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ゴルゴ40の高校演劇用脚本置き場

高校演劇用の脚本置き場

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砂の城~彼女が僕に勇気をくれた

 砂の城~彼女が僕に勇気をくれた    

〔キャスト〕♂1人 ♀3人

♂ 谷口勇気・・・高校3年生

♀ 谷口勇気・・・小学生

♀ 母・・・・・・勇気♀の母

♀ 女・・・・・・魔女

     海の音。 
   開幕。  
     基本的に何もないゴミの散乱した秋の海岸である。
     上手と下手に1つずつ人1人腰掛けられる程度の小岩。
     中央には大きなダンボ-ル箱のゴミがある。
     上手から男子高校生がトボトボ歩いて来る。
     谷口勇気である。
     小岩に座って

勇気♂「あ-あ、とうとうこんな所に来ちまったか。」

     海の音。
     勇気♂時間を確かめて

勇気♂「そろそろ7時間目が始まる頃か。土曜が休みになっても7時間授業やられたんじゃ意味不明だよ。受験生は早退したくもなるよなあ。」

海の音。
     勇気♂あたりを見回すと腰を上げ

勇気♂「うわ、濡れちゃったよ、くそう。」

     勇気♂辺りのゴミを見ながら

勇気♂「それにしてもゴミだらけだ。
    海水浴客のマナ-が悪いんだよな。
    こんなダンボ-ルなんか海辺に捨てるか、普通・・・
    うわ、何か鼻がムズムズして来た。」

     勇気がクシャミをすると、箱の中から正体不明の恰好をした、年齢不詳の女が現れる。
     勇気♂少し驚く。

  女「呼ばれて、飛び出て、ジャジャジャジャ-ン!」

勇気♂「あ、あの・・・」

  女「あ-らごめんなさい。
    ビックリして腰を抜かさないでね。」

勇気♂「そんなにビックリしちゃいませんよ。
    どこ見てるんですか。」

  女「ハクション大魔王じゃないわよ。」

勇気♂「そんな事言ってません。」

  女「アクビだったら良かったのに。」

勇気♂「アクビ?」

  女「そう。
    そしたらアクビ娘という事で。」

勇気♂「何言ってんだかわかりません。」

  女「さすがに古かったか・・・
    あの、ちょっといいかなあ。」

勇気♂「僕、宗教には興味ありません。」

  女「ジョウレイって言うんですけど、あなたの血がキレイになるように、少しお祈りを・・・
    って、ちが-う!」

勇気♂「オウム真理教の新しい衣装かと思いましたよ。」

  女「ああ、あれ。
    オウムシスタ-ズとか、けっこうかわいい女の子が宣伝してましたよね・・・
    だから、違うんですってば!」

勇気♂「じゃあ一体何なんですか。」

  女「箱から出て来たのよ。
    呼ばれて、飛び出て、ジャジャジャジャ-ンって。」

勇気♂「ああ、あのゴミ。
    隠れてるのも大変だったでしょう。」

  女「そうよ。
    暑いし、臭いし、虫はいっぱいいるし、ってそんな事はどうでもいいの。
    この衣装を見て、ピ-ンと来ない?」

勇気♂「(首をかしげているが)ああ、わかりました・・・
    女子プロレスラ-。」

     照明が変わり音楽が流れる。

勇気♂「赤コ-ナ-。
    二百六十五パウンド、ダンプま-つもと-。」

     女、合わせてポ-ズを取っているが

  女「ちっが-う!」

勇気♂「誰もいない海岸で、秘密の特訓中とか・・・」

  女「どうせならキュ-ティ-鈴木に・・・
    じゃなくて、違うの!」

勇気♂「凶器なんか持ってないでしょうね。」

     女、チェ-ンを取り出し、バンバン叩きつけながら迫る。

勇気♂「ほら、やっぱりそんな物持ってる・・・」

  女「これはファッション!
    でも君がまじめに考えないんだったら、しばいたろうか?」

勇気♂「(後じさりしながら)あ、ロ-プ、ロ-プです。」

  女「こっちは真剣なんだからね。」

勇気♂「わかりました。
    よく考えてみます。」

     勇気♂しばらく首を傾けて考えているが、手を打って

勇気♂「今度こそ、わかりました。」

  女「わかった?(嬉しそう)
    言ってみて。」

勇気♂「はい。
    あの、売れないダンサ-。」

     照明が変わり、ダンスミュ-ジックが流れると 女ダンス(武富士ダンスとか)を踊り始める。(ビシッと決めてお客さんから拍手を貰うこと)
     照明、音、元に戻る。

  女「どうして、こうなるの!」

勇気♂「結構イケてますよ。
    誰もいない秋の海辺で踊って、ヤブ蚊に刺されまくっているダンサ-。
    確かそんなコマ-シャルなかったですっけ?」

  女「ない!(ダンスの後で息が荒い)
    もう、息が切れちゃったじゃない。」

勇気♂「基礎練不足なんじゃないですか。」

  女「仕方ないわね。
    ヒントでもあげようか。」

勇気♂「はあ、お願いします。」

  女「じゃあ、そこのダンボ-ルを抱えてみて。」

勇気♂「え-。
    何か汚いなあ。」

  女「(厳しい口調で)いいから早く。」

勇気♂「こ、こうですか。」

  女「よし。
    それじゃ、それを向こうに運んで来て。」

勇気♂「結構・・・
    重いですね。」

     勇気♂、ダンボ-ルを下手袖まで運ぶと戻って来る。

 女「ありがとう。
    それではヒントを・・・」

勇気♂「ちょっと!
    今のダンボ-ルは何だったんですか。」

  女「いやあ持って来たのはいいけど、どうやって処理しようか困ってたのよ。」

勇気♂「それだけ?」

  女「あ、お礼にあれあげるわ。」

勇気♂「いや、いりませんよ。」

  女「ホ-ムレスになったら役に立つわよ。
    遠慮しない、遠慮しない。」

勇気♂「だからいりませんって。」

  女「どうも話のわからない人ね。」

勇気♂「そりゃあなたです。」

  女「えっ!?」

勇気♂「あなたの話がわけわからないから、さっきから話が全然進まないじゃないですか。」

  女「まあまあ、劇ってこういう所が面白いんだから。」

勇気♂「面白くありませんよ。
    早くヒントを出して下さい。」

  女「はいはい。
    それじゃいくわよ。
    奥様は、と言えば。」

勇気♂「17歳、いや18歳だったかな?」

  女「どっちも違う!・・・
    え-と、そうだ!おじゃ、と言えば。」

勇気♂「おじゃる丸。」

  女「じゃなくって・・・
    おじゃま、ここまで言えばわかるでしょ。」

勇気♂「わかりました!
    おじゃマンガ山田君。」

  女「ちが-う!・・・
    え-と、え-っと、ドレミ。」

勇気♂「ファソラシド。」

  女「そうじゃなくって、その、昔ヨ-ロッパで、罪のない女の人がこれだって言われて火あぶりにされたという・・・」

勇気♂「ああ、あれ!」

  女「そう、それよ!」

勇気♂「マリ-アントワネット。
    いや、ジャンヌダルクったかな。」

  女「君、わざとボケてるでしょ。」

勇気♂「いえ、僕世界史とってないから・・・」

  女「仕方ないわね。
    これでわからなかったら、君日本人じゃない。
    私怒るよ。」

     音楽(おジャ魔女のテ-マとか)が流れ、女その場で踊って決めのポ-ズを取っているが、勇気♂呆れたように向こうへ歩き始めている。

  女「実は私、魔女なんです!・・・
    って、無視すんなよ!」

     女、勇気♂をつかまえて

  女「(息が苦しそう)ああ、しんど。
    ちょっとタイム。」

勇気♂「大丈夫ですか。」

  女「この劇間違ってるわ。
    なんで私だけダンスがあるの。(息が上がる)
    お前も踊れ!」

勇気♂「そんな無茶な・・・
    その程度で情けないですよ。
    ほら、あそこのお客さん。
    大変だなあって見てますけど、同情の目で見られてどうするんですか。」

  女「それでさ・・・(息が荒い)。」

勇気♂「いや、ホント大丈夫ですか。
    早くセリフ言わないと時間オ-バ-しちゃいますよ。」

  女「魔女なの!
    私、魔女なわけ。
    わかった?」

勇気♂「へえ、そうですか。」

 女「信じてないようね、谷口勇気君。」

     勇気♂、少しギクリとした様子。

  女「どうして名前を知ってるのか、って思ってるでしょ。
    心配しなくていいわよ。
    補導員とかじゃないから。」

勇気♂「僕、忙しいんですけど・・・」

  女「お昼からの授業サボってブラブラしてる高校生が、忙しいワケないでしょ。」

     勇気♂、諦めたように下手の小岩に腰掛ける。

勇気♂「一体、何なんですか、オバサン。」

  女「オバサン!?」

     女、激怒して勇気に詰め寄っている。

勇気♂「あ、すみません。
    え-と、オネエサン。」

  女「そうでしょ。
    勇気君、そんなに無神経だから女の子にふられるのよ。」

勇気♂「何言ってるんですか。」

  女「高二の時、塾で隣に座った女の子に勇気君は一目ボレしました。
    彼女の名前は安田瞳さん。」

勇気♂「ちょ、ちょっと。」

  女「あら、恥ずかしがっちゃって、カワイイ!」

勇気♂「そうじゃなくて、何でそんな事・・・」

  女「魔女だから、勇気君の事いろいろ知ってるのよねえ。」

勇気♂「なんか魔女って言うより、噂好きの近所のオバサンみたいな・・・」

  女「(せき払い)」

勇気♂「あ、オネエサンみたいな気がします。」

  女「瞳さんの、タレた目、アヒルのような唇、ちょっと茶色が入って天然パ-マの髪の毛、舌たらずで甘ったれたようなしゃべり方、全てが勇気君のストライクゾ-ンど真ん中でした。」

勇気♂「妙に細かいですね。」

  女「『谷口君、英語のテスト難しかったね。』
    『そうかなあ。何点あった?』
    『え-?』
    『教えてよ。』
    『50点しかなかったんだ。私もうショック・・・』
    『50点!?』
    『悪いでしょ。』
    『いやいや・・・まあ、今度頑張ればいいよ。』
     勇気君は30点でした。」

勇気♂「オネエサン、一体・・・」

  女「私さあ、魔女界では演技派で通ってんのよ。」

勇気♂「安田さんは、そんなバカみたいなしゃべり方じゃありません。」

  女「あら言うじゃない。
    ちょっとオ-バ-にしてるだけよ。」

勇気♂「オ-バ-にしないで下さい。
    ムカつきます。」

  女「しかし何と言っても勇気君が気に入ったのは、彼女が巨乳だった事。
    隣の席からチラチラ見える胸の谷間に勇気君はクラクラッと来たのでした。」

勇気♂「いや、それは・・・」

  女「違うの?」

勇気♂「好きに言って下さい。」

  女「塾が終わった帰り際、生まれて始めて告白しました。
    『安田さん。ぼ、僕と付き合ってくれませんか。』
    彼女はニッコリ笑ってオッケ-してくれました。
    塾の帰りはいつも一緒。
    休みのたびにデ-トもしました。
    毎日こんな気分でした。
    君の瞳は百万ボルト、地上に下りた最後の天使・・・(歌っている)」

勇気♂「あ、あの、お客さんの年齢層間違えてませんか?」

  女「顧問の創作だから少々我慢しなさい。」

勇気♂「そういう問題ですか。」

  女「そして、それは空に三日月の輝く真夏の夜の事でした。
    ド-ン!
    パカッ!
    花火大会を見に行った2人は、ついにド-ン!
    パカッ!
    以下放送禁止です。
    いよっ、この色男!」

     女が背中を叩くが、次第に元気をなくした勇気♂は下を向いている。

  女「しかし、幸せな日々はいつまでも続きませんでした。
    3年になると、彼女が言ったのです。
    『谷口君。私たち受験生だから、大学に合格するまでしばらくこういうお付き合いは控えた方がいいと思うの。』
    それを聞いた勇気君は、動揺し、一番の親友の坪田君に相談したのです。
    坪田君はこう言いました。
    『お前彼女が出来てから成績がガタ落ちじゃないか。彼女はそれを心配してるんだよ。』
    勇気君はハッと気付いて、彼女の言う通り潔く身を引いたのでした。
    ところが、ところが・・・」

勇気♂「もういいです。
    やめて下さい・・・」

  女「そう、彼女は別の男の子と付き合い始めていたのでした。
    しかも相手は、あの坪田君。
    坪田君と瞳さんが仲良く歩いているのを目撃した勇気君は、頭の中で何かがガラガラと音を立てて崩れていくようなショックを覚えていました。」

     女、ゲッソリと落ち込んでいるような勇気をはげますように

  女「それが昨日だったのよね・・・
    まあ、元気出しなさいよ。
    女の子なんか星の数ほどいるんだから。」

勇気♂「あのさあ・・・」

  女「坪田君の弁解するわけじゃないけど、勇気君には言えないわよ、そりゃ。」

勇気♂「横取りするか、普通・・・」

  女「もうわかってるだろうけど、坪田君が横取りしたんじゃないのよ。
    瞳さんの方から、まあ相手を変えたって事で・・・」

勇気♂「そうだろうさ。」

  女「いや、こう言っちゃ何だけど、坪田君いい男だもんね。」

勇気♂「ああ。
    背が高くて恰好もいいし、勉強も出来るし、スポ-ツも得意だ。
    それに何より、僕より性格がいい・・・」

  女「そりゃ私でも君よりは坪田君の方が・・・」

勇気♂「あなた、僕にけんかでも売ってるんですか?」

  女「あら、ごめんなさい。
    客観的事実を言っただけよ。」

勇気♂「だから、なおさら腹が立つんじゃないですか。」

  女「ところで、これで信じてもらえました?
    私が魔女だって事。」

勇気♂「わかったよ。
    坪田が僕を裏切ったんだ。
    もう何が起こってもおかしくない気がする。」

  女「ねえねえ、私いくつだと思う?(ポ-ズを取る)」

勇気♂「魔女の年ですか?
    え-と、ハタチくらいかな・・・」

  女「さっきオバサンって言ったくせに・・・
    ふうん、やっぱり人間の30代に見えるんだ、私って。」

勇気♂「僕何も言ってないですよ。」

  女「実は少しだけ心が読めるのよね、魔女だから。
    で、ビックリしないでね、私今年で三千七百七十六歳なの。」

勇気♂「数字がインチキくさいな・・・」

  女「どうして?」

勇気♂「だって、それ富士山の高さでしょう。
    富士山のようにミナナロウって覚えましたよ。」

  女「疑ってるな?」

勇気♂「そりゃそうです。」

  女「そんなに疑うんだったら、もう少し勇気君の事、バラしちゃうわよ。」

勇気♂「オバ、じゃなかったオネエサン。
    異常に派手な探偵か、もしかしてドッキリカメラですか?」

  女「だから魔女だと言ってるでしょ。」

勇気♂「だったらホウキで空でも飛んで見せて下さい。」

  女「ああ、あれは同じ魔女でも位の低い魔女なのよ。
    ほら宅急便のバイトしたりしてるでしょ。
    パ-トみたいなもんね。」

勇気♂「パ、パ-トですか?」

  女「そうよ。
    私は本雇いだからね。
    この制服もちゃんと支給してもらってるし。」

勇気♂「それが制服なんですか。」

  女「三千歳過ぎたら辛いものがあるけどね。」

勇気♂「ふだんはどうやって生活を?」

  女「そりゃ5時まで働いて、ス-パ-で買い物して・・・」

勇気♂「そこらのオ、オネエサンと変わりませんね。」

  女「それから帰って、炊事、洗濯・・・
    ダンナがボンクラで役立たずだから大変なのよ。」

勇気♂「もしかして、子供もいるとか。」

  女「そうなのよ。
    これが高三と中三で、同時に受験なんでお金がいくらあっても足りゃしないわ。」

勇気♂「本当ですか?」

  女「嘘に決まってるでしょ。」

勇気♂「な、何で嘘つくんですか!」

  女「あんまり浮世離れしてると勇気君に怪しまれるかなって。」

勇気♂「十分怪しいですよ。」

  女「あらそう?」

勇気♂「見るからに普通じゃないです。」

  女「そっかあ・・・
    でも、魔女だって事はわかったでしょ。」

勇気♂「いえ、ますます信じられなくなりました。」

  女「ひっど-い・・・
    信じてくれなきゃ、私泣いちゃうから!(泣いている)」

勇気♂「やめて下さい。
    変に思われるじゃないですか。」

  女「嘘泣き-。」

勇気♂「もうあなたの言う事は信じません。(去ろうとする)」

  女「待ってよ、お兄さん。
    サ-ビスするからさあ。」

     勇気♂振り返る。

  女「若い子もいっぱいいるわよ。
    もうピチピチの、巨乳ぞろい・・・」

     勇気♂呆れた様子。

  女「冗談よ。
    冗談だってば。」

勇気♂「失礼します。」

  女「魔女を怒らせると怖いわよ。」

     女、下から何か拾いぶつぶつ呪文を唱えて勇気の頭めがけて投げる。

勇気♂「あ痛っ!」

  女「ふっふっふ。
    魔女の呪いよ。」

勇気♂「石投げたんじゃないですか。」

  女「私は何もしていない。
    ただ頭が痛くなる呪文を唱えたのだ。」

勇気♂「あのねえ・・・」

  女「次は死に至る呪文を唱えるぞ。」

勇気♂「わかったから危ない事しないで下さい、まったく。」

  女「私は人の生命を司る魔女。
    命が惜しかったら、私の話をよく聞くことね。」

勇気♂「もう少し説得力のある説明は出来ないんですか。」

 女「勇気君が学校をサボってここに来たのはなぜ?」

勇気♂「知らないよ・・・」

  女「今日帰って来た模擬試験の結果がショックだったんでしょ。」

勇気♂「そ、その程度で学校サボったりするもんか。」

  女「いいえ、大ショックだったのよね。
    瞳さんとの交際を諦めた勇気君は、その分一生懸命勉強しようと決心しました。
    『大学に合格したら、又お付き合いしましょう。』
    その言葉を真に受けて・・・
    ああ、かわいそうな勇気君。
    合掌。」

勇気♂「合掌なんかしないで下さい。
    縁起が悪い。」

  女「しかし、瞳さんに夢中でいつの間にか落ちていた勇気君の学力は簡単には上がりませんでした。
    あせりと、自分自身の能力に対する疑いが頭をかすめます。
    夏休み、勇気君は自分でもビックリするくらい勉強に打ち込みました。
    あまりにも勉強し過ぎて鼻血を大量に出し、それが口に詰まって倒れて、お母さんが心配した程でした。そして夏休みが明けて1回目の模擬試験。その結果が今日帰って来たのでした。」

勇気♂「だから言ったでしょう。
    模試が悪いなんて、みんな悩んでる事なんだから・・・」

  女「半分見栄で書いてみた東大はもちろん、本命の国公立大学の判定は全てE。
    志望校の見直しが必要、と書いてありました。」

勇気♂「うるさい。」

  女「行くつもりがなくて、書いた事のなかった私立大学も書けるだけ書いてみました。
    この程度なら滑り止めというつもりで書いた所も、全て結果はE判定。
    しかし、2つだけEでない判定がありました。
    それは『志望校欄は全て埋めろ』と強制する担任の先生に対する反発と冗談で書いた、2人のお姉さんが通っている女子大と女子短大でした・・」

勇気♂「ははは。
    ははははは。」

  女「今勇気君は、自分自身のおろかさに腹を立てています。
    冗談のつもりが冗談にならない自分に・・・」

勇気♂「もういいでしょう。
    僕、学校に帰ります。」

  女「もう終わってるわよ。」

勇気♂「じゃあ塾に。」

  女「行く気ないくせに。
    瞳さんと坪田君、同じクラスなんでしょう?」

勇気♂「魔女だか何だか知らないけど、もう用はないよ。」

  女「私の方があるのよ。
    待って、そっちは反対の方向でしょ。」

     勇気♂が下手に歩いて行き、女は慌てて後を追い一緒に退場。
     上手から小学生高学年くらいの女の子(勇気♀)が、母親の手を引っ張って登場。

勇気♀「ママ、早くう。」

  母「勇気、ここはもう寒いわよ。」

     勇気♀、母の手を離して小走りになるが、母が、きつく叱る。

  母「勇気!
    走っちゃ駄目!」

     勇気♀走るのをやめ、しゃがみ込むと手で砂をいじり始める。

勇気♀「わあい。
    お砂がいっぱい・・・」

  母「しょうがないわね。
    どうしてもここがいいの?」

勇気♀「うん。
    だって勇気、海が大好きなんだもん。」

  母「もう寒いから誰もいないじゃない。」

勇気♀「平気よ。
    勇気、今日もここで遊ぶ。」

  母「ママはお買い物に行ってすぐ戻って来ますからね。
    ここで遊んでるんですよ。」

勇気♀「うん。」

  母「何かあったらママの携帯に電話しなさい。」

勇気♀「わかった。」

     母が上手に去るのと入れ違いに勇気♂と女が入って来る。
     入ってすぐの所で立ち話

  女「話、わかった?」

勇気♂「ちょっと整理させて下さい。
    つまり、僕の命と、その女の子のとが、逆になりそうだと・・・」

  女「そうなの。
    だから、勇気君このままじゃかわいそうかな、と・・・」

勇気♂「さっきはそう言ってませんでしたよ。
    自分のミスが閻魔大王にバレると困るって。」

  女「結果的には勇気君が助かるわけだから。」

勇気♂「まったく、そんな大事な事間違わないで下さいよ。」

  女「紛らわしいのよ。
    どっちも谷口勇気で漢字まで同じなんて。」

勇気♂「僕は高校生の男。
    その子は小学生の女の子なんでしょ。」

  女「パソコンに入力するのに1行違いだから、つい間違えちゃって。」

勇気♂「パソコン?」

  女「そうなのよ!
    魔女界もIT革命でさ、昔みたいに人の命ロウソクが尽きたら終わり、なんて時代じゃないのよね。」

勇気♂「それは初耳です。」

  女「毎日毎日、人の余命をパソコンで入力するってのも、しんどいものがあるのよ。
    だから余命1年もないその子とあなた、1行ずれて間違えちゃったわけ。」

勇気♂「そんなので殺されちゃ、しゃれになりませんよ。」

  女「三千歳過ぎると、新しい機械に慣れるのも大変なのよね。」

勇気♂「変な言い訳しないで下さい。」

  女「まあとにかく、下手すると君1週間後には自殺する事になるんだから・・・」

勇気♂「で、それを防ぐために、その子を説得しろと。」

  女「ほら、あの子よ。
    お母さんが買い物に行ってる間に、声掛けて来て。」

勇気♂「いや、でも・・・」

  女「今日の所は知り合いになるだけでいいから。
    さあ、早く。」

     尻ごみしている勇気♂を、女押すようにして勇気♀の所へやる。
     女は小岩に座る。

勇気♂「こ、こんにちは。」

勇気♀「こんにちは。(ニッコリ笑う)」

     勇気♂、オドオドと女の所に戻って来る。

  女「何やってるのよ。」

勇気♂「いやあ、すごくかわいい子なんで・・・
    ちょっとドキっと。」

  女「あのねえ、相手は小学生よ。」

勇気♂「僕が大学卒業して社会人になる頃には高校生か・・・
    十分射程距離だ。」

  女「何言ってるの。
    1年後には確実にどちらかは死んでるんだから。」

勇気♂「とても信じられません。」

  女「わかった。」

     女、その場を去るフリ

  女「勇気君が本気にしないんだったら、もういい。
    閻魔様に怒られるくらい、どうって事ないし。」

勇気♂「僕が自殺するなんて、思えないんですよ。」

  女「だから、もういいって。
    助かる確率の方が高いんだし。」

勇気♂「待って下さい。
    やりますよ。
    まずあの子と友達になればいいんでしょう?」

  女「早くしなきゃお母さんが戻って来るわよ。」

     勇気♂、勇気♀の所に再び行く。

勇気♂「こんにちは。」

勇気♀「さっき言ったよ。」

勇気♂「あ、そうだね。」

     気まずい間

勇気♂「ね、ねえ、お名前は?」

勇気♀「谷口勇気。」

勇気♂「ホント?
    凄い偶然だね。
    お兄ちゃんも、谷口勇気って言うんだよ。」

勇気♀「お兄ちゃんって、悪い人?」

勇気♂「え?
    どうして?」

勇気♀「ママが言ってた。
    知らない人と話してはいけません。
    なれなれしく話して来る人は悪い人だからって。」

勇気♂「お兄ちゃんは悪い人じゃないよ。」

勇気♀「でもママが・・・」

     勇気♂、勇気♀の気を引こうと思って、面白い顔をしたり動きを見せたりする。
     不思議そうに見ていた勇気♀笑い出す。

勇気♂「ほうら、お兄ちゃんは悪い人じゃないだろう?」

勇気♀「悪い人じゃないけど、バカな人みたい。」

勇気♂「バ、バカ?・・・」

勇気♀「もっと面白い事やって。」

勇気♂「しょうがないなあ。(バカなフリ)」

勇気♀「キャハハハハ。」

勇気♂「(ボソリと)情けないなあ・・・」

勇気♀「ねえ、お兄ちゃん。
    一緒に作って。」

勇気♂「え、何を?」

勇気♀「お砂でお城作ってるの。」

勇気♂「そうか。
    じゃあ、お兄ちゃんも手伝ってあげるよ。」

勇気♀「ありがとう。」

勇気♂「あのう、勇気ちゃん。」

勇気♀「なあに?」

勇気♂「ここさあ、波が来て崩れちゃうから、もっと向こうで作ろうよ。」

勇気♀「ううん。
    ここがいいの。
    だって波まだあそこだよ。」

勇気♂「いや、だから潮が満ちて来るから・・・
    ま、いいか。」

勇気♀「ねえ、早く手伝ってよ。」

     2人で砂の城を作っている。

勇気♀「うわあ、すごく大きいのが出来た。」

勇気♂「そうだね・・・
    だけど、そろそろ波が・・・」

     波の音。
     勇気♂、迫って来る波から城を守ろうとしているが

勇気♀「あっ!」

勇気♂「やっぱり駄目だ・・・」

勇気♀「勇気のお城、崩れちゃった・・・(シクシク泣き始める)」

勇気♂「困ったなあ・・・
    ねえ勇気ちゃん、泣かないで。
    又作ってあげるから。」

勇気♀「ホント?」

勇気♂「ああ、今度はもっと大きくて立派で、崩れたりしないのを。」

勇気♀「やったあ!
    約束してくれる?」

勇気♂「もちろんだよ。
    そうだ、もっと向こうに作れば、波が来ないから大丈夫だよ。」

勇気♀「嫌。
    勇気、このお岩の所が好きなの。」

勇気♂「でもなあ。」

勇気♀「お兄ちゃんが、崩れないお城作ってくれるって、言ったもん。」

     上手から母が戻って来る。

  母「勇気ちゃ-ん。」

勇気♀「あ、ママだ。」

     勇気♀、立ち上がって母の所に行く。
     母、勇気♂の方を不審そうに見ている。

勇気♂「あ、あの、こんにちは。」

勇気♀「ママ。
    このお兄ちゃんが遊んでくれたんだ。」

  母「そうですか・・・
    じゃ、お兄ちゃんにバイバイって。」

勇気♀「バイバ-イ。」

     勇気♀は手を振っているが、母は軽く頭を下げると、勇気♀の手を引っ張って去る。
     勇気♂、女の所に行く。

  女「なかなかうまくやったじゃない。
    上出来よ。」

勇気♂「子供は苦手です。」

  女「でも、あの子すっかり君になついたみたいよ。」

勇気♂「そりゃ、こっちも命が掛かってるんだから、必死ですよ。」

  女「意外と保父さんに向いてるのかもよ。」

勇気♂「冗談はやめてくれませんか。」

  女「君、この際同年代の女の子は諦めて、小学生を狙いなさい。」

勇気♂「それじゃ、変態ですよ・・・
    全然手術の話なんか出来なかったし。」

  女「おいおい話せばいいんだから。
    あの子、砂の城を作ってもらおうと思って、明日からもきっと来るわよ。」

勇気♂「じゃあ、僕は毎日放課後それを狙って来ると・・・」

  女「そういう事ね。」

勇気♂「・・・ところで思うんですけど。」

  女「何よ。」

勇気♂「これってもともと、魔女さんがパソコンを打ち間違えたっていうのが原因ですよね。」

  女「まあね。
    簡単に修正出来れば良かったんだけど。」

勇気♂「じゃあどうして僕がやらなきゃならないんですか。
    その、魔女さんがあの子を説得してくれれば・・・」

  女「それが駄目なのよ。」

勇気♂「どうしてですか。」

  女「生命を司る魔女って、当事者の人間1人にしか接触出来ない決まりなの。
    だから、他の人間には私の姿も見えないってわけで。」

勇気♂「僕じゃなくて、あの子に直接話してくれたら良かったのに。」

  女「あんな小さな子に、死ね、なんて言いたくなかったのよ。」

勇気♂「僕だって、言いたかないですよ!」

  女「とにかくこうなった以上、四の五の言ってても埒は開かないわ。
    君の命は、君が守るしかない。」

勇気♂「何だか、はめられた気がします。」

  女「あのお母さん、勇気君の事を人さらいかロリコン変態少年みたいに見てたから、明日からお母さんが戻る前に姿を消した方がいいわ。」

勇気♂「それで、何とかあの子が手術を受けないように説得するんですね。」

  女「そう。
    本来、あの子は手術を受けないはずだったから。」

勇気♂「死んじゃうんですよね、
    あの子は手術を受けないと。」

  女「そういう運命なんだから仕方ないのよ。
    勇気君、替わりに死んでもいいわけ?」

勇気♂「それは困ります。」

  女「でしょ。
    私だって困るのよ。」

勇気♂「何か、とんでもない事になっちゃったなあ・・・」

     勇気♂と勇気♀砂の城を作っている。
     女は小岩に座って見ている。

勇気♂「ねえ、勇気ちゃんは、毎日ここに来てるの?」

勇気♀「うん。
    だって勇気、海が大好きだから。」

勇気♂「昔から、この島に住んでるの?」

勇気♀「違うよ。
    勇気、夏からここに来てるの。」

勇気♂「お引っ越ししたの?」

勇気♀「うん。」

勇気♂「どうして、お引っ越ししたの?」

勇気♀「わかんない・・・」

     間

勇気♂「あ、もしかして、勇気ちゃん、こっちの方が元気になれるからじゃない?」

勇気♀「そう。
    ママがそう言ってた。
    町の空気は汚くてバイキンがいっぱいいるんだって。」

勇気♂「そうか。
    じゃあ、体があまり良くないんだね。」

勇気♀「そんな事ないよ。
    でも走っちゃいけないの。
    学校もお休みしてる。」

勇気♂「え、学校行ってないの?」

勇気♀「うん。
    朝はお家で寝てなさい、ってママが言うから。
    お昼からちょっとだけお外に出てもいいの。
    だから、勇気、海に遊びに来るの。」

勇気♂「そうなんだ・・・」

     波の音。

勇気♀「お兄ちゃん。
    波が来てる・・・」

勇気♂「大丈夫だよ。
    ほら、今日はこんなにたくさん砂を使って、固くて丈夫なお城を作ったからさ・・・」

     波の音。
     勇気♂、迫って来る波から何とか城を守ろうとしているが

勇気♀「あっ!」

勇気♂「大丈夫だよ、まだ大丈夫だ。」

勇気♀「でも・・・」

     波の音。

勇気♂「ごめん。
    やっぱり駄目だった・・・」

勇気♀「いいよ、お兄ちゃん。
    だって波がかかっても1回目は大丈夫だったもん。」

勇気♂「そうか・・・」

勇気♀「明日は、2回かかっても大丈夫なのを作ろう。」

勇気♂「あ、あのさあ、勇気ちゃん。」

勇気♀「なあに。」

勇気♂「ママが帰って来たら、ずっと1人で遊んでたって言ってくれないかな。」

勇気♀「どうして?お兄ちゃんと遊んでたのに。」

勇気♂「そう言わないと、明日からお兄ちゃんとは遊べなくなるんだよ。」

勇気♀「嫌だ。
    勇気、お兄ちゃんと遊ぶもん。」

勇気♂「だったらお兄ちゃんの事は黙っておくんだよ。」

勇気♀「わかった。」

勇気♂「じゃあ、又明日。バイバ-イ。」

勇気♀「バイバ-イ。」

     勇気♂退場。
     入れ違うように母が戻って来て勇気♀を連れて帰ると、再び勇気♂帰って来て

  女「うまいもんじゃない。」

勇気♂「疲れましたよ・・・
    何か本当に犯罪でもしている気分です。」

  女「実際あの子をたぶらかして、死なせるわけだから。」

勇気♂「そういう言い方はやめて下さい。
    怒りますよ。」

  女「まあこの調子なら、何とかなりそうね。」

勇気♂「確認させて下さい。
    あの子が手術を受けた場合は、どうなるんでしたか。」

  女「成功すれば、あの子の心臓病は治って生き長らえる。
    でもそのかわりに勇気君は自殺してしまうってわけ。」

勇気♂「それがわからないんです。
    どうして僕が自殺する事になるんですか。」

  女「こんな所に授業をサボって来たっていうのが、その前兆よ。
    勇気君は、女の子にフラれようが、模擬試験の成績が悪かろうが、学校をサボったりする筈なかったでしょ。
    小学校の頃から打たれ強いのが、君の唯一の長所なんだから。」

勇気♂「余計なお世話です・・・
    でも確かに昨日の僕はおかしかった。
    どうしてこんな所に来たのか、自分でもよくわからないんです。」

  女「一日一日、それまで何でもなかった事が、ものすごく辛い事に思えて来て、ついには誰もいない海に身を投げて自殺という事に。」

勇気♂「こんな汚い所で死にたくはありませんよ。」

  女「それから、手術が失敗したらあの子は即死。
    君は助かるわけだけど、それなら少しでも長く生きた方があの子にとってもいいでしょう。」

勇気♂「まあ、そうですよね。」

  女「ところが、その危険な手術、成功率30パ-セントの心臓手術を、1週間後にあの子は受ける気になっちゃってるわけよ、どういうわけだか。」

勇気♂「どういうわけって、それが魔女さんのミスなんでしょう。」

  女「ま、そういう事。
    あの子は本来手術を受けず、残された1年足らずをお母さんと一緒に暮らして、安らかに死ぬ筈だったのよ・・・
    まあ、手術受けても失敗すりゃ問題ないんだけどね。」

勇気♂「手術が成功すると、僕の命が縮むってわけですか・・・
    何てひどいとばっちりだ。」

  女「教えてあげただけ、良心的でしょ。」

勇気♂「あの子は、どういう手術だかわかってるんでしょうか。」

  女「さあね。」

勇気♂「何て無責任な魔女なんだ・・・
    じゃあ、僕はこれからどうやってあの子を説得したらいいんですか。」

  女「自分の命が掛かってるんでしょ。
    それこそ死ぬ気で考えれば何とかなるんじゃない?」

勇気♂「これで死ぬ事になったら、あなたを恨みます。」

  女「まあまあ、そんな落ち込まないで・・・
    あの子との関係はうまくいってるわけだし。」

勇気♂「僕はまだ、やりたい事がいっぱいあるんですよ。
    とりあえず大学に行って、今まで我慢して来た事を思いっ切りやりたい。」

  女「へえ、どんな事?」

勇気♂「いや、そりゃ大した事じゃないですけど・・・
    バイクや車に乗るとか、お酒にタバコ、それに旅行に行ったりとか、女の子とも遊びたいです。」

  女「ホントに、大した事じゃないのね。」

勇気♂「それに死ぬのはやっぱり怖いです。
    こんなわけのわからない理由で自殺だなんて、死んでも死に切れませんよ・・・」

     勇気♀が1人で遊んでいる。
     勇気♂紙袋を持って登場。 
     遅れて女も入って来る。

勇気♀「あっ!
    お兄ちゃ-ん。」

勇気♂「やあ勇気ちゃん。
    今日はいい物持って来たんだ。」

     勇気♂、紙袋から何か食べ物を取り出して

勇気♂「来る途中お祭りだったから、買って来たんだ。
    一緒に食べよう。」

勇気♀「うわあ。ありがとう。」

     2人で食べている。

勇気♀「いいなあ。
    勇気、お祭り行けないの。」

勇気♂「どうして?」

勇気♀「お家から遠くに行っちゃいけないの。」

勇気♂「お母さんに連れて行ってもらえばいいのに。」

勇気♀「駄目なの。
    人がいっぱいいる所は、勇気の体に悪いから・・・」

     ハエが飛んで来たみたいだ。
     勇気♂ハエを払う。

勇気♂「ハエだ・・・
    この辺虫が多いねえ。」

勇気♀「うん。」

勇気♂「あ、今度は蚊だ。」

勇気♀「やめて!」

     勇気♂、勇気♀に止まっていた蚊を追い払うと両手で叩いて潰す。

勇気♂「ほうら、勇気ちゃんの血を吸ってた蚊だぞ。」

勇気♀「お兄ちゃんのバカ!」

勇気♂「どうしたの、勇気ちゃん。」

勇気♀「殺さなくてもいいのに。」

勇気♂「どうして?
    勇気ちゃんの血を吸ってた悪いやつなんだよ。」

勇気♀「蚊だって生きてたのに・・・
    勇気、痒くなっても良かったのに・・・(泣き始める)」

勇気♂「・・・勇気ちゃんはとっても優しいんだね。」

     間 
     勇気♂、泣いている勇気♀をなぐさめようと、おどけて見せる。
     勇気♀泣き止んで笑う。

勇気♀「もう虫さん殺さないでね。」

勇気♂「気を付けるよ。」

勇気♀「じゃあ許してあげる。」

勇気♂「・・・勇気ちゃん。
    勇気ちゃんは、体のどこが悪いの?」

勇気♀「心臓。
    だから走れないの。」

勇気♂「ふうん・・・
    もしかして、手術、とかするの?」

勇気♀「うん。
    今度、手術、するよ。」

勇気♂「え、そ、そうなの。」

     母が戻って来たので、勇気♂あわてて下手側に去る。

勇気♀「お兄ちゃん!」

勇気♂「あ、又明日ね。」

     勇気♀、母の所へ行くと去り、それを確認して勇気♂入って来る。

  女「危ない所だったわね。」

勇気♂「僕、すごく悪い事してるような気分です。」

  女「ねえ勇気君。
    あなた間違ってるわよ。
    食べ物なんかあげたりしてさ。」

勇気♂「何がいけないんですか。」

  女「あの子に情を持っちゃ駄目よ。
    自分が辛くなるだけでしょ・・・
    ほら、元気出して。」

勇気♂「・・・怖いんです。
    僕、本当に自殺してしまいそうな気分なんです。
    死ぬのは嫌だ!」

  女「手術の話まで聞き出したんだから、後一押しよ。」

勇気♂「・・・はい。」

     勇気♂と勇気♀砂の城を作っている。
     女は小岩の上に座っている。

勇気♀「勇気、あさってから病院に入るの。」

勇気♂「え、あさって?」

勇気♀「うん。
    それから準備して、手術受けるんだって。」

勇気♂「ねえ、手術って怖くない?」

勇気♀「怖くないよ。
    だって、勇気、たくさん手術した事あるもん。」

勇気♂「で、でも、今度の手術は特別だとか・・・」

勇気♀「うん、知ってるよ。
    失敗したら、勇気死んじゃうんだって。」

     勇気♂手が止まっている。

勇気♀「ねえ、お兄ちゃん、
    どうしたの?
    早く大きなお城作ろうよ。」

勇気♂「そうだね。
    波に負けないお城を作ろう。」

     2人で砂の城を作りながら

勇気♀「でもね、手術がうまくいったら、勇気、走れるようになるんだって。
    そしたら、勇気海のお砂の上を走るんだ。」

勇気♂「・・・」

勇気♀「それにね、お友達と一緒に学校に行って、何でもみんなと同じに出来るようになるんだって。
    勇気、あんまり学校に行った事ないから、とても楽しみなんだ。」

勇気♂「・・・」

勇気♀「ねえ、お兄ちゃん。」

勇気♂「あ、ああ・・・」

勇気♀「もっといっぱいお砂を積まなきゃ、又波で崩れちゃう。」

勇気♂「そうだね・・・」

     波の音繰り返す。
     勇気♂城を波から守ろうとしているが

勇気♀「あ、すご-い。」

勇気♂「だ、駄目だ・・・」

     波の音 。

勇気♀「今日は、2回目でもまだ残ってたよ。
    お兄ちゃん、やっぱり凄い!」

勇気♂「・・・勇気ちゃん。
    その手術って・・・」

     勇気♂、たまらなくなって無言でその場を去って行く。

勇気♀「お兄ちゃん!
    明日も来てくれるよね。」

     勇気♂、振り向いてウンウンとうなずくと、女と一緒に退場。
     入れ違いに母が戻って来て、勇気♀を連れて退場。
     再び勇気♂と女が入って来る。

 女「ちょっと、しっかりしなさいよ。
    あの子の方がよっぽどしっかりしてるじゃない。」

勇気♂「あの子にこれ以上何を言えと言うんですか。」

  女「いい?
    残されたチャンスは明日1日だけだからね。
    あの子に、手術が失敗したら死ぬんだって事をしっかり言い聞かせるの。
    そして、そんな危険を冒すより、後1年だけでも生きてる方がいいって事を、わからせてあげなきゃ。
    その方があの子のためでもあるんだし。」

勇気♂「あの子のためだって?・・・
    そんな言い方は卑怯だよ。
    僕は、自分の命がかわいくて、あの子に手術をあきらめさせようとしているんだ・・・」

  女「同じ事よ。
    それがお互い一番いいやり方なんだから。」

勇気♂「違うさ。
    あの子は失敗したら死ぬって事がわかってて、それでも成功する方に賭けて手術を受けようとしてるんだ。
    それがあの子の選んだ道なんだ。」

  女「小さな子だから、まだ判断が甘いのよ。」

勇気♂「違う!
    あの子は、僕よりよっぽど良くものがわかってるよ・・・」

  女「それならそれでいい。
    でも勇気君、あなた死ぬのよ、手術が成功したら。」

勇気♂「何とかならないんですか。
    生命を司る魔女なんでしょう、あなた。」

  女「君が死ぬか、あの子が死ぬか。答はそれだけよ。」

     勇気♀が1人で遊んでいる。
     勇気♂が入って来る。
     遅れて女も入って来る。

勇気♀「お兄ちゃ-ん。」

勇気♂「やあ。」

勇気♀「お兄ちゃん。
    今日は勇気の方からお兄ちゃんにあげる物があるんだ。」

勇気♂「えっ?」

     勇気♀、勇気♂にペンダントを渡す。

勇気♀「お兄ちゃんにプレゼント。」

勇気♂「ど、どうしてこんな物を・・・」

勇気♀「お兄ちゃん、毎日遊んでくれたから。
    勇気、お兄ちゃんが好きなんだ。」

     勇気♂ペンダントをじっと見ているが、はっと気付いたように

勇気♂「さ、さあ早く砂の城を作ろう。
    今日はとびきり丈夫なのを作るんだから。」

勇気♀「うん。」

     2人で砂の城を作っている。

勇気♂「勇気ちゃん。
    手術、受けるの?」

勇気♀「うん。
    だからもうお砂で、お城作れないんだ・・・」

勇気♂「手術を受けなきゃ、毎日お城が作れるんだよ。」

勇気♀「ママもそんな事言ってた。
    危ない手術受けないで、ママと一緒に毎日暮らして欲しいって・・・
    でもね。
    それじゃ勇気は大人になる前に死んじゃうんだって。
    勇気、そんなの嫌だ。
    だって、勇気、みんなと一緒がいいんだもん。」

勇気♂「みんなと一緒・・・」

勇気♀「うん。
    みんなと一緒に学校に行って、大人になったらお嫁さんになるんだ。」

勇気♂「あ、あのさあ、勇気ちゃん。
    手術うまくいかなかったら死んじゃうんだよ。
    死ぬって、とっても嫌で悲しくて、君のママも泣いちゃうような事なんだよ。」

勇気♀「いいもん。
    勇気、死ぬって事わかってるから。
    パパもね、勇気がまだ赤ちゃんの時に死んだんだ。
    それに小さい頃には病院のお友達もね、いっぱい死んだよ。」

勇気♂「そ、それって・・・
    勇気ちゃん、とっても悲しくなかった?」

勇気♀「ううん。
    だって、パパやお友達はお空の上の天国に行ったんだから。」

勇気♂「勇気ちゃんは・・・
    強いんだね。」

勇気♀「手術がうまくいったら、又遊んでくれる?」

勇気♂「も、もちろんさ。」

勇気♀「それでね、勇気、大きくなったら、うふふ、お兄ちゃんのお嫁さんになるんだ。」

勇気♂「な、何言ってるの・・・」

勇気♀「だって、勇気、お兄ちゃんが大好きなんだもん・・」

     波の音繰り返す。
     勇気♂城を波から守ろうとしているが

勇気♀「あ-あ、崩れちゃった。」

勇気♂「ごめんよ。
    ごめんよ、勇気ちゃん。」

勇気♀「いいんだ。
    手術が終わったら又お兄ちゃんにお城作ってもらうから。
    今度こそ崩れないお城・・・」

勇気♂「わかった。
    勇気ちゃん、約束するよ。」

勇気♀「・・・ねえお兄ちゃん。
    死ぬってホントは怖い事なのかなあ?」

勇気♂「・・・違うよ。
    死んだら天国に行けるんだよ。
    だから何も怖い事はない。」

勇気♀「そうだよね・・・
    でも・・・
    お兄ちゃん、勇気本当は怖いの・・・
    手術、怖いの(泣き始める)。」

勇気♂「勇気ちゃん。
    大丈夫だよ、勇気ちゃん。
    お兄ちゃんがついてるから。」

勇気♀「本当に?
    本当に手術、怖くないの?」

勇気♂「ああ、怖くないよ。
    大丈夫だ。
    だって、君の名前は僕と同じ、勇気じゃないか。
    勇気を出して頑張って手術を受けるんだよ。」

勇気♀「うん。
    ありがとう、お兄ちゃん。」

勇気♂「なあに、絶対成功するさ。」

     サス明かりの中に勇気♂と女がいる

  女「何を考えてるの!
    手術を受けさせちゃ駄目だって、あれほど言ったのに。」

勇気♂「ああ・・・」

  女「しかも、手術が成功するって・・・
    それって勇気君が死ぬって事なのよ。」

勇気♂「わかってる。」

  女「これじゃ私の手には負えないわ。」

勇気♂「もういいよ。」

  女「こうなったら仕方がない。
    手術が失敗する事を祈りましょう。」

勇気♂「魔女さん。
あんた何言ってるんですか。」

  女「運任せだけど、勇気君が助かる道はそれしかない。」

勇気♂「そんな事はない・・・
    あの子は手術に成功し、僕だって自殺なんかしない。」

  女「あり得ないわよ、そんな事。」

勇気♂「砂の、城だよ。」

  女「えっ?」

     勇気、しゃがみ込んで砂で城を作りながら

勇気♂「波が何回掛かっても崩れない砂の城が出来ると思いますか?」

  女「あり得ないわね。」

勇気♂「僕は、あり得ない事に挑戦するんですよ。
    あり得ないと思っていても、いつか波にさらわれない砂の城が出来るかも知れない・・・
    手術は成功する。
    それなのに、どうして僕が自殺しなきゃならないんですか。」

  女「勇気君?」

勇気♂「あれは勇気ちゃんに言ったんじゃないんだ。
    僕自身に言ったんだ。
    『谷口勇気。勇気を出せ。』って。」

     勇気♂、勇気♀に貰ったペンダントを取り出して

勇気♂「あの子は、僕の事を好きだって言ってくれた。
    自分の命がかわいくて、あの子に手術を受けさせまいとしていた僕なのに・・・
    こいつを、形見になんかさせるものか・・・
    お願いです。
    あの子の手術を成功させてやって下さい。」

  女「私に、そんな力はないわ。」

     勇気♂、女に詰め寄りながら

勇気♂「もう1度、あの子と僕の余命を打ち直して下さい。」

  女「話にならないわね。
    君が自殺したからと言ってあの子が助かるとは限らないのよ!
    そんなに単純な取引じゃないの!」

勇気♂「誰がそんな事を言いましたか。
    手術は成功し、僕だって自殺なんかしない。
    そういうシナリオがあってもいいでしょう?
    もう僕は前の僕じゃないんです。
    あの子から勇気をもらった、新しい谷口勇気なんですから・・・」

  女「君って本当に単純ね。
    どうあがいてもハッピ-エンドのシナリオは存在しないのよ。」

勇気♂「じゃあ、じゃあ、せめて祈ってやって下さい。
    手術が成功するように。」

  女「私にはわからないわ。
    人間の考えてる事。」

     波の音。
     女無言で立ち去るが、勇気は残って作っては崩れる砂の城を作りながら

勇気♂「くそう・・・
    お前、どうして崩れちまうんだよ!」

     波の音繰り返す。
     勇気♂、何度も砂で城を作りながら、波にさらわれてしまう。 
     
     岩の上に座り下を向いている勇気♂。
     そこへ女が現れる。

  女「勇気君。」

勇気♂「魔女さんじゃないですか。」

  女「自殺してないのね。」

勇気♂「えっ!」

     勇気♂、立ち上がって女に詰め寄る。

勇気♂「じゃ、じゃあ、あの子の手術は成功したんですか?」

     女、無言でよそを向いている。

勇気♂「教えて下さいよ!」

  女「ねえ勇気君。
    もしかして、まだ毎日ここに来てるの。」

勇気♂「・・・いけませんか。」

  女「もう何日もたつのに。」

勇気♂「お願いです。
    教えて下さい。」

  女「今さら君に自殺されちゃ困るからね。
    それを言いに来ただけ。」

勇気♂「待って下さい!」

     女、去って行くが、ほとんど入れ替わりに母入って来る。
     勇気、その場に立ちすくむ。

  母「あなた、谷口勇気さん、ですね。」

勇気♂「はい。」

  母「娘が、これをあなたに渡してくれ、って・・・」

     母、手紙を渡す。

  母「本当に、娘がお世話になりました。」

勇気♀「・・・勇気ちゃんは?」

  母「安らかな寝顔でしたわ。」

     母、深くおじぎすると去って行く。
     勇気♂、その場にしゃがみ込んで手紙を読む。
     勇気♀、現れて

勇気♀「お兄ちゃんへ。
    勇気はこれから手術を受けます。
    あんまりうまくいく可能性は少なくて失敗したら勇気は死んじゃうそうです。
    でも、勇気は怖くありません。
    だってお兄ちゃんがついててくれるから。
    それに、失敗して死んじゃっても、勇気はペンダントの中で生き続ける事が出来るんです。
    そういう物を死ぬ前に好きな人にあげておくと、勇気はその人と一緒に生きて行く事が出来るんですって。
    だから、お兄ちゃん、勇気のペンダントを大切に持っててね。
    最後に。
ありがとう、お兄ちゃん。」

     勇気♀消える。

勇気♂「勇気ちゃん・・・
    そうだよ、これからお兄ちゃんは君と一緒に生きていくんだ。
    一緒に・・・
    絶対に崩れない砂の城を・・・
    一緒に・・・(涙で言葉が出なくなる)」

     勇気♂、ペンダントを握り締め泣きながら砂の城を作っている。
     波の音が高まって
     ~おしまい~


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ゴルゴ40
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1963/12/06
職業:
高校英語教員
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脚本創作・詰将棋・競馬・酒・女・仕事
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 ここには高校演劇用の少人数で1時間以内、暗転のほとんどない脚本を中心に置いてあります。

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