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ゴルゴ40の高校演劇用脚本置き場

高校演劇用の脚本置き場

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ラストクリスマスver.1

「ラストクリスマス ver.1」  


【登場人物】♂椎野冬樹(しいの・ふゆき)・・・高校3年生。演劇部員。

      ♀星崎未唯(ほしざき・みゆ)・・・高校3年生。演劇部員。


  電気のスイッチが入ると、そこは演劇部の部室である。
     中央に大きめの机とイスがあり、4、5人は座れそう。
     かなり雑然とした様子で、ほとんど掃除されていないようだ。
     今入って来てスイッチを入れたのは椎野冬樹。
     制服の上にコートとマフラーを着用。
     下げていた大きな袋を下ろすと震えながら部屋の隅に置いてあった電気ストーブを持って来てつける。
     しばらくストーブにあたっていた冬樹は袋の中からクリスマスツリーを出すと、机の上に置いてあった物をどけて置く。
     さらに写真立てを出すと、それをじっと見ている。
     何やらいわくありげだ。
     写真立てを置いた冬樹は、タバコの箱とライターを出し、1本取り出して火をつけようとする。
     と、その時、外から大きな物音と女の子の悲鳴が聞こえる。
     驚いた冬樹がタバコとライターを制服に隠して入り口に向かうと、悲鳴の主である女子高生がドタバタと入って来る。
     星崎未唯である。
     冬樹を見ると再び大きな悲鳴を上げて入り口付近にしゃがみ込む。
     冬樹は未唯に近づき、声を掛ける。

冬樹「星崎?」

未唯「冬樹君・・・
ああ、びっくらこいたー。」

冬樹「そりゃこっちのセリフだ。
いきなり人の顔見てキャーはないんじゃねーの。」

未唯「お化けかと思っちゃった。」

冬樹「はあ?」

未唯「だって外真っ暗だよ。
   やっとの思いでここにたどり着いたと思ったら、ボーッと突っ立ってる人がいるんだもんなー。」 

冬樹「俺はお化けか。」

     未唯、立ち上がると冬樹の顔を両手でつねる。

冬樹「あたっ!」

未唯「良かった、お化けじゃなくて。」

冬樹「人の顔で確認するなよ。
   よーし・・・」

     冬樹もお返しに未唯の顔をつねろうとするが、未唯はその手をピシャリと叩く。

未唯「何すんのよ!
   ヘンタイ!」

冬樹「そりゃねーだろ。
   お化けの次はヘンタイかよ。」

未唯「女の子に触っていいと思ってんの!」

冬樹「顔くらい、いーだろ。」

未唯「ほか触ったらぶっ殺してやる。」

冬樹「いや、星崎のほかのとこ触ろうとは全く思わないけど。」

未唯「それはそれでムカツクな・・・
   あー、クサイよ、クサイ!」

冬樹「しばらく風呂入ってねえからな。」

     未唯、鼻をつまんで冬樹から離れる。

未唯「お前は汚ギャルか!」

冬樹「最後に風呂入ったのは1か月前かな・・・」

未唯「(冬樹の方をかぎながら)そういう見え透いた手に引っ掛かると思ったら大間違いだよ。
   ほら、この辺りまでプンプンにおって来るんだから。」

冬樹「何のことかな?
   明智君。」

未唯「まだタバコやめてないの?」

冬樹「言いがかりだな、明智君。」

未唯「あくまでシラを切るつもりなら、私帰る。」

冬樹「ちょ、ちょっと待てよ。」

未唯「観念して出しなさいよ、タバコ。」

冬樹「わかったよ。(未唯にタバコの箱とライターを渡す。)」

未唯「全くもう・・・
   何回没収されたらわかるの?」

冬樹「お前にゃ関係ねえだろ。」

未唯「あのねえ・・・
   あんたが部室でタバコ吸ってくれるおかげで、どれだけ迷惑してると思ってんの?」

冬樹「わかったわかった。」

未唯「わかってない。
   もう1回先生にバレたら学校ヤバイんでしょ?」

冬樹「いいよ。
   どうせ俺なんかさ・・・」

未唯「バカッ!(冬樹にライターを投げつける。)」

冬樹「(ライターを拾いながら)ごめん。
   俺が悪かったからさ、許してくれよ。」

未唯「わかった。
   それはもう言わない。」

冬樹「まあ、落ち着いて座れよ。」

未唯「私、もう1つあんたに言いたいことがあるんだけどな。」

冬樹「まだ何かあるのか?」

未唯「外真っ暗だったんだけどねー。」

冬樹「冬の陽が落ちるのは早いからな。」

未唯「私が言いたいのは、何で廊下の電気の1つもつけててくれないのか、ってことよ。」

冬樹「あー、電気ね、電気・・・」

未唯「私に対する嫌がらせ?」

冬樹「とんでもない。
   実は俺貧乏性でさ・・・」

未唯「それはよーく知ってるよ。
   いつも穴の開いた靴下はいてるもんね。」

冬樹「そりゃ小学校の時だっつうの!・・・
   まあとにかく、使ってない所の電気はついつい消しちまうんだよな。」

未唯「お前は後から来る人のこと考えないのか!」

冬樹「いやまあ、肝試しだと思ってくれ。」

未唯「肝試し?
   何で冬に肝試しやんなきゃならないのよ。」

冬樹「星崎って人一倍怖がりだったよな。
   夜1人じゃトイレに行けないんだろ?」

未唯「それは小学校の話だよ。」

冬樹「修学旅行ん時、キャーキャー大騒ぎしてたもんな。」

未唯「おかげで正座させられた。」

冬樹「そりゃ、夜中に廊下で大声出してちゃな。」

未唯「ちーちゃん誘ってトイレに行っただけなのに・・・
   あれ、何で冬樹君知ってるの?」

冬樹「いや、あん時俺らの部屋もみんな起きててさ、外がうるさいから気になって戸を開けたんだ。
   そしたら、目の前に先生がいて。」

未唯「ご愁傷様です。」

冬樹「おかげで俺らも朝まで正座だよ。
   星崎のせいだったんだからな。」

未唯「あー、ごめんねー。」

冬樹「お前、小学校から変わってねえよな。」

未唯「失礼な!」

冬樹「物にぶつかんなかったか?」

未唯「ぶつかったよ。
   5回くらい。」

冬樹「ははは。」

未唯「笑い事じゃないよ!
   2回派手に転んじゃったし。
   もうパンツ丸出し。」

冬樹「何色?
   白?」

未唯「アホッ!(スリッパで冬樹を強打する。)
   だから、真っ暗で何も見えないっつうの!」

冬樹「いや、白いのが暗闇で光って見えるとか・・・」

未唯「まだ言うか!
   相変わらずむっつりなんだから。」

冬樹「校舎を壊すなよ。」

未唯「私の心配してよ!」

冬樹「お前慣れてるだろ、そういうの。」

未唯「そりゃまあ・・・」

冬樹「普通に歩いてても物にぶつかったり、けつまづいたりするタイプだよな。」

未唯「悪かったわね。」

冬樹「中学の時だっけ?
   電信柱にぶつかって倒したのは?」

未唯「なわけないでしょ!」
   わたしゃゴジラじゃないんだから・・・」

冬樹「でも何かそういうの、あっただろ?」

未唯「あれは・・・
   工事現場の立て札だよ。
   立ち入り禁止とかいうやつ。」

冬樹「それだって普通の人じゃあり得ないと思うけどな。」

未唯「もう!
   私がそういう恐がりプラスドジな人であるのを知りながら、どうして先に来たあんたは電気の1つもつけててくれないのよ。
   このポケモン!」

冬樹「ポケモン?」

未唯「人でなしと言いたかったの!」

冬樹「星崎のセンスにはついていけねえよ。」

未唯「じゃあモスラ。」

冬樹「はあ?」

未唯「ピグモン。
   キングギドラ。
   ヒドラ。
   プラナリア。」

冬樹「だんだん人から遠くなるな。」

未唯「あんたのやったことは、それくらい人の道を外れてんのよ。
   このプラナリアめ!
   何か言いたいことがある?」

冬樹「・・・星崎が本当に来てくれるとは思わなくて。」

未唯「何それ?
   冬樹君から誘って来たくせに。」

冬樹「俺が?」

未唯「とぼけないでよ。
   今年も部室でクリスマスパーティーやるから、卒業する前の思い出に一緒に行こうって、電話くれたんじゃない・・・
   あれ、電話だったっけ?」

冬樹「あ、ああ、そうだよな。
   俺が誘ったっつーか・・・」

未唯「他の子も来るんでしょ。
   しいちゃんとか、まーくんとか、たえことか。」

冬樹「・・・」

未唯「何ぼうっとしてんのよ。
   私、1、2年の子も来るのかって、聞いてんだけど。」

冬樹「あ、ああ、ごめん。
   1、2年も来ると言うか、どっちかっつーと俺たちが押しかけて来たようなもんだ。
   とうに引退してるわけだし。
   それで俺が話をかぎつけて、星崎にも声を掛けてやったというわけだ。」
   
未唯「ふうん。
   じゃあ、もしかしておじゃま虫ってわけね。」

冬樹「そうは言ってねえよ。」

未唯「アホ。
   あんたもだよ。
   引退した人間が、こういう時だけノコノコやって来ても良かったのかなあ?」

冬樹「お前、何か妙に被害意識持ってねえか?」

未唯「電気を全部消されてた恨みは、簡単には晴れないからね。」

冬樹「わかったよ。
   謝るからさ。
   俺が悪かったです。
   ごめんなさい!
   いい加減機嫌直せよ。」
   
未唯「しょうがない。
   許してやるか。」

冬樹「ふう・・・
   しっかし冷えるな。
   こんなストーブじゃ、間に合わないぜ。」

未唯「そう?」

冬樹「星崎、お前・・・」

     見ると未唯は上着すら着ていず、しかも半袖の夏服姿だ。
     冬樹は(寒くないのか)という言葉を飲み込む。

未唯「何?
   私の顔に何かついてる?

冬樹「あ、いや、ごめん。
   つい、見とれちまった・・・」
   
未唯「ヤーダ、もう!(冬樹を強くたたく)
   冗談なんか言っちゃって。」

冬樹「お前なあ・・・
   さっきからもうちょっと手加減しろよ。」

未唯「いいの。
   男はたたかれてナンボだから。」

冬樹「どういう理屈だよ。」

未唯「あー、でも良かったー。
   真っ暗だったから、本当にパーティーあるのかって、不安だったよ。
   ホント、ムチャクチャ恐かったんだから。」
   
冬樹「オシッコ、チビんなかったか?」

未唯「バカ。」

冬樹「そう言や・・・(笑いを押し殺している)」

未唯「あー。またヤなこと考えてるな。」

冬樹「お前、小学校でおもらししたことあったよな。」

未唯「忘れろ。」

冬樹「いや、あれはまだ昨日のことのように鮮明に覚えてるな。」

未来「しょーもないこと覚えてる頭があったら、英単語の1つでも覚えなさいよ。」

冬樹「ヤバイ・・・
   俺の方がトイレに行きたくなって来た。」

未唯「ダメだよ!
   ここ、1人じゃ怖いからね。」

冬樹「ほっときゃしねえよ。
   お前ホントに怖がりなんだな。」

未唯「だって怖いものは怖いのよ。
   私、お化けとか宇宙人とか、死んでも会いたくないもん。」

冬樹「何でそこで宇宙人が出て来るんだよ。」

未唯「心理テストでさ、夜道で出会うのどちらが嫌ですか、っていうのがあった。」

冬樹「へえ。
   星崎はどっちなんだ?」

未唯「どっちも嫌。」

冬樹「そんな答アリかよ。」

未唯「だってさ、お化けはもちろん怖いでしょ。
   だけど宇宙人だって恐いんだよ。
   宇宙船に連れ込まれて・・・
   やめて、やめて!・・・
   キャーッ!」

冬樹「お前何想像してんだよ。」

未唯「体中のいろんなトコを改造されるんだよ!」
   私もうオヨメに行けなくなっちゃう!・・・
   何言わせんのよ、嫌らしいなあ、もう!」

冬樹「想像してるお前の方がよっぽど嫌らしいよ。」

未唯「世界中には、密かに宇宙人に改造されちゃった人がたくさんいるんだよ。」

冬樹「信じるなよ、そんなの。」

未唯「あ、じゃあさ、お化けはいるよね、絶対。」

冬樹「・・・どうだかな。」

未唯「冬樹君はどっちが嫌?
   お化けと宇宙人。」

冬樹「俺か?
   俺は・・・
   宇宙人かな。」

未唯「ほらやっぱ、改造されるの怖いんじゃん。」

冬樹「いやそうじゃなくて、何か不気味だろ?
   宇宙人って。」

未唯「宇宙人の方か・・・
   宇宙人ね・・・
   お化けは平気なの?」

冬樹「お化けはもともと人間だろ。
   かわいい女の子のお化けなら会ってもいい。」

未唯「何それ?
   スケベ丸出し。」

冬樹「出来たら巨乳でお願いします。」

未唯「さすがむっつり。」

冬樹「あ、後、25歳以下独身に限ります。」

未唯「一生やってろ。」

冬樹「で、どうよ?」

未唯「どうって?」

冬樹「心理テストの結果だよ。」

未唯「ああ。
   えっとね、あなたが友情と恋愛のどちらを重視するかというテストです。
   お化けを選んだ人は恋愛で、宇宙人が友情だったかな。」

冬樹「じゃ、俺友情重視か。」

未唯「ちょっと待って。
   逆だったかも知れない。」

冬樹「まあ、どっちでもいいけど。
   星崎は両方か?
   何か都合良すぎるんじゃねえの?
   両方って。」

未唯「良くないよ。
   最悪じゃん、友情も恋愛も両方なんてさ・・・」

冬樹「うう・・・(股間を押さえて苦しんでいる)」

未唯「人が友情か恋愛かという話をしてる時に、みっともない格好しないでくれる?」

冬樹「お前のために我慢してるんだろうが。」

未唯「他の子が来るまで我慢出来ない?
   
冬樹「もらしても・・・
   よろしければ・・・」

未唯「わかったよ。
   トイレ行って来て。」

冬樹「怖いんだったら一緒に行くか?」

未唯「ヤダ。
   冬樹君待ってる間が怖いじゃん。」

冬樹「ならトイレの中までついてくりゃいいだろ。」

未唯「いいよ、もう。
   早く行って来て。」

冬樹「はいはい。」

未唯「マッハで帰って来んのよ。」」

     冬樹、生理現象に苦しみながら、入り口でためらい、未唯に声を掛ける。

冬樹「絶対よそに行くんじゃねえぞ。」

未唯「行かないよ。」

     冬樹が出て行く。

未唯「外は怖いっつってんのに、行くわけないじゃん、全く。」

     未唯は部屋の中を観察して、ツリーの横に置いてある写真立てを手に取る。
     写真を確かめると何かを悟ったかのように、大きくため息をつく。

未唯「やっぱりね・・・
   いつの写真よ、これ・・・」

     それを元に戻して、散らかり放題の棚の下段を見ようとしゃがみ込んだ所に冬樹が戻って来る。
     ちょうど冬樹の目の死角に未唯がいる。

冬樹「星崎!」

未唯「何よ、大きな声出して。」

冬樹「いたのか・・・」

未唯「よそに行きゃしないわよ。
   あ、廊下の電気消してないでしょうね。」

冬樹「トイレまではつけといたよ。」

未唯「少しは学習したようね。
   だけど、どうせなら入り口からずっとつけて来りゃ良かったのに。」
   これから1、2年が来るんでしょ?」

冬樹「すぐ帰って来いって、言ったじゃないか。」

未唯「へりくつ言わないの・・・
   ところでさ、今何時?」

     冬樹、携帯電話で時刻を確かめようとするが

冬樹「あ、ごめん。
   電池切れだ。

未唯「役に立たないなあ・・・(自分の携帯電話を出して確かめる)
   みんな来るの遅くない?
   もう6時半になるんだけど。」

冬樹「そうか?
   約束は7時だろ。」

未唯「え、ウソ?
   6時半って冬樹君が言ったんだよ。」

冬樹「いや、7時だよ、7時。」

未唯「じゃあ、私の勘違い?・・・
   それとも、冬樹君私にウソを教えた?」

冬樹「・・・そんなこと、するかよ。」

未唯「今、ちょっと考えたでしょ。
   やっぱウソついてたんじゃないの?」

冬樹「いや、ウソをついた覚えはないけど・・・
   もしかしたら、間違えて伝えたかも知れないな。」

未唯「しっかりしてよ!
   真っ暗ん中、必死で来たんだよ、私。」

冬樹「だから、それは謝るよ。」

未唯「あれ?
   冬樹君は7時って知ってたんだよね?」

冬樹「ああ。」

未唯「じゃあ、何でこんな早くから来てたの?」

冬樹「早く来たっていいだろう。」

未唯「えー、おかしいよ。
   いつもは遅刻魔のくせに。
   何かたくらんでない?」

冬樹「違うって。」

未来「先に来て、隠れててワッ!とやろうとしてたとか。」

冬樹「俺はガキかよ。」

未唯「わかった!
   時間間違えたんでしょ。
   あっちゃー、1時間早く来ちゃったー、とか。」

冬樹「そのキャラはお前だろ?」

未唯「ひっどーい。」

冬樹「天性のドジだからな、星崎は。」

未唯「何よー。
   もう頭に来た。
   遅刻の帝王って呼ばれてるくせに。」

冬樹「誰がそんなこと言ったんだよ。」

未唯「冬樹君とこの担任。」

冬樹「うっ・・・」

未唯「1学期だけで3回も親呼ばれたんだって?」

冬樹「なぜそれを知ってるんだ?」

未唯「私、あの先生に言われたんだよ。
   星崎さん、椎野に遅刻しないように言ってくれって。
   私に言われたってさ。」

冬樹「関係ねえよな。」

未唯「でしょ。
   あの先生さ、私たちが付き合ってるとでも思ってるみたい。」

冬樹「マジかよ。」

未唯「ホント困るよね。
   そういう勘違いって・・・
   冬樹君?」

冬樹「え、何?」

未唯「今何か考え事でもしてた?」

冬樹「いや別に。」

未唯「今日何かおかしくない?」

冬樹「いや・・・
   つーか、寒いんだよ、マジで。」

未唯「キャーッ!」

     未唯、突然悲鳴を上げて冬樹の後ろに回り込む。

冬樹「な、何だ?」

未唯「ゴキブリ!・・・」

冬樹「え、どこ?」

未唯「あっち、逃げた。」

     冬樹、かがんで未唯の示す方を探す。
     未唯は冬樹のコートをつかんで後ろから離れない。

冬樹「おい!(引っついてちゃジャマだろ)」

未唯「ゴキブリ大嫌いなんだもん。」

冬樹「俺だって好きじゃねえよ!」

未唯「男でしょ!
   絶対捕まえて。」

冬樹「よーし。」

     冬樹、棚の下段にあった昔の台本を持つと、さらに前屈みになってゴキブリを逃がすまいという姿勢をとる。

冬樹「ホントにいたのか?」

未唯「ホントだって・・・
   キャーッ!」

     未唯背後から冬樹を突き飛ばす。
     無様に頭から床に激突する冬樹。

冬樹「いってえ・・・」

未唯「ホラ、あっちよ、あっち!」

     冬樹、態勢を立て直すと、ペシッと台本で床を叩く。
     見事にゴキブリを捕獲したようだ。

未唯「取れた?」

冬樹「バッチシ。」

未唯「その下にいるのね・・・
   ちょっとどいてくれる?」

冬樹「ああ。」

     未唯、ファイティングポーズをとると、女子プロレスラーのように気合いを入れ、かけ声とともにゴキブリ入りの台本を踏みつけたり、グリグリとすりつぶそうとしている。
     
冬樹「あのう・・・
   星崎?」

     未唯、手を休める。
     吐息が荒い。
     と、まるで貧血を起こした美少女のように、よよとその場に崩れ落ちる未唯。
     冬樹、あわてて近寄り、未唯が無事かどうか確かめようと、指でつつく。

冬樹「お、おい、星崎!」
   大丈夫か?」

未唯「ちょっと。
   どさくさに紛れてどこ触ってんのよ、エッチ!」

冬樹「いや、ホント、大丈夫なのか?
   急に倒れたりして。」

未唯「演技に決まってるじゃん。
   大丈夫だから気易く触らないでよ。

冬樹「何だよ・・・
   一瞬でも心配して損したな。」

     冬樹、未唯を軽く蹴り飛ばす。

冬樹「オラ、起きろ!」

未唯「ひっどーい。
   か弱い女の子に何すんのよ!」

冬樹「ウソつけ・・・
   ところで、あれどうするよ?」

未唯「あれって?」

冬樹「星崎が潰したゴキブリ。」

未唯「ああ、あれね・・・
   かわいそうなゴキブリちゃん・・・
   合掌。」

冬樹「おい!・・・
   ホントどうするよ?
   床にゴキブリの汁がついてるぞ、きっと。」

未唯「冬樹君、処理しといてね。」

冬樹「お前、たたられるぞ、ゴキブリに。」

未唯「さっき私の変なトコに触った罰だよ。」

冬樹「変なトコなんか触ってねえよ!」

     冬樹、嫌々ながら散乱した台本で、惨殺されたゴキブリの亡骸を包み取り上げる。

冬樹「こんなことなら、他のトコ触っとくんだったな。」

未唯「残念でしたー。」

冬樹「これさあ、去年の大会の台本なんだけど。」

未唯「ごめんね、台本さん。」

冬樹「やれやれ。」

     冬樹、台本とゴキブリの惨死体をゴミ箱に捨てに行く。
     未唯は、棚の下段をのぞき込んで

未唯「うわ!
   まだたくさん残ってるよ、去年の台本。」

冬樹「確か50部作らされたからな。」」

未唯「そうそう。
   今年は県大に行くぞ!
   って先生張り切っちゃってさ。」

冬樹「県大に行ってから考えりゃ良かったのにな。」

未唯「ねえ。
   何で先生があんなに張り切ってたか、知ってる?」

冬樹「さあな。」

未唯「冬樹君がいたから。」

冬樹「んなことはねえだろ。」

未唯「ホントだって。
   私部長だったから先生から聞いてたんだ。
   『今年は椎野がやる気になってるから、有望だぞ。』って。」

冬樹「え?
   何で俺が?」

未唯「そりゃあ貴重な黒一点だったから。」

冬樹「松崎だっていただろ。」

未唯「まーくんは1年だし、裏方専門だったから。
   男が1人舞台に出るだけで違うんだって、先生言ってたよ。」

冬樹「何だかな・・・
   星崎にうまくだまされたよ。」

未唯「えー?
   何か人聞き悪いんだけど。」

冬樹「一番始めは、宿題見せてやるから、木を切るの手伝ってくれって言われたんだよな。」

未唯「だましてないじゃん。
   1年の夏休みの宿題、全部見せてあげたでしょ。」

冬樹「いや、まあ、それは感謝してるよ。」

未唯「それだけじゃないよ。
   冬樹君、追試受からないで出された課題まで私にやらせたじゃない。
   しかも、国数英全部!」

冬樹「今思えばあれもはめられたよ。」

未唯「また人聞きの悪いことを言う。」

冬樹「国語はバレてたんだよな。
   教科担は顧問の先生で。」

未唯「そりゃあバレバレだったかもね。
   私の字だって。」

冬樹「だろ?
   で何て言われたと思う?
   見逃して欲しかったら、次の劇で役者をやれって。
   嫌なら課題の量を百倍にするぞって。」

未唯「そりゃ不可能だわ。」

冬樹「ミッションインポシブルかっつうの・・・
   なあ正直に言えよ。
   お前先生とグルだっただろ、あれ?」

未唯「バレたか。」

冬樹「たく。」

未唯「でも楽しかったでしょ、お芝居やるの。」

冬樹「まあな。」

未唯「1年ときは部活だけやりに来てたような日もあったよね。
   放課後だけ来たりとか。」

冬樹「そうだな。
   正直な所、俺1学期で学校やめようかと思ってたもんな。」

未唯「やっぱそうだったか。」

冬樹「俺勉強苦手だから、お前と同じ高校に受かったのが不思議なくらいだもんな。
   授業受けてて、来る学校間違えたと思ったよ。」

未唯「クラブに入って良かったでしょ。」

冬樹「まあな。」

未唯「宿題も全部、見せてあげてるし。」

冬樹「恩着せがましく言うなよ。」

未唯「私さ、やっぱ冬樹君に学校やめて欲しくなくって。」

冬樹「お前には関係ねえだろ。」

未唯「私にそんなこと言われるの嫌?・・・
   でもでも・・・
   小学校からずっと一緒だし・・・」

冬樹「ごめん。
   言い方悪かったな、俺。」

未唯「いいよ・・・
   部活の方もすごくやる気にになってくれて、うれしかったよ、私。」

冬樹「そりゃやっぱ星崎がな・・・」

未唯「え?
   私が?
   何?」

冬樹「いや、星崎もすごく頑張ってただろ。
   だから・・・」

未唯「でしょ!
   私、部活であんな一所懸命になれるとは思わなかったな。」

冬樹「俺もだ。」

未唯「何と朝練までやったりして。」

冬樹「そうそう。
   やったよなー。」

未唯「冬樹君、おかげであの時だけは学校遅刻しなかったよね。」

冬樹「ま、その気になりゃ何でもできるってことだな。」

未唯「また調子にのって。
   みんなが集まる時間に来たことなんかなかったじゃん。」

冬樹「朝7時に学校ってのは、さすがにな。」

未唯「だから迎えに行ってあげようって言ったのに。」

冬樹「そりゃやっぱ、周りの目とかあるしな。」

未唯「今だから言うけど、私冬樹君のお母さんから頼まれてたんだよ。
   起こしに来てあげて、って。」

冬樹「え、マジか?」

未唯「うん。
   私が起こしてもすぐ寝ちゃうからって。」

冬樹「くそ!
   余計なことしやがって・・・」

未唯「ま、小学校と違うから、私もちょっと気が引けてたんだけど。」

冬樹「星崎も俺みたいな不良とうわさになっちゃ嫌だよな。」

未唯「そんなことはないけど・・・
   あ、でも部活で遅くなったら送ってくれたよね。」

冬樹「そりゃま家近くだもんな。」

未唯「何か小学校以来だから照れちゃったよ。」

冬樹「バカ言え。」

未唯「冬樹君にも優しい所があるんだって・・・
   ちょっとうれしかったな。」

冬樹「まあ万一ってこともあるからな。
   昼間じゃ考えられねえけど。」

未唯「何が考えられないのよ!」

冬樹「暗いと間違えて襲われるかも知れないだろ。
   制服だしな。」

未唯「あー、失礼な・・・
   でもね、でもね、この制服ってカワイイよね。
   私なんかさ、初めてこれ着たとき、鏡見てから
   『キャー、私カワイイ!襲われちゃったらどうしよう?』
   ってマジで思ったもん。」

冬樹「はは。
   確かに制服はな。」

未唯「ひっどー・・・
   もうこの制服も着れなくなると思うと、さびしいな・・・」

     冬樹、黙って未唯を見ている。

冬樹「・・・お前とは腐れ縁だよなあ。」

     間

未唯「寂しくなるね。」

冬樹「何が?」

未唯「もう口げんかする相手もいなくなると思うとね。」

冬樹「星崎・・・」

未唯「卒業だもんね。
   もう会えなくなるかも知れないよね。」

冬樹「わかんねえだろ!
   そんなことは。」

     間

未唯「みんななかなか来ないね。」

冬樹「7時って言や7時きっかりに来るんじゃねえの?
   あいつらのことだし。」

未唯「そうだね・・・
   部屋の片付けとかしとく?
   パーティーやるって言っても、これじゃあね・・・」

冬樹「星崎。」

未唯「何?
   怖い顔して。」

冬樹「いや、やろう。
   部屋の片付け。」

未唯「変なの。」

     2人で部屋の片づけを始める。

未唯「あ、見てこれ。
   写真がいっぱい出て来た。」

冬樹「いつのだ?」

未唯「あ、これダメ!」

冬樹「何隠してるんだ?」

未唯「これ、私写ってるから。
   1年の文化祭の時の。」

冬樹「だったら俺も写ってるだろ。
   見せてくれ。」

未唯「ヤダ。
   はずかしいもん。」

冬樹「そうやって隠されると、かえって見たくなるだろ?」

未唯「何それ?
   エッチ!」

冬樹「何言ってんだよ。」

未唯「スカートの中のぞきたがるヘンタイみたいだよ。」

冬樹「じゃ、いいよ。」

未唯「あー。
   ごめんね。
   見ていいよ、ホラ。」

冬樹「・・・こりゃ俺の方がはずかしいじゃん。」

未唯「冬樹君まだ髪が短かかったんだ。」

冬樹「中学校丸刈りだったからな。」

未唯「ホント私らの中学信じられないよね。
   未だに男子は丸刈りって、あり得ないよね、あの校則。」

冬樹「人権無視だよな。
   先生はムチャクチャ怖かったし。」

未唯「冬樹君、よく遅刻して殴られてたよね。」

冬樹「あれで俺ますます頭が悪くなったんだ。」

未唯「何言ってんだか・・・(写真を見て)
   冬樹君、カワイイ・・・」

冬樹「おい、寄こせ!
   処分しよう、これは。」

未唯「え~、ダメだよう。
   思い出に残しておかなきゃ。」

冬樹「わかったよ。」

未唯「ふふ、カワイイ・・・」

冬樹「星崎も昔はまだかわいげがあったのにな。」

未唯「あ、それひどいなあ。」

冬樹「俺達いつから知ってるんだっけ?」

未唯「小学校入ってからだよ。
   よく泣かされたよね。」

冬樹「何言ってんだ。
   泣かされてたのは俺の方だ。」

未唯「えへへ、そうだった・・・」
 
冬樹「俺、ずっと小っちゃかったからな。」

未唯「そうだよね。
   中学入って急に背高くなったよね。」

冬樹「男はそういうもんだろ。」

未唯「私なんか中1で成長止まっちゃったからね。」

冬樹「ふうん。
   胸も?」

未唯「バカ。」

冬樹「ごめん。」

未唯「あるわよ。
   少しは。」

冬樹「ははは。」

未唯「笑うなー!」

     未唯、向こうを向いている。

冬樹「星崎、ごめん。
   俺調子に乗って変なこと言っちゃったな。
   怒らないでくれ。」

未唯「怒っちゃいないよ。」

冬樹「え?」

未唯「恥ずかしいんだよ・・・」

冬樹「・・・片づけようぜ。」

未唯「ねえ、やっぱ片づけないでおこうよ。」

冬樹「何だよ、もう疲れたのか?」

未唯「そうじゃなくて、このまま残しておきたくなったんだ。」

冬樹「この汚いのをか?」

未唯「だって思い出がいっぱい詰まってるんだもの。」

     未唯部屋の中を見て回りながら

未唯「ホラ、この棚の中とかさ・・・
   この壁の落書きは冬樹君が書いたんだよね?・・・
   ここは私が転んでへこました所だし・・・
   ここは冬樹君がタバコでこがしちゃった所・・・
   このままタイムカプセルに入れて永久保存しときたいよ。
   そう思わない?」

冬樹「俺は嫌だな、そういうの。」

未唯「このまま時間が止まればいいのになー。」

冬樹「星崎・・・
   ふう、マジ寒くてそんな気分じゃねえよ。」

未唯「ねえ、今日雪降らないかな?
   ここから見えるホワイトクリスマス。
   最高じゃない?」

冬樹「お前今日はやけにロマンチストだな。」

未唯「だってもうここに来るの最後かもしれないんだよ。」

冬樹「・・・最後なんて言うな。」

未唯「私今日部室に来て良かったよ。
   冬樹君のおかげだな。」

冬樹「そう言ってもらえるとありがたい。」

未唯「ねえ、ツリーの飾り付けとかしないの?」

冬樹「他の連中が来たらやればいいと思ってた。」

未唯「やっちゃおうよ。
   どうせヒマだし。」

     2人で飾り付けを始めるが冬樹には気になる物がある。
     ツリーの横に置いてしまった写真立てだ。
     冬樹はスキを見て写真立てを隠す。

未唯「今、何か・・・」

冬樹「ホラホラ休んでないで・・・」

未唯「隠さなかった?」

冬樹「何言ってんだ。
   気のせいだよ。」

未唯「・・・何だかさびしいパーティーだね。」

冬樹「いや、だから、これからいろいろ持って来るんだよ。」

未唯「1、2年が?」

冬樹「ケーキだけは俺が持って来た。」

     冬樹、ケーキを取り出して机の上に置く。

冬樹「みんなが来るまで待つつもりだったんだけど。」

未唯「小っちゃいね・・・
   あ、ゴメン。」

冬樹「たく。
   星崎は色気より食い気だな。」

未唯「まあ失礼。
   あ、でもこれ○○○のケーキじゃない?
   私、ここのケーキ好きなんだ。」

冬樹「ローソクだけはでかいんだ。」

未唯「ねえ、他の子たちちょっと遅すぎない?」

冬樹「買い物に時間掛かってんだろう。」

未唯「でももう7時になるんじゃない?」

冬樹「星崎。」

未唯「何?
   又怖い顔して。
   ホント今日変だよ、冬樹君。」

冬樹「ごめん。
   誰も来ないよ。」

未唯「え?」

     間

未唯「ウソ。
   部室でクリスマスパーティーって・・・」

冬樹「みんなで、とは言ってない。」

未唯「7時に集合じゃないの?」

冬樹「ゴメン。
   それもウソだ、全部。」

未唯「何で?
   何でウソなんか・・・」

冬樹「星崎が帰ってしまうんじゃないかと思って。」

未唯「じゃあさ、もしかして私と冬樹君の2人だけ?
   それってヤバくない?」

冬樹「すまない。
   だますつもりじゃなかったんだ。
   本当に星崎が来てくれるとは思ってなくて。」

未唯「何でえ?
   ヤバイよう。
   私そんなつもりで来たんじゃないよ!」

冬樹「帰るのか?」

未唯「もう、外真っ暗だよ。
   1人じゃ帰れない。」

冬樹「星崎!
   お願いだ。」

未唯「何よ。」

冬樹「俺のこと嫌いじゃなかったら、もう少しここにいてくれないか。」

未唯「・・・嫌いじゃないよ。」

冬樹「軽蔑してる?
   俺のこと。」

未唯「そうだね。」

冬樹「やっぱり。」

     間

未唯「ねえ、もしかして襲おうとしてる?
   私のこと。」

冬樹「まさか。」

未唯「まさかとは何だ!
   まさかとは!」

冬樹「ああ、ゴメン、つい・・・」

未唯「私やっぱり帰る。」

冬樹「待ってくれ!」

未唯「送ってくれなきゃ帰れないよ。」

冬樹「じゃあ送ってやらない。」

未唯「いて欲しいの?」

冬樹「ああ。」

     間

未唯「あのさあ。」

冬樹「何?」

未唯「襲ってくれてもいいんだけど。」

冬樹「はは。
   何言ってるんだか。」

未唯「又そうやって冗談ですまそうとするんだね。」

     未唯と視線を合わせることが出来ずオドオドしている冬樹。

未唯「こんな手の込んだことまでして、バカじゃないの?
   まさか、私に言わせるつもりじゃないよね。
   ずるいよ、冬樹君。」

冬樹「星崎。
   好きだ。」

未唯「えっ?」

冬樹「ずっと好きだったんだ。
   だけど、なかなか言い出せなくて・・・   
   俺と付き合ってくれ。」

未唯「・・・ありがとう。」

冬樹「星崎。」

未唯「名前で呼んで。」

冬樹「未唯。」

未唯「うれしい・・・」

冬樹「おい、泣くなよ、未唯。」

未唯「どうして?・・・
   どうして、もっと早く・・・」

     未唯すばやく動く。
     冬樹は金縛りにあったかのように動けず、腰が抜けて床に座り込んでしまう。
     未唯は冬樹が隠した写真立てを見つける。

冬樹「ダメだ・・・
   見ちゃダメだよ、未唯。」

未唯「もういいの。
   ホントはさっき見ちゃったから。」

冬樹「何だって?・・・
   わかってたのか?
   未唯。」

未唯「うん。」

冬樹「今までゴメンよ、未唯。」

未唯「ううん・・・
   本当にありがとう、冬樹君。」

冬樹「未唯・・・」

未唯「この写真、私だよね・・・
   今の私と同じ、クリスマスなのに夏服なんか着てる・・・   
   だって夏休みだったんだもの。
   久しぶりに部活をのぞきに来たら、偶然冬樹君も来てて・・・
   一緒に帰ろうと思ったんだ。」

     冬樹、床にしゃがみ込み顔をおおって泣くのをこらえている。

未唯「なのに冬樹君、どんどん先に行っちゃってさ。
   車の通る道もさっさと1人で渡っちゃって・・・
   私も『待ってー』って通りを渡ろうと思ったんだ。
   そしたら私ドジだから車道で転んじゃって・・・
   そこへ、スピードを出した車が・・

     急ブレーキの音。
 
冬樹「未唯!」

未唯「私・・・
   死んでるんだよね・・・
   寒い・・・
   寒くなって来たよ、冬樹君・・・
   ねえ、腰抜けちゃったの?
   だらしないなあ。
   今度は冬樹君が助けてくれる番だよ。
   寒いよう・・・
   助けてよう・・・」

     冬樹、未唯に近寄り抱きしめてやろうとする。
     照明が完全に落ちる。
     未唯がいなくなった室内で呆然としている冬樹。   
     ふと外を見ると雪が降り始めている。   

冬樹「今頃になって降って来やがったか・・・」

     外で大きな物音がする。

冬樹「未唯!
   ・・・気のせいか・・・」

     冬樹、ふと目に入ったタバコの箱からタバコを1本ずつ取り出してちぎってはゴミ箱に捨てる。

冬樹「くそう!
   くそう!・・・」

     冬樹はテーブルに伏せてしまい、辺りが暗くなると、奇跡が起こる。
     ふと見ると、未唯が使われなかったケーキのロウソクに火をともしている。
     結ばれなかった恋人同士を哀れんで、神様が最後に使わしてくださったのか。

未唯「冬樹君。
   メリークリスマス。」

冬樹「!!!」

     暗がりにローソクの炎が美しく立ち上る。
     外では雪がしんしんと降り続いている。
     まるで全ての悲しみを浄化するかのように。
     幸せそうに微笑む未唯。
     冬樹は泣いているのだろうか。
     伝えられなかった想いを胸に。
     聖夜に起きた一夜限りの奇跡。
     ラストクリスマス。

     ~おしまい~





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夕陽のあたる教室

「夕陽のあたる教室」  中島清志 作  (上演時間55分)    

〔キャスト〕♀1人 ♀ 鈴木美奈・・・高校3年生・アニメ部(らしい)・母子家庭(らしい)

☆高校を中退することになった美奈は、夏休み野球の応援で誰もいない学校に、自分の荷物を取りに来ますが・・・
2005年度高校演劇南関東大会において、千葉県立津田沼高校様の上演が優秀賞を受賞。

ダウンロード(pdf)はこちら

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15分1人芝居「ゴトーくん」

15分1人芝居「ゴトーくん」 ゴルゴ40(フォーティー)作


【登場人物】♀1人 

      ♀ 北大路綾・・・(高校演劇部員)
     
      
     舞台上には北大路綾が1人。
     観客席にいる1人の男子高校生を見ると、舞台を下りる。

「あーっ!
 ゴトーくーん!
 やっぱり来てくれてたんだー
 うれしいなー。」

     彩、ゴトーくんを引っ張って舞台に上げる。

「ねえ、ゴトーくん。
 え?
 ゴトーくんでしょ?君。
 え、違う?
 あ、いいのいいの、ゴトーくんでさ。
 だって私、ずっと待ってたんだよ。
 昔からお芝居で待たせる役の人って、ゴトーに決まってるじゃない?
 だから、芸名ってことでいいから、ゴトーくん。
 え?
 下の名前?
 そんなのどうでもいいよ。
 ピョン吉でも、Q太郎でも、好きなのにして。
 とにかくさ、ゴトーくん。
 私、ホントに、ずっとずっと待ってたんだよ、君のこと。
 ありがとう!
 ゴトー君。」

     彩、ゴトーくんの手を両手で固く持つと、うやうやしくお辞儀している。

「あ、あのね・・・
 私、ゴトー君のこと、昔からずっとあこがれてて・・・
 うん。
 草場の陰からじっと見守ってたんだよ。
 え?
 草場の陰はヤバイって?
 もう!
 細かいこと気にしないでよ、ゴトーくん。」

     彩、両手で握り締めたゴトーくんの手を胸に押し当てると

「私の、この胸に溢れる想いを、どうか受け取ってください!」

     本当に胸に当たる寸前で、パッと両手を離す。

「なーんちゃって。
 そんなわけないよね。
 今始めて会ったのにさ。」

     舞台を下りようとするゴトーくんを、彩はあわてて呼び止める。

「ちょっと待ってよ!ゴトーくん。
 そんなさめた目で見ないで!
 私のこと、変な子だなって思ってるでしょ。
 悲しいよー。
 こんなにゴトーくんのこと思ってるのに・・・
 もう私、ゴトーくんから冷たくされたら生きて行けないんだから!
 この舞台で、ぜーんぶ服を脱いで、舌を噛んで死んでやる!
 え?
 何で服を脱ぐのかって?
 やだなあ、サービスだよ、サービス。
 高校演劇だからって馬鹿にしないでよ。
 私、脱いだらすごいんだからね。
 あ、いや、だから行かないでよ、ゴトーくん!
 今君に行かれたら、私ここでストリップしなきゃいけないんだよ。
 それでもいいの?
 この、鬼!ヘンタイ!セクハラおやじ!
 うちの演劇部は廃部になって、この会場は以後永久に使用禁止。
 校長先生がテレビに出て、まさかあの生徒があんなことするなんて思いもしなかった、とかわけのわかんない弁明する羽目になるんだよ。
 そうよ。
 始めから大人しく言うこと聞いてりゃいいの。
 そしたら、このくらい見せてあげるからさ、ホラホラ。(スカートを少しめくって見せる)
 え?
 別に見たくない?
 オイ、コラ!
 黙って聞いてりゃ、ぶっ殺されてえのか?てめえ!
 私のフトモモはよ、チラッと見るだけで、えーと、15万円くらいの価値があるんだよ。
 え?
 セコイ?
 そりゃ私だってホントは百万円くらいって言いたかったんだけどよ、そりゃさすがにボッタクリだからな・・・」

     彩、つきものが落ちたかのように、急にニッコリと笑うと

「あの、ゴトーくん。
 今のはホントの私じゃないから、誤解しないでよね。
 私、演劇部の北大路綾って言うんだけど・・・
 え?
 私、演劇部だって知ってるの?
 ねえ、どうして?
 今始めて会ったんだよね、私たち。
 もしかしたら、ゴトーくんと私、目に見えない赤い糸でつながってるのかも知れないよ。
 ほら、ここに赤い糸がさ・・・」

     彩、指を見せると、2、3歩ゴトーくんから遠ざかって行く。

「あっ!!・・・
 切れちゃった・・・
 切れちゃったよ、赤い糸。
 ゴトーくんがついて来てくれないから・・・
 ねえ、責任取ってくれるんでしょうね?
 いや、結婚してくれ、なんて言わないけどさ。
 とりあえず、演劇部に入部してくれるよね?」

     彩、ハッと何かに気付いたかのように手を打って

「あ、そっか!
 ゴトーくん、今演劇部の公演見に来てくれてたんだ。
 だから私が演劇部員だって、わかったわけね。
 さすがだわ。
 君のように優秀な頭脳の新入部員をさがしてたのよ。
 演劇部、入ってくれるでしょ?
 えー、どうしてえ?
 こんな所に来てるってことは、君相当ヒマってことだよ。
 え?
 まさかゴトーくん、他の部に入ってるとか・・・
 それはあり得ないことだよ、ゴトーくんに限ってさ。
 だって、何しろゴトーって名前なんだからね。
 いや待ってよ。
 ゴトーは芸名だったか・・・
 あ、言わなくていいよ。
 当ててあげるよ、君が何部だか。
 芝居やる人間は観察が大切だから、雰囲気でわかるんだ、これホント。
 ズバリ君、柔道部でしょ?
 あの、モテないクラブナンバーワンと言われる柔道部・・・
 柔道部さん、ごめんなさい・・・
 え?違う?
 あ、じゃあ、アニメ部だ!
 何でって、君アキバ系の匂いがするんだけど・・・
 え?
 気のせい?
 じゃあ何よ・・・
 帰宅部の部長!?
 やっぱヒマなんじゃなーい!
 だったら入るしかないよ、演劇部。
 これからは演劇やってる男の子がモテるんだよ。
 ホントだって!
 ○×△□だって、▲■◎×だって、モテる男は、みんな俳優でしょ?
 大丈夫だよ。
 ゴトーくん程度でも、絶対モテモテだから。
 少なくとも演劇部には女子しかいないから、カワイイ子がよりどりみどりだよ!・・・
 ま、今の所、部員は私しかいないんだけどね・・・
 あ、待ってよ、ゴトーくん。
 ゴトーくーん!」

     舞台を下りるゴトーくん。
     彩は後を追いかけるが、途中で諦めて大きなため息をつく。
     舞台に戻ろうとするが

「あーっ!
 ヨシダくーん!
 やっぱり来てくれてたんだー」

     ~おしまい~
  

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15分1人芝居「告白」

15分1人芝居「告白」 ゴルゴ40(フォーティー)作 


【登場人物】♀1人 

      ♀ ナツキ・・・(高校3年生)
     
      
     高校の使われていない壊れたプールの裏である。
     ナツキがやって来る。
     同級生の男子を待たせていた様子。

「たっちゃん、ごめ~ん、待った~?
 って待ったよね?
 約束の時間10分も過ぎちゃってるし。
 え?
 20分は待ったって?
 何で、そんな早くから来てたの?・・・
 あ、ごめん。
 僕、自分から誘っといてヒドイこと言っちゃってるね。
 たっちゃんが、わざわざ早く来てくれたのに・・・
 うん、嬉しいよ。
 あ、でさ、遅刻の言い訳なんだけど、終礼中にケイタイ鳴っちゃってさ・・・
 え?
 うちのクラスおかしいんだって。
 担任があれじゃん。
 『受験生は余計なものを持ってくるな!』とか言って、ケイタイの持ち込み禁止なんだよ。
 うちのクラスだけ。
 も最悪。
 受験生だからケイタイが必要なのにね・・・
 いや、帰りに塾行って遅くなる日があるじゃん。
 まあ、たっちゃんとかまーくんとか、いつも一緒だからいいんだけどさ。
 実はそれが一番危なかったりして・・・
 ははは、冗談だよ、冗談・・・
 え、何?・・・
 たっちゃんがメールくれたのお?
 お前かー!
 犯人は。
 いや、すぐ没収されたから見てないよ。
 変なメールじゃないだろうね?
 え?
 4時にプールの裏って、確認を送ったって?
 あっちゃー。
 それ何か誤解されそうだよ。
 ほら(周囲を見回して)
 ここって誰も来ない場所だし・・・(しゃがんでタバコの吸い殻を拾う)
 不良がタバコ吸う所だもんね・・・(吸い殻を捨てる)
 あの先生、「これは誰からだ?」って聞きそうだもんね。
 そ。
 嫌なやつなんだから。
 まあたっちゃんと待ち合わせして、タバコを吸う約束だなんて思わないだろうけど・・・
 あ、もしかして、たっちゃんも誤解しちゃったかな?
 こう、あらたまって、2人だけで話がある、なんて言っちゃって。
 塾の帰りだと他の子もいるから、2人切りになれる場所って考えたら、こんな所になっちゃったんだ。」

     間

「あ、あの・・・
 僕たちって、昔から仲いいよね。
 家も近いし・・・
 てゆーか、僕が小学校の時転校して来てさ、みんなにいじめられてたの、たっちゃんがかばってくれたんだよね。
 あれ、すっごく嬉しくってさ・・・」

     間

「あー・・・
 思い切って聞いてみるんだけど・・・
 たっちゃん、僕のこと好きでしょ?・・・
 いや、幼なじみの、ただの友だちとしてじゃなくて・・・
 ホントのこと言って欲しいんだけど。
 その方が話が早いから。
 それに、ぶっちゃけ僕もたっちゃんのこと好きだし・・・
 うん。
 幼なじみとして以上にだよ。
 みんなだって、そういう風に見てると思うんだ。
 ははは。
 あれ、何だかアッサリコクッちゃった?僕。
 だから、たっちゃんもホントの気持ち聞かせて欲しいんだ。
 お願いだよ・・・
 うん。
 ありがとう。
 良かった。
 たっちゃんも僕と同じ気持ちだってわかってさ。
 でね、これからも同じように付き合って欲しいんだけど、いいよね?」

     ナツキ、少し引いている。

「ご、ごめんね。
 ちょっと待って。
 あ、いや、嫌じゃないんだよ、キスくらいさ・・・
 だけど・・・
 とっても嬉しいんだけどさ・・・
 い、今は、まだ、ちょっと・・・
 ごめん。
 僕、何言ってんだか、わかんなくなってるね。」

     間

「今日わざわざ呼び出して来てもらったのはさ、どうしてもたっちゃんに言っておきたいことがあって・・・
 あ、好きだってことじゃなくて・・・
 いや、きっとすっごくビックリすると思うんだ。
 でね。
 もしも、それを聞いた後でも、構わないって言うんだったらさ・・・
 うん。
 キスしよ。
 してもいいよ。
 あー・・・
 何だかやたら恥ずかしくない?
 何でこうなっちゃったんだろ?・・・
 じゃ、じゃあさ、言うよ・・・」

     ナツキ、耳打ちして重大な告白をしている。

「ね?
 ビックリしたでしょ?
 ウソじゃないよ。
 証拠だってあるからさ。
 あ、あの・・・
 ここ触ってみてくれる?
 うん。
 構わないから。」

     ナツキ、スカートの股間の部分を示している。  

「あるでしょ?
 わかった?
 女の子は、こんなもの持ってるわけないよね。
 僕さあ、転校して来る前はね、ずっと男の子だったんだ。
 いや、今でもカラダは男の子なんだけどね。
 ほら、胸だって全然ないし・・・
 そこで笑うなよ!
 もう・・・
 それに・・・
 余計なものついちゃってるし。
 たっちゃん、性同一性障害って、知ってるよね?・・・
 うん。
 僕それなんだ。
 だから、カラダは男の子でも、心の中は正真正銘女の子だよ。
 気持ち悪いかな?
 女の子なのに、ついててさ・・・
 ごめん・・・
 泣くつもりなんかなかったんだけど・・・
 もう卒業だから・・・
 たっちゃんにだけは、ホントのこと言っておきたくて・・・
 今はまだわかんないけど、将来は手術して取っちゃうつもりだよ。
 そしたらさ、ホルモンの具合がうまく行って、カラダの方も女の子になれるはずなんだ・・・
 だけど、今は・・・
 僕って、化け物みたいなもんだよね?
 そうでしょ!
 たっちゃん!・・・」

     「たっちゃん」に引き寄せられるナツキ。
     目を閉じて

「たっちゃん!?
 ありがとう・・・」

     ~おしまい~
     

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15分1人芝居「行列の出来る結婚相談所」

15分1人芝居「行列の出来る結婚相談所」 ゴルゴ40(フォーティー)作 

【登場人物】♀1人 
      ♀ 女・・・結婚相談所所長。33才独身。

☆依頼を受けて作ったオーダーメイド脚本。1人芝居としては面白いと思う。キャストを増やしたり、尺をのばしてもいいかな?と思われる。      
      
ダウンロード(pdf)はこちら


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プロフィール
HN:
ゴルゴ40
年齢:
60
性別:
男性
誕生日:
1963/12/06
職業:
高校英語教員
趣味:
脚本創作・詰将棋・競馬・酒・女・仕事
自己紹介:
 ここには高校演劇用の少人数で1時間以内、暗転のほとんどない脚本を中心に置いてあります。

 上演を希望される方は脚本使用許可願を使って連絡してください。無断上演は厳禁です。
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