお城を作ったからさ・・・」
波の音。
勇気♂、迫って来る波から何とか城を守ろうとしているが
勇気♀「あっ!」
勇気♂「大丈夫だよ、まだ大丈夫だ。」
勇気♀「でも・・・」
波の音。
勇気♂「ごめん。
やっぱり駄目だった・・・」
勇気♀「いいよ、お兄ちゃん。
だって波がかかっても1回目は大丈夫だったもん。」
勇気♂「そうか・・・」
勇気♀「明日は、2回かかっても大丈夫なのを作ろう。」
勇気♂「あ、あのさあ、勇気ちゃん。」
勇気♀「なあに。」
勇気♂「ママが帰って来たら、ずっと1人で遊んでたって言ってくれないかな。」
勇気♀「どうして?お兄ちゃんと遊んでたのに。」
勇気♂「そう言わないと、明日からお兄ちゃんとは遊べなくなるんだよ。」
勇気♀「嫌だ。
勇気、お兄ちゃんと遊ぶもん。」
勇気♂「だったらお兄ちゃんの事は黙っておくんだよ。」
勇気♀「わかった。」
勇気♂「じゃあ、又明日。バイバ-イ。」
勇気♀「バイバ-イ。」
勇気♂退場。
入れ違うように母が戻って来て勇気♀を連れて帰ると、再び勇気♂帰って来て
女「うまいもんじゃない。」
勇気♂「疲れましたよ・・・
何か本当に犯罪でもしている気分です。」
女「実際あの子をたぶらかして、死なせるわけだから。」
勇気♂「そういう言い方はやめて下さい。
怒りますよ。」
女「まあこの調子なら、何とかなりそうね。」
勇気♂「確認させて下さい。
あの子が手術を受けた場合は、どうなるんでしたか。」
女「成功すれば、あの子の心臓病は治って生き長らえる。
でもそのかわりに勇気君は自殺してしまうってわけ。」
勇気♂「それがわからないんです。
どうして僕が自殺する事になるんですか。」
女「こんな所に授業をサボって来たっていうのが、その前兆よ。
勇気君は、女の子にフラれようが、模擬試験の成績が悪かろうが、学校をサボったりする筈なかったでしょ。
小学校の頃から打たれ強いのが、君の唯一の長所なんだから。」
勇気♂「余計なお世話です・・・
でも確かに昨日の僕はおかしかった。
どうしてこんな所に来たのか、自分でもよくわからないんです。」
女「一日一日、それまで何でもなかった事が、ものすごく辛い事に思えて来て、ついには誰もいない海に身を投げて自殺という事に。」
勇気♂「こんな汚い所で死にたくはありませんよ。」
女「それから、手術が失敗したらあの子は即死。
君は助かるわけだけど、それなら少しでも長く生きた方があの子にとってもいいでしょう。」
勇気♂「まあ、そうですよね。」
女「ところが、その危険な手術、成功率30パ-セントの心臓手術を、1週間後にあの子は受ける気になっちゃってるわけよ、どういうわけだか。」
勇気♂「どういうわけって、それが魔女さんのミスなんでしょう。」
女「ま、そういう事。
あの子は本来手術を受けず、残された1年足らずをお母さんと一緒に暮らして、安らかに死ぬ筈だったのよ・・・
まあ、手術受けても失敗すりゃ問題ないんだけどね。」
勇気♂「手術が成功すると、僕の命が縮むってわけですか・・・
何てひどいとばっちりだ。」
女「教えてあげただけ、良心的でしょ。」
勇気♂「あの子は、どういう手術だかわかってるんでしょうか。」
女「さあね。」
勇気♂「何て無責任な魔女なんだ・・・
じゃあ、僕はこれからどうやってあの子を説得したらいいんですか。」
女「自分の命が掛かってるんでしょ。
それこそ死ぬ気で考えれば何とかなるんじゃない?」
勇気♂「これで死ぬ事になったら、あなたを恨みます。」
女「まあまあ、そんな落ち込まないで・・・
あの子との関係はうまくいってるわけだし。」
勇気♂「僕はまだ、やりたい事がいっぱいあるんですよ。
とりあえず大学に行って、今まで我慢して来た事を思いっ切りやりたい。」
女「へえ、どんな事?」
勇気♂「いや、そりゃ大した事じゃないですけど・・・
バイクや車に乗るとか、お酒にタバコ、それに旅行に行ったりとか、女の子とも遊びたいです。」
女「ホントに、大した事じゃないのね。」
勇気♂「それに死ぬのはやっぱり怖いです。
こんなわけのわからない理由で自殺だなんて、死んでも死に切れませんよ・・・」
勇気♀が1人で遊んでいる。
勇気♂紙袋を持って登場。
遅れて女も入って来る。
勇気♀「あっ!
お兄ちゃ-ん。」
勇気♂「やあ勇気ちゃん。
今日はいい物持って来たんだ。」
勇気♂、紙袋から何か食べ物を取り出して
勇気♂「来る途中お祭りだったから、買って来たんだ。
一緒に食べよう。」
勇気♀「うわあ。ありがとう。」
2人で食べている。
勇気♀「いいなあ。
勇気、お祭り行けないの。」
勇気♂「どうして?」
勇気♀「お家から遠くに行っちゃいけないの。」
勇気♂「お母さんに連れて行ってもらえばいいのに。」
勇気♀「駄目なの。
人がいっぱいいる所は、勇気の体に悪いから・・・」
ハエが飛んで来たみたいだ。
勇気♂ハエを払う。
勇気♂「ハエだ・・・
この辺虫が多いねえ。」
勇気♀「うん。」
勇気♂「あ、今度は蚊だ。」
勇気♀「やめて!」
勇気♂、勇気♀に止まっていた蚊を追い払うと両手で叩いて潰す。
勇気♂「ほうら、勇気ちゃんの血を吸ってた蚊だぞ。」
勇気♀「お兄ちゃんのバカ!」
勇気♂「どうしたの、勇気ちゃん。」
勇気♀「殺さなくてもいいのに。」
勇気♂「どうして?
勇気ちゃんの血を吸ってた悪いやつなんだよ。」
勇気♀「蚊だって生きてたのに・・・
勇気、痒くなっても良かったのに・・・(泣き始める)」
勇気♂「・・・勇気ちゃんはとっても優しいんだね。」
間
勇気♂、泣いている勇気♀をなぐさめようと、おどけて見せる。
勇気♀泣き止んで笑う。
勇気♀「もう虫さん殺さないでね。」
勇気♂「気を付けるよ。」
勇気♀「じゃあ許してあげる。」
勇気♂「・・・勇気ちゃん。
勇気ちゃんは、体のどこが悪いの?」
勇気♀「心臓。
だから走れないの。」
勇気♂「ふうん・・・
もしかして、手術、とかするの?」
勇気♀「うん。
今度、手術、するよ。」
勇気♂「え、そ、そうなの。」
母が戻って来たので、勇気♂あわてて下手側に去る。
勇気♀「お兄ちゃん!」
勇気♂「あ、又明日ね。」
勇気♀、母の所へ行くと去り、それを確認して勇気♂入って来る。
女「危ない所だったわね。」
勇気♂「僕、すごく悪い事してるような気分です。」
女「ねえ勇気君。
あなた間違ってるわよ。
食べ物なんかあげたりしてさ。」
勇気♂「何がいけないんですか。」
女「あの子に情を持っちゃ駄目よ。
自分が辛くなるだけでしょ・・・
ほら、元気出して。」
勇気♂「・・・怖いんです。
僕、本当に自殺してしまいそうな気分なんです。
死ぬのは嫌だ!」
女「手術の話まで聞き出したんだから、後一押しよ。」
勇気♂「・・・はい。」
勇気♂と勇気♀砂の城を作っている。
女は小岩の上に座っている。
勇気♀「勇気、あさってから病院に入るの。」
勇気♂「え、あさって?」
勇気♀「うん。
それから準備して、手術受けるんだって。」
勇気♂「ねえ、手術って怖くない?」
勇気♀「怖くないよ。
だって、勇気、たくさん手術した事あるもん。」
勇気♂「で、でも、今度の手術は特別だとか・・・」
勇気♀「うん、知ってるよ。
失敗したら、勇気死んじゃうんだって。」
勇気♂手が止まっている。
勇気♀「ねえ、お兄ちゃん、
どうしたの?
早く大きなお城作ろうよ。」
勇気♂「そうだね。
波に負けないお城を作ろう。」
2人で砂の城を作りながら
勇気♀「でもね、手術がうまくいったら、勇気、走れるようになるんだって。
そしたら、勇気海のお砂の上を走るんだ。」
勇気♂「・・・」
勇気♀「それにね、お友達と一緒に学校に行って、何でもみんなと同じに出来るようになるんだって。
勇気、あんまり学校に行った事ないから、とても楽しみなんだ。」
勇気♂「・・・」
勇気♀「ねえ、お兄ちゃん。」
勇気♂「あ、ああ・・・」
勇気♀「もっといっぱいお砂を積まなきゃ、又波で崩れちゃう。」
勇気♂「そうだね・・・」
波の音繰り返す。
勇気♂城を波から守ろうとしているが
勇気♀「あ、すご-い。」
勇気♂「だ、駄目だ・・・」
波の音 。
勇気♀「今日は、2回目でもまだ残ってたよ。
お兄ちゃん、やっぱり凄い!」
勇気♂「・・・勇気ちゃん。
その手術って・・・」
勇気♂、たまらなくなって無言でその場を去って行く。
勇気♀「お兄ちゃん!
明日も来てくれるよね。」
勇気♂、振り向いてウンウンとうなずくと、女と一緒に退場。
入れ違いに母が戻って来て、勇気♀を連れて退場。
再び勇気♂と女が入って来る。
女「ちょっと、しっかりしなさいよ。
あの子の方がよっぽどしっかりしてるじゃない。」
勇気♂「あの子にこれ以上何を言えと言うんですか。」
女「いい?
残されたチャンスは明日1日だけだからね。
あの子に、手術が失敗したら死ぬんだって事をしっかり言い聞かせるの。
そして、そんな危険を冒すより、後1年だけでも生きてる方がいいって事を、わからせてあげなきゃ。
その方があの子のためでもあるんだし。」
勇気♂「あの子のためだって?・・・
そんな言い方は卑怯だよ。
僕は、自分の命がかわいくて、あの子に手術をあきらめさせようとしているんだ・・・」
女「同じ事よ。
それがお互い一番いいやり方なんだから。」
勇気♂「違うさ。
あの子は失敗したら死ぬって事がわかってて、それでも成功する方に賭けて手術を受けようとしてるんだ。
それがあの子の選んだ道なんだ。」
女「小さな子だから、まだ判断が甘いのよ。」
勇気♂「違う!
あの子は、僕よりよっぽど良くものがわかってるよ・・・」
女「それならそれでいい。
でも勇気君、あなた死ぬのよ、手術が成功したら。」
勇気♂「何とかならないんですか。
生命を司る魔女なんでしょう、あなた。」
女「君が死ぬか、あの子が死ぬか。答はそれだけよ。」
勇気♀が1人で遊んでいる。
勇気♂が入って来る。
遅れて女も入って来る。
勇気♀「お兄ちゃ-ん。」
勇気♂「やあ。」
勇気♀「お兄ちゃん。
今日は勇気の方からお兄ちゃんにあげる物があるんだ。」
勇気♂「えっ?」
勇気♀、勇気♂にペンダントを渡す。
勇気♀「お兄ちゃんにプレゼント。」
勇気♂「ど、どうしてこんな物を・・・」
勇気♀「お兄ちゃん、毎日遊んでくれたから。
勇気、お兄ちゃんが好きなんだ。」
勇気♂ペンダントをじっと見ているが、はっと気付いたように
勇気♂「さ、さあ早く砂の城を作ろう。
今日はとびきり丈夫なのを作るんだから。」
勇気♀「うん。」
2人で砂の城を作っている。
勇気♂「勇気ちゃん。
手術、受けるの?」
勇気♀「うん。
だからもうお砂で、お城作れないんだ・・・」
勇気♂「手術を受けなきゃ、毎日お城が作れるんだよ。」
勇気♀「ママもそんな事言ってた。
危ない手術受けないで、ママと一緒に毎日暮らして欲しいって・・・
でもね。
それじゃ勇気は大人になる前に死んじゃうんだって。
勇気、そんなの嫌だ。
だって、勇気、みんなと一緒がいいんだもん。」
勇気♂「みんなと一緒・・・」
勇気♀「うん。
みんなと一緒に学校に行って、大人になったらお嫁さんになるんだ。」
勇気♂「あ、あのさあ、勇気ちゃん。
手術うまくいかなかったら死んじゃうんだよ。
死ぬって、とっても嫌で悲しくて、君のママも泣いちゃうような事なんだよ。」
勇気♀「いいもん。
勇気、死ぬって事わかってるから。
パパもね、勇気がまだ赤ちゃんの時に死んだんだ。
それに小さい頃には病院のお友達もね、いっぱい死んだよ。」
勇気♂「そ、それって・・・
勇気ちゃん、とっても悲しくなかった?」
勇気♀「ううん。
だって、パパやお友達はお空の上の天国に行ったんだから。」
勇気♂「勇気ちゃんは・・・
強いんだね。」
勇気♀「手術がうまくいったら、又遊んでくれる?」
勇気♂「も、もちろんさ。」
勇気♀「それでね、勇気、大きくなったら、うふふ、お兄ちゃんのお嫁さんになるんだ。」
勇気♂「な、何言ってるの・・・」
勇気♀「だって、勇気、お兄ちゃんが大好きなんだもん・・」
波の音繰り返す。
勇気♂城を波から守ろうとしているが
勇気♀「あ-あ、崩れちゃった。」
勇気♂「ごめんよ。
ごめんよ、勇気ちゃん。」
勇気♀「いいんだ。
手術が終わったら又お兄ちゃんにお城作ってもらうから。
今度こそ崩れないお城・・・」
勇気♂「わかった。
勇気ちゃん、約束するよ。」
勇気♀「・・・ねえお兄ちゃん。
死ぬってホントは怖い事なのかなあ?」
勇気♂「・・・違うよ。
死んだら天国に行けるんだよ。
だから何も怖い事はない。」
勇気♀「そうだよね・・・
でも・・・
お兄ちゃん、勇気本当は怖いの・・・
手術、怖いの(泣き始める)。」
勇気♂「勇気ちゃん。
大丈夫だよ、勇気ちゃん。
お兄ちゃんがついてるから。」
勇気♀「本当に?
本当に手術、怖くないの?」
勇気♂「ああ、怖くないよ。
大丈夫だ。
だって、君の名前は僕と同じ、勇気じゃないか。
勇気を出して頑張って手術を受けるんだよ。」
勇気♀「うん。
ありがとう、お兄ちゃん。」
勇気♂「なあに、絶対成功するさ。」
サス明かりの中に勇気♂と女がいる
女「何を考えてるの!
手術を受けさせちゃ駄目だって、あれほど言ったのに。」
勇気♂「ああ・・・」
女「しかも、手術が成功するって・・・
それって勇気君が死ぬって事なのよ。」
勇気♂「わかってる。」
女「これじゃ私の手には負えないわ。」
勇気♂「もういいよ。」
女「こうなったら仕方がない。
手術が失敗する事を祈りましょう。」
勇気♂「魔女さん。
あんた何言ってるんですか。」
女「運任せだけど、勇気君が助かる道はそれしかない。」
勇気♂「そんな事はない・・・
あの子は手術に成功し、僕だって自殺なんかしない。」
女「あり得ないわよ、そんな事。」
勇気♂「砂の、城だよ。」
女「えっ?」
勇気、しゃがみ込んで砂で城を作りながら
勇気♂「波が何回掛かっても崩れない砂の城が出来ると思いますか?」
女「あり得ないわね。」
勇気♂「僕は、あり得ない事に挑戦するんですよ。
あり得ないと思っていても、いつか波にさらわれない砂の城が出来るかも知れない・・・
手術は成功する。
それなのに、どうして僕が自殺しなきゃならないんですか。」
女「勇気君?」
勇気♂「あれは勇気ちゃんに言ったんじゃないんだ。
僕自身に言ったんだ。
『谷口勇気。勇気を出せ。』って。」
勇気♂、勇気♀に貰ったペンダントを取り出して
勇気♂「あの子は、僕の事を好きだって言ってくれた。
自分の命がかわいくて、あの子に手術を受けさせまいとしていた僕なのに・・・
こいつを、形見になんかさせるものか・・・
お願いです。
あの子の手術を成功させてやって下さい。」
女「私に、そんな力はないわ。」
勇気♂、女に詰め寄りながら
勇気♂「もう1度、あの子と僕の余命を打ち直して下さい。」
女「話にならないわね。
君が自殺したからと言ってあの子が助かるとは限らないのよ!
そんなに単純な取引じゃないの!」
勇気♂「誰がそんな事を言いましたか。
手術は成功し、僕だって自殺なんかしない。
そういうシナリオがあってもいいでしょう?
もう僕は前の僕じゃないんです。
あの子から勇気をもらった、新しい谷口勇気なんですから・・・」
女「君って本当に単純ね。
どうあがいてもハッピ-エンドのシナリオは存在しないのよ。」
勇気♂「じゃあ、じゃあ、せめて祈ってやって下さい。
手術が成功するように。」
女「私にはわからないわ。
人間の考えてる事。」
波の音。
女無言で立ち去るが、勇気は残って作っては崩れる砂の城を作りながら
勇気♂「くそう・・・
お前、どうして崩れちまうんだよ!」
波の音繰り返す。
勇気♂、何度も砂で城を作りながら、波にさらわれてしまう。
岩の上に座り下を向いている勇気♂。
そこへ女が現れる。
女「勇気君。」
勇気♂「魔女さんじゃないですか。」
女「自殺してないのね。」
勇気♂「えっ!」
勇気♂、立ち上がって女に詰め寄る。
勇気♂「じゃ、じゃあ、あの子の手術は成功したんですか?」
女、無言でよそを向いている。
勇気♂「教えて下さいよ!」
女「ねえ勇気君。
もしかして、まだ毎日ここに来てるの。」
勇気♂「・・・いけませんか。」
女「もう何日もたつのに。」
勇気♂「お願いです。
教えて下さい。」
女「今さら君に自殺されちゃ困るからね。
それを言いに来ただけ。」
勇気♂「待って下さい!」
女、去って行くが、ほとんど入れ替わりに母入って来る。
勇気、その場に立ちすくむ。
母「あなた、谷口勇気さん、ですね。」
勇気♂「はい。」
母「娘が、これをあなたに渡してくれ、って・・・」
母、手紙を渡す。
母「本当に、娘がお世話になりました。」
勇気♀「・・・勇気ちゃんは?」
母「安らかな寝顔でしたわ。」
母、深くおじぎすると去って行く。
勇気♂、その場にしゃがみ込んで手紙を読む。
勇気♀、現れて
勇気♀「お兄ちゃんへ。
勇気はこれから手術を受けます。
あんまりうまくいく可能性は少なくて失敗したら勇気は死んじゃうそうです。
でも、勇気は怖くありません。
だってお兄ちゃんがついててくれるから。
それに、失敗して死んじゃっても、勇気はペンダントの中で生き続ける事が出来るんです。
そういう物を死ぬ前に好きな人にあげておくと、勇気はその人と一緒に生きて行く事が出来るんですって。
だから、お兄ちゃん、勇気のペンダントを大切に持っててね。
最後に。
ありがとう、お兄ちゃん。」
勇気♀消える。
勇気♂「勇気ちゃん・・・
そうだよ、これからお兄ちゃんは君と一緒に生きていくんだ。
一緒に・・・
絶対に崩れない砂の城を・・・
一緒に・・・(涙で言葉が出なくなる)」
勇気♂、ペンダントを握り締め泣きながら砂の城を作っている。
波の音が高まって
~おしまい~
いかがでしょうか?もし良かったら押してください。
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